第22話 強敵 大型クラブ
「これは、なかなか厄介でござるな」
景虎は3匹の蟹――――リーパークラブを相手に賛辞に似た言葉を贈る。
「このリーパークラブ。3匹集まると連携……コンビネーションとやらを取って来るのが普通なのでござるか?」
『そうだよ!』
『事前情報なしで討伐依頼受けたのか……』
『調べてから依頼受けた方がいいよ』
「はっはっは! これはごもっとも。今後は気を付けるでござるよ!」
景虎は刀を振る。
(相手の最初に戦った1匹目と同じ。大振りの鋏攻撃に鋭い刺突の二段構え。しかし――――)
景虎は防戦一方になる。
「3匹が協力して襲てくると、まるで6本の鋏をもった蟹の怪物と戦っているようでござるな」
そう笑いながら、徐々に蟹たちに攻撃に対応していく。
(刺突で体を貫けるのは把握済。しかし、1匹を倒して刀を抜いてる間に2匹が同時に攻撃をしてくるはず……じゃ、最初と同じように)
斬!
景虎の刀が走った。
大振りを狙ったリーパークラブの右を斬り落とした。
右を失ったリーパークラブだったが、怯まない。 そのまま、残った左の鋏で――――
「その決死の覚悟は見事。しかし、その左も見慣れてきたところでござるよ」
自身に向かって放たれた左の刺突も景虎は容易に斬り落として見せた。
(これで、まずは1匹の脅威度を落とした。鋏以外の攻撃方法がなければ――――あと2匹!)
両鋏を失った蟹への警戒心を完全には解かずに、残りの2匹を狙う。
既に攻撃のタイミングは把握済。 もはや、景虎の相手にはならない。
「どうやら、左鋏は刺突の専門のようでござるな。だったら、左に回り続ければ――――」
攻撃は当たらない。 だが、相手の蟹は2匹いる。
背後からもう1匹が攻撃を仕掛けて来る。
「しかし、まだ弱点はある。 その細い脚であろう?」
景虎は振り返ると同時に刀を振る。 言葉の通り、脚を2本まとめて斬り落とす。
通常、蟹の足は8本(鋏の部分も足として数えられる)。もしくは10本足の蟹もいる。
リーパークラブは、その場で体が沈んで動けなくなる。 倒れないようにバランスを取るのが精一杯のようだ。
「そなたの8本足。 それを2本連続で斬り落とされると自身の重量に耐えれないようでござるな……当たり前か」
景虎は、最後の1匹も足を狙い、斬り落とした。
「これで終わりでござろう」
突き技をもって、2匹連続でとどめを刺す。
「ふむふむ、やはりギルドからの依頼とあって、簡単に素材は手に入らないようでござるな」
3匹のリーパークラブを倒した後、黒いモヤに包まれて消えた。
その場に素材は何も残っていなかった。
「さて、今度はもっと慎重に……1匹づつ、狙っていく事にするでござる」
『それはそう……』
『安全運転で行こう。冒険しすぎよくない』
『慎重サムライでござる』
そうやってコメントを確認していると、またも地面が盛り上がっていく。
「むっ! そう言ったばかりから新手の蟹でござるか? やれやれでござ……」
景虎は言葉を止めた。 地面が盛り上がり、地下から姿を現すのがリーパークラブの出現パターン。
「ん~ 今度のは、妙に大きくのでは?」と盛り上がっていく地面を見上げる景虎。
『これは
『うん、大型クラブの出現パターンだ』
『どうする? 戦う? 逃げる?』
景虎は、コメントを見て、相手は通常のリーパークラブではない事を察する。
「では、その強敵――――大型クラブでござるか? そいつは素材を落としやすいのござろうか?」
『落とすよ』
『鋏素材ならドロップ率100%』
『ハズレでもレア確定』
「ほうほう。ならば倒さないわけにはいかないでござるな」
そうして、刀を構えた景虎。その前に出現して全身を見せた『
「なるほど、大型と名前がつくだけあって随分と大きい体をしている」
今までのリーパークラブは、人間よりも大きかった。 2メートルほどの大きさか?
しかし、大型クラブはその倍以上の巨大さ。 4倍? いや、下手をすれば6倍ほどありそうだ。
「おぉ! その巨体に目を奪われるが、厄介な事に鋏が2本増えているようでござるな」
大型クラブの特徴。大きさは見ての通りだが、鋏が4本ある事だ。
一番上に大きな殴打用の鋏が2本。 その下に2本の鋏が刺突用。
「……となると、攻撃パターンもリーパークラブとは大きく違ってくるようでござるね」
不意に流れて来るコメントに目が止まった。
『そいつ魔法も使って来るよ。気をつけて!』
「なんと、魔法まで! 随分と豪華な魔物でござるな。ならば、相手にとって不足はなし!」
もしかしたら、景虎が仲間を倒して怒っているのかもしれない。
通常の甲殻類は、発する事のない咆哮を上げて、景虎に襲い掛かってきた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
上段、殴打用の大きな鋏を振り上げた。
咄嗟に警戒を強めた景虎であったが、それはフェイントであった。
本命は二段目。刺突用の鋏が飛んで来るように突き刺してくる。
それも同時ではなく、僅かにタイミングをずらしての攻撃。
一撃目を飛んで避けた景虎。 着地した瞬間に2撃目の刺突が飛んで来る。
「これは流石に戦いづらいでござるな」
刀で弾きながら、景虎は言った。――――その直後だ。
振り上げていたままの上段。殴打用の鋏が振り落とされた。
再び飛んで避けた景虎だったが、その背に攻撃の衝撃を感じた。
「おぉ! なんという破壊力。なんという攻撃力。さらには、まだ魔法を持っていると言うでのでござるな……これは、この強さは感謝したい!」
今度は景虎が攻撃する番。自身に飛んで来る刺突用に狙いを定めて刀を走らせた。
しかし――――
「硬っ!? 拙者の刀で斬り落とせぬでござるか!」
狙い通りのカウンター。 しかし、浴びせた太刀筋では、僅かに傷をつける程度に終わった。
「なんと、なんと! ならば、狙いは――――その細い脚でござる!」
鉄の外装のように硬い蟹の表面。
本来ならば鉄を斬る事もできる景虎であるが、戦いの最中――――それも激しい動きの中では、斬鉄が可能となる強い一撃を放つのも困難。
だから、狙いは足。 その関節部分――――外装の隙間を狙って突き技を放った。
果してその効果は?
あり。 その効果は十分にあった。
大型クラブは苦しみの咆哮を放つ。
「ならば、もう一度と言わず、何度でも突きを――――」
しかし、大型クラブの体に異変が起きる。全身が薄い光に包まれていく。
「これは!」と景虎にも思い当たる。 それは魔法を発動する前兆の光だ。
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