第23話 大型クラブ討伐と味噌汁と
「魔法とは、すなわり切り札……はたして鬼が出るか? 蛇が出るか?」
魔法を使う者、魔法使いは窮地を脱する強烈な一撃を使う。
だが、それだけではない。
彼ら魔法使いの強みは、機転を利かせ、戦術的な知恵を発揮する点にもある。
魔法使いは、戦場において予測困難かつ変幻自在な存在であり、状況に応じて柔軟に対応し、相手を惑わせることで、戦闘の舞台を常に有利に進めることができるのである。
だが、そんなに凄い魔法の力。 魔法を使うのは人間だけではない。
同じ力を持った魔物もいるのだ。 特に強敵と言われる魔物には魔法攻撃を使って来る者が多い。
「――――ならば、この大型クラブもあるのだろう。魔法攻撃が!」
全身が魔力に包まれた『
対峙する景虎は警戒を強めて、距離を取る。
景虎はサムライだ。 無論、サムライの中でも魔法を得意とする者もいる。
「拙者がいた世界では、魔法を使う者を妖術師と呼んでいたが――――あいにく、拙者に魔法の力はなし……剣術で対処させてもらうでござるよ!」
有村景虎には魔法の才はない――――いや、あったのかもしれないが、それを不要とするのが有村の技だった。
それは代々、親から子に伝える相伝の技だからこそ……
魔法とは個人の才能に大きく左右される。 その個人の才を技術として組み込む事を拒否するのは当然なのかもしれない。。
そして―――――大型クラブの魔法が発動した。
「むっ!」と景虎は警戒を強める。
(どうやら、瞬時に強烈な魔法を放つ攻撃ではないようでだが……)
大型クラブは、魔力を泡に変換させて空中にばら撒いていった。
「魔力を泡に閉じ込めた爆破魔法? あるいは猛毒の効果を付加させたか?」
泡から脅威を感じ、景虎はさらに距離を取る。
彼には、毒を含めて状態異常を引き起こせる攻撃に強い耐性がある。
(どのような効果があるにしても、わざわざ受けてやる道理はない)
しかし、コメントの反応は逆だった。
『距離を取ったらダメ!』
『接近して魔法を潰さないと!』
『あの魔法の効果は――――』
『『『すっごい滑るよ』』』
「――――なに?」と景虎は反応に困った。 その意味はすぐに分かる事になる。
大型クラブの魔法。 複数の泡が地面に落ちると――――
「魔力が地面に浸透していく? まさか、地形に特殊効果を付加する魔法か?」
景虎の足元にまで魔法が届いた。
(殺意や悪意のある魔法なら反応もできた。だが、地形変化は――――)
その直後だ。コメントと同じ効果が起きた。
「なっ!」と景虎は立っているだけで足を滑らせた。 倒れるギリギリでバランスと取る。
体勢を低く、地面に片手をつく。
まだ戦いの最中だ。 大型クラブは接近してきている。
(なるほど、あの細い足……地面に突き立てながら歩いてるのか)
大型クラブの足は、まるで杭のようだった。
攻撃が飛んで来る。 大きな鋏が迫って来る。
防御。 刀で受けた。
「ぬっ! これは!」と景虎は驚く。
足の踏ん張りが効かない。 攻撃の衝撃。景虎の体は後方に滑っていく。
「なるほど、こうやって敵を壁に叩きつけるわけでござるな!」
壁とぶつかる直前、刀を地面に突き立てる。 それで体の動きを止めれるはずもない。
その常軌を脱した切れ味のため、刀は地面を切り裂いていく。
「けど、これで十分でござる!」
重心の全てを刀に乗せる。 腕力――――腕の力のみで景虎は刀を手にしたまま飛び上がる。
垂直の壁に両足で着地。 そのまま、今度は大型クラブに向かって、景虎は大きく跳んだ。
大型クラブは反応する。 対空攻撃のつもりか? 景虎に刺突の鋏を向けた。
鋏は左右の二段攻撃。 それを弾いた景虎は、大型クラブの頭上に飛び乗った。
大型クラブは暴れる。 どうやら、鋏攻撃も魔法も自身の頭上にいる相手には使えないようだ。
「おぉ! まるで暴れ牛でござるな! どうどう、落ち着くでござる。落ち着いた――――素直に倒されるがよかろう!」
その刀を頭上に突き刺した。
だが、大型クラブは暴れるのを止めない。むしろ、暴れる力が増している。
「むむむ! これは死の直前――――最後の力というわけでござろう」
その言葉通りだった。長い時間、大型クラブは暴れて、暴れて、倒れた。
黒いモヤに包まれて、大型クラブは消滅していったが――――
「おぉ!これは! 狙いの素材が大量に手に入ったでござる!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
素材を集め終えた景虎は『ギルド』に戻った。
依頼を受けた受付嬢からは、
「3日は想定していたのに、こんなに早く終わったのですか! さすが、注目度№1と言われているダンジョン配信者 有村景虎さんですね!」
絶賛され、報酬としての金銭を渡される。
「これは、どのくらいの価値でござる? まだ貨幣価値というものに慣れてないので……」
「え? 景虎さんって、サムライのキャラ作りじゃなかったのですか? それじゃ、ウワサ通り……ダンジョンの奥は別の世界に繋がっているって」
ダンジョンの受付嬢とあって、そういう噂を見聞きしているのだろう。
それでも彼女は半信半疑といった感じだが……
「さて、どうだろうな?」と景虎は惚けてみせた。
手渡された金額。この周辺のマンションなら1か月分の家賃になる金額と言われた。
「よかった。ノア殿に渡すとして、その前に――――」
景虎は受付嬢から
「え!? 本当に蒼月ノアさんと同棲を!」
―――――と驚かれたがうまく誤魔化した。
少なくとも、景虎本人は誤魔化せたつもりだ。
しかし、この受付嬢は、どうやらウワサ好きのようだ。
しばらく、この界隈にそう言うった話が流れる事になるだろう。
「さて……」と景虎は椅子に座った。 場所は『ギルド』に隣接している食堂。
かつて、こういう場所は場所は酒場だったのが、お約束だった。
酒とたばこと喧嘩……しかし、現在はどれも御法度となる。
有名なファーストフード店とコーヒーショップが並んでいる。
少しだけサムライ姿は、浮いている。 しかし、そんなことは気にしない彼は、
「すまないが、蟹の味噌汁を所望いたしたい」
場所は有名ファースト点だ。 店員さんは苦笑いを浮かべている。
「生憎、当店では……」と断られる雰囲気だった。しかし、
「待ちな!」と奥から野太い声。 大柄の男が出てきた。
「店長!?」
「ここは『ギルド』前店だ。命賭けの戦いから戻って来た戦士に出す料理。客の要望に応えるのが料理人ってわけだ」
「店長……ここはハンバーガー屋ですよ? フランチャイズ店で好き勝手にやってると、また本社からの指導が……」
「何が本社だ。アメリカからマニュアルを持って殴り合いに来やがれ!」
「店長!」となぜか、店長と店員は涙を流して抱き合い始めた。
「拙者は、一体何を見せられているのでござろう?」
そんな事を呟いていると、「はい、お待ち。蟹の味噌汁だよ」と別の店員が運んできた。
「べ、別に店長が作るのではないのでござるな……」
改めて、出てきた蟹の味噌汁を見る。
見た目は豪快だ。
蟹の身がそのまま盛り付けられ、その深い赤色が温かな出汁に映えている。さらに緑の葱や新鮮な海藻がアクセントとして添えられ、食欲をそそられた。
まずは思い浮かべてほしい。 夕暮れの海辺で漁師たちが収めた新鮮な蟹を。
お椀から立ち上る湯気。 そこからは、優雅な香りが漂っていた。
香りは、まさに新鮮な海の風味と蟹の甘みが絶妙に調和したもの。空気中に広がり、鼻に届くと胃袋をくすぐって来る。
景虎はお椀を口に進める。 まずは一口……さすれば、その旨みが口いっぱいに広がった。
「うん……蟹の殻から抽出された濃厚でコクのある蟹味噌。見事に温かな出汁に溶け込んでいる」
それは、潮の香りと海の深みが凝縮されたような濃厚な旨味だった。
「蟹の深い味わい。まるで海の深海から抽出したような贅沢さでござるな!」
暖かい味噌汁は、すぐにサムライの体内に広がっている感覚。
ホロリと涙すら流しそうになっている。
「まさに味噌汁は、日本人の心そのものでござるな……それで、どなたかな?」
景虎は、隣に座った人物に問いかけた。 奇妙なことに、その人物は街中にも関わず西洋甲冑を着込んでいた。
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