第12話 沖田総司参上 決闘の約束
現在、景虎の配信アカウントのチャンネル登録者数は1万人を超えている。
同時接続者数は5万人。 この5万人が一斉にコメントを書く手を止めた。
命を賭けた戦闘であっても、自然とコメントを打ち込む事が癖になっている、ある意味では猛者たちが手を止める。 それほどまでに異常事態の発生。
その異常事態とは―――― 新選組 沖田総司が現代ダンジョンに出現した。
配信器具の不調を疑うほど長い沈黙。 コメントと共に沈黙が続く。
やがて――――
『――――いや、いや沖田総司ってなに?』
『新選組一番隊隊長……本物?』
『本物なわけ……いや、そもそも景虎って本物のサムライ……だよな?』
『やっぱり、ダンジョンに超パワーがあってタイムスリップしてるんだよ』
『↑先まで笑ってたけど、信憑性でてきたな』
視聴者たちは湧き上がってくる困惑した感情をコメントに載せた。
「沖田総司……この世界でも有名人のようでござるな?」
「そのダンジョン配信……ですか? 機会があれば、どのように評価されているか知ってみたいですね」
完全に姿を披露してみせた沖田総司。 その姿は、小柄で色白……現代日本でもモデルや俳優として通用するかもしれない。
そして、新選組の代名詞と言わられる『誠』が背中にダンダラ模様の羽織――――史実で多用されていなかったそうだが――――今の沖田総司は誇るように着ている。
史実とは異なる姿に、歴史好きと思われる視聴のコメント。
『おいおい! 本物はヒラメ顔って話はどこに消えた?」
『美少年じゃねぇか! そもそも、残ってる自画像は本人じゃないからな!』
『ってか、美少年か? ワンチャン美少女って可能性も?』
「うむ、どうやらお主の事を美少女ではないかと疑う者がいるらしいでござるよ」
「……? 僕が美少女? 面白い事を考える人もいるものですね」
「そう……でござるな」
「いやだなぁ、景虎さん。そんなに警戒しなくても、僕1人だけですよ」
「とても信じれないでござろう? 新選組と言えば、複数人での戦術を得意とする組織の剣……」
沖田総司と言えば剣の達人。 しかし、それだけではない。
彼が使う剣術は――――
『天然理心流』
新選組局長 近藤勇が4代目宗家とする流派である。
その特徴は実戦主義。 生き抜き事を念頭に作られており、複数人での戦闘を想定されている。
複数人の戦闘。 1人で複数を相手にする技――――ではない。むしろ逆だ。
1人に対して、複数人で戦う術と技として昇華させた剣術。
集団で襲う。一見すると武士道から外れた剣のように思うかもしれないが、
それは新選組という集団で、国家転覆を狙う尊攘派志士どもと戦う役割を考えれば 自然の物に思えて来るだろう。
だから、景虎は沖田の 「僕1人だけですよ」と言葉を信用できなかった。
「いやだなぁ。僕も本当は正々堂々戦いたいわけではないんですよ」
沖田は、こう続けた。 「あなたの経歴を調べさせてもらいました」……と。
「有村景虎……ダンジョン討伐指南役 有村家の三男と生まれた。 出奔してからもダンジョンで有村家の剣を振る。……そこで闇の仕事にも手を出していたみたいですね」
「闇の仕事……さて、何のことでござろうか?」
次の瞬間、沖田総司が前に出る。ゆっくりとした動きで殺気を感じるものではなかった。
そのため、簡単に接近を許してしまった。 体同士が触れているか、どうかの距離。
「――――」と景虎は、言葉を失った。
もしも、沖田が隠し武器を有していたならば、ここで景虎は殺されていただろう。
だがどうやら、沖田は景虎を殺す意思はなかったようだ。少なくとも、この瞬間には……
どうやら、沖田は配信に声が乗らない距離に移動する事が目的だったようだ。
「金を貰って、ダンジョン内で人を殺していた……違いますか?」
「――――」
殺人行為。
ダンジョン内は法の外。
様々な超法規的措置があるとは言え、殺人はご法度である。
「……生憎、拙者の剣は魔物を斬るための物。拙者に殺された者がいるとするならば、きっと魔物に取って変わられた者に違いないでござるよ」
「とぼけるつもりですか?」
「さて、証拠があったら鬼の新選組が黙っておらぬと思うのでござるが?」
「――――いいでしょう」と沖田は、下がって距離を広げた。それから、
「決闘を申し込みます」
「なにを言っているでござる?」
「あの大鬼の王を討伐して疲労がが溜まっているでしょう……そうだな」
沖田は少し考えると、
「1週間後、場所はここで。僕に勝ったら、あなたの罪は不問としましょう。逆に――――」
「拙者が負けたら?」
「大人しく、縛についてください。尾張幕府は、あなたの罪を不問として、保護する準備をしています」
「なるほど。幕府の命でまどろこっしい真似っを……」
「当たり前でしょ? 僕たちは新選組ですよ?」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
「さて……どうしたものでござろう」
「それはこっちのセリフよ!」
蒼月ノアの家に戻った景虎。 待っていたのは、彼女のお説教だった。
「これを見なさい」と渡されたタブレットには――――
『ダンジョンで決闘!? 沖田総司を名乗る人物が出現』
『ウワサのサムライ 有村景虎は本物の侍? 彼の知る人物は沖田総司!?!?』
『ダンジョンの奥は、サムライの国と通じている!? 物理学者の珍説が再注目!』
そんな文字列が大量に浮かび上がっていた。
「むむむ! 凄く注目されているでござるな」
「当然よ。世界があなたの事を知りたがっている……せめて、私には……」
後半、彼女の言葉は小さくなり聞き取れなかった。
「ノアどの? どうかされ申したか?」
「なんでもないわ。それよりも、これ!」
彼女の手渡してのは棒状の物体。 景虎は見た事もない物だった。
「……なんてござる? 剣に似ているが武器にしては軽すぎる。妖術師が使う刀にしては魔力が込められておらぬ」
「えっと……あなたの世界にはなかったの? これは竹刀って言うのよ」
「竹刀でござるか? なにゆえ、竹で武器を? 軽すぎて、対した痛みも与えれぬのではござらんか?」
「だからよ。叩かれても木刀よりも痛くないから練習用として広まった物よ……確か江戸時代に生まれたんじゃなかったかしら?」
「なんと! 練習用に痛くない刀が作られているのでござるか。これは大した発明でござるな」
「あなた、ダンジョンで魔物との戦闘ばっかりで、対人の練習は必要なんじゃない?」
「確かに、その通りでござる。もしや、ノアどのは拙者のためにこれを?」
「――――っ!」と一瞬、息がつまったように動揺したノアだったが、
「そ、そうよ。こう見えて私もトップ配信者。本物の侍には劣るかもしれないけど、剣の練習くらいはできる……はず」
「おぉ! これは助かるでござる。ならば、早速……」
「ダメよ。 ダンジョンから帰ってきたばかりでしょ? もう少し疲労を取ってからやりましょう」
こうして、蒼月ノアと剣の練習をする事になった景虎だった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
竹刀を構えたノア。
「――――ッ!」と練習相手である景虎に威圧されていた。
(対面して初めてわかるわ。剣圧のかけ方が凄い。どこに打ってもカウンターを取られそう。でも!)
かけ声と共に攻めていった。竹刀の特徴――――それは従来の剣を超える高速の剣技である。
隙のないはずだった景虎の構え。 しかし、想定外のスピードにより反応が遅れる。
「ぬっ!」と瞬時に防戦に回った景虎。 竹刀の速さに戸惑いが生じる。その攻撃を受け流すのが難しくなっている。
(なるほど、拙者の刀は元より大型。スピード勝負ではどうしても遅れを取る。ならば、最初から理外のスピードに慣れれば、対人戦闘では――――)
有村景虎。今だに自身に伸びしろがある事に気づいて歓喜を隠せずにいた。
だが、それでも景虎は本物の侍であった。
「――――そこでござる!」と僅かな攻撃の隙間。
カウンターのみが勝機と見出して、突きをノアの胸元に叩きつけた。
そのまま、バランスを崩して倒れたノア。景虎は慌てて声をかけた。
「大丈夫でござるか?」
「もちろんよ」と彼女は、すぐに立ち上がって竹刀を構え直した。
「自分よりも格上の人とやり合うのは久しぶりなの――――正直に言うと、滾ってるのよね!」
再び、2人の稽古は始まった。
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