第14話 決闘 沖田総司
沖田総司との決闘。 猶予は1週間――――
景虎は決闘までダンジョン配信をする気になれずにいた。
だからと言って、新人のダンジョン配信者が週1回しか配信しないのはあり得ない。
剣術も配信も初動が命。 そうノアに説得された景虎は、
『釣り動画』
『都内狩猟動画』
『料理動画』
などなどの動画を中心にアップロードをしていた。
それなりに好評な企画となったとなる。
しかし、敵の動向を探っている沖田総司を含めた新選組メンバーが毎日視聴する事が日課となったため、熱狂的な景虎ファンが発生して内部分裂が起きかけた。
景虎の預かり知らぬ所で、そんな一幕もあり――――
そして1週間後、有村景虎のチャンネルに
『サムライPvP 嘘か、誠か!? 沖田総司戦』
そのタイトルで配信予定が行われた。
配信開始前からコメント欄は大混乱だ。
『えぇぇぇ!? PvPって要するに殺し合いだろ?』
『で、結局、沖田総司って本物? 偽者?』
『配信2回目がPvPって命が軽すぎる。もう法整備しろよ政治家』
『この数日間、投稿されてたほのぼのサバイバル動画と落差が激しいわ!』
そして配信がスタートされると画面には有村景虎が映された。
その背後には、蒼月ノアと光崎サクラ。 場所はダンジョンの中、前回と同じ10層のようだ。
「コラボ配信とやら、チャンネル登録者数が同格でないとやらないのではござらぬか? ノアどの?」
「PvPなら話は別よ。 決闘なら立ち合い人は必要でしょ?」
「うむ……危険だと思ったら、サクラどのを連れて退避してくだされよ」
「うん」とノアは頷いた。 すると、サクラが前方を指差した。
「2人共、来たみたいだよ」
彼女の言う通り、前方には沖田総司ともう1人。 彼と同じダンダラ模様の羽織――――もう1人も新選組の人間らしい。
「……よく逃げずにきましたね」と沖田は、最初に言った。
「決闘を申し込まれて逃げないサムライはいない……でござろう?」
「はい、お互いに嫌な習性ですね」と彼は笑った。 どうやら冗句のようだった。
「こちらから決闘の立会人、見届け人として2人――――蒼月ノア殿と光崎サクラ殿でござる」
景虎は2人を紹介したが、沖田総司は一瞥しただけ。何も言わなかった。
「それで、もう1人……そちらは、どなたでござろうか?」
景虎は、沖田が連れてきた男が何者か? それを訊ねる。
新選組の男は、名だけを名乗った。
「藤堂平助」
「ほう、新選組八番隊隊長。あの藤堂平助でござるか?」
「……」と彼は返さなかった。 無口なのか? それとも返事は無用と思ったのか?
「では、沖田殿との決闘が終われば、次は藤堂殿が出て来るのござるか?」
その言葉――――沖田総司と藤堂平助は怒気を放った。
景虎は、こう言ったのだ――――
「沖田が終わったら、次は藤堂。お前の番だ」
――――本当に、景虎にそう言う意図があったのかは不明だが、少なくとも2人はそう捉えた。
「では――――」と、自然と2人は距離を取る。 次に近づいた時が決闘の開始となる。
新選組の2人は――――
「総司」
「はい、どうしましたか、藤堂さん?」
「先ほどのは奴の挑発。しかし、もしもの事があれば――――任せろ」
「――――」と沖田総司は驚いた。
「心配しないでください。僕は負けませんよ」
それだけ言うと、沖田総司は前に――――有村景虎と対峙した。
決闘開始の合図は不要。 侍が2人、向かい合えば阿吽の呼吸で死合は始まる。
だから、既に決闘は始まった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
人の命は尊い。 命は重い。 ただし――――
ダンジョン配信者の命は軽い。
だから、無法地帯でダンジョンとは言え、決闘――――人間の殺し合いがエンターテイメントとして配信する事が許されるのだ。
魔物と戦い続ける者たち。今さら人間との殺し合いに恐れる者はいない。
そして、その配信を見る者も…… 異常と思うだろうか?
しかし、長い歴史の中――――決闘や立ち合いが行われていた時代。
それら、殺し合いが娯楽とされていた歴史の方が明らかに――――長い。
有村景虎と沖田総司は対峙する。
戦いは既に始まっている。 離れていた距離も剣の間合い。
先に動いたのは沖田の方だった。
「行きますよ? 三段突き」と彼は出し惜しみなく、三段突きを宣言した。
剣先を向けられた景虎は、
(何かの駆け引きでもない。 明らかに突きの構え……本当に出してくる)
そしてそれは来た。 沖田総司の必殺技 三段突きが――――
「速い!」と思わずではノアの言葉が耳に届いた。
しかし景虎は、
「いや、速くは――――ござらん」と後ろに飛んだ。
(単純な速度だけならノア方が遥かに速い。そう見えるのは、徹底的に初動作を殺し、小さなモーションで放っているから、異常な速さに見えるだけだ)
一段目を景虎は避ける。さらにスピードを速めた二段目が飛んで来る。
それを防御、剣で弾くと――――最高速に達した三段目が突かれた。
「その三段目! 拙者には当たらん!」
その宣言通り、三段目をやり過ごした景虎。 しかし、三段目をやり過ごした直後に彼は横に飛んだ。
三段目を終えた沖田総司が突きではなく下から逆袈裟斬りの軌道で剣を跳ね上げていたのだ。
しかし、奇妙な事にその軌道は、景虎が逃げた方向とは逆に向かって振るわれていた。
何が起きたのか? 分かっているのは、
技を放った沖田総司。 放たれた有村景虎。
それから、近くで見たいた藤堂平助と蒼月ノアくらい。
だから、自然と配信に向けて解説役になるのはノアだった。
「今の技は、沖田総司の三段突きで間違いはないでしょう。それを景虎さんは後ろに下がりながら、回避と防御に成功しました。しかし、ここはダンジョンです。ただ下がれば良いわけではありません」
光崎サクラが、すぐに質問役に回った。
「それはどうしてですか?」
PvP配信なら、当事者同士が喋れない場合を配慮して、コラボ協力者が実況解説を行う事が多々ある。
「三段突きを対処するだけなら、真っすぐに下がるのが良いでしょ。しかし、それでは直ぐに壁端まで追いやられてしまいます」
「あっ! 確かにそうですね。壁まで誘導されてしまったら、次の攻撃は防ぐことが難しくなっちゃう」
「だから、沖田総司の三段突きを回避できたなら、すぐに右か左かに動く必要があるのです」
「つまり、最後の逆袈裟斬りは?」
「読み合いの結果、互いに逆に飛んだ……まずは景虎さんの読み勝ちですね」
「なるほどです。素人質問で申し訳ないのですが、どうして逆袈裟なんです? 突きの勢いのまま、4段突きとか、5段突きとか……」
「良い質問ですね。突き技って言うのは、豪快だっり、強烈だったりするイメージが強いですね。体当たりのように、体全身を使った突進技に捉えられている人が多いのではないでしょうか?」
「八極拳の肘みたいな感じですか?」
「……それはちょっとわかりませんが」とノアは断りを入れ、
「突き技って言うのは、防御で弾かれる事に弱いのです。大きな隙を見せる事になり、カウンターの餌食になりやすいハイリスクな技と言えますね」
「なるほど、なるほど」とサクラは頷き、
「よく剣を手の延長と言いますね? 手も剣も真っすぐに伸ばしちゃうと、体の中心から離れすぎて力が伝わり辛くなるって事ですね!」
「はい、その通りです。沖田総司の突きは、攻撃を弾かれても素早く剣を引いて、2段突き、3段突きと繰り返す事でカウンターを防いでいるのです」
「もっとも……」とノアは続ける。
「弾かれても態勢を崩さない沖田総司のインナーマッスル――――体幹の強さがあっての技です」
「ほうほう」とサクラは大げさに頷くと、
「速く引く事で、相手が反撃する余裕もなく素早い攻撃を可能にしてるのですね。ボクシングの言う回転力。パンチを放つ速度と同じ速度で腕を引くのと同じですね」
「はい、それはよくわかりませんが(この子が解説の方が良かったのかしら?)」
「だから、おそらく沖田総司が高速の突きが放てるのは3回が限度。4段突きだと、弾かれた時にカウンターの餌食になりかねないのですね」
そんな2人の実況解説は、本人たち――――有村景虎と沖田総司にも届いていた。
沖田は雁行剣――――剣を揺らして「行くぞ! 行くぞ!」と圧を放ちながら、フェイント――――虚と実を入り混じてる。
最初の三段突きから両者は動いていない。 動けないと言った方が正確か?
景虎から見た三段突きには、多数のフェイントが入っていた。
3回攻撃どころか、8回や9回攻撃のように感じられた。
「どう思いますか? あの2人の解説は?」と沖田が聞いてくる。
「さて? 拙者には合っているように感じているのでござるが?」
「そうですか、あなたがそう感じるなら正しいのでしょう」
2人は探り合いのような会話をしているが、その実は高速で戦闘考察を行っていた。
戦闘考察とは――――
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