空っぽ高校生たちの愛
でんでんむし
瀬戸良太
持つ者と持たざる者 1
僕、瀬戸良太(せとりょうた)はクラスの女子に恋をした。高校二年生にして初めての恋である。
その子の名前は愛原(あいはら)さん。彼女の事をクラスメイトに聞けば、恐らく揃って『地味な子』と評されるだろう。
確かに愛原さんの目元はいつも髪で隠れていて、性格はお世辞にも活発とは言えない。クラスでは目立たないタイプだ。
でも、僕だけが発見した彼女の魅力がある。
ある日、愛原さんがふと顔を上げた瞬間、いつもは隠れているその瞳が見えた。
それはあまりに綺麗な瞳だった。光をよく反射して、誰よりも輝いている。そんな彼女の目を見た瞬間、僕は完全に恋に落ちてしまったのだ。
それからは、いつでも愛原さんを目で追っている。そんな事をしているうちに、どんどん好きになってしまった。止められないほどの愛というやつだ。
そこまで好きならば告白すればいいのでは? と、思われるかもしれない。
確かに地味と評される彼女は、ある意味では競争率が低い。ならば、僕にもチャンスはある。
でも、告白はできない。二つの大きな理由があった。
理由の一つは、僕が『持たない人間』だからだ。
世の中には『持つ人間』と『持たない人間』の二つに分けられる。
僕は後者だ。勉強もできない。運動もできない。かといって、トークスキルがあるかといえば、それも無い。当然、友達もいない。将来の夢すら無い。
そう、何も無い。僕は『空っぽ』の人間なのだ。
愛原さんが地味だというが、それなら僕の方がよほど地味だ。
そんな僕が愛原さんと釣り合うわけがない。それが踏み出せない理由の一つだ。
ちなみに『持つ人間』の代表例はクラスで『女王』と呼ばれる女、黒崎瑠美(くろさきるみ)だ。
黒崎は全てを持っていた。クラスでトップの成績。運動神経も女子だけではなく、男子にすら負けていない。そして誰もが叶わないと膝を折るほどの美貌。
更にとどめと言わんばかりの、親が大企業の社長という恵まれた環境。
人を支配するために生まれて来たと言われても納得してしまうほどの存在感とオーラを黒崎は放っていた。実際、このクラスの支配者だと言ってもいい。
だが、僕はこの女を好きになれない。
常に威圧感のある態度だし、自然と人を下に見るような言動も鼻につく。
美人とよく言われているが、これも単にメイク技術が高いだけだと僕は思う。つまりは金にものを言わせた嘘のテクニックだ。
やたらと派手なアクセサリーやピアスをつけているし、金色に染められたその長い髪は、ある意味では下品と例えてもいい。
そもそも校則違反だ。でも、教師は誰も彼女を注意しない。それどころか、逆に立てるような言動すら窺える。
それだけ黒崎の『権力』が怖いのだ。この学校の人間は、教師を含めて全員が保身の事しか考えていない人間ばかりだから仕方ない。
実際、黒崎を『実はブスだよね』と言っている声もある。本当はクラス全員が黒崎の事を嫌っているのではないだろうか?
どうして僕が黒崎に対してここまで辛辣なのか? それについてはきちんと訳がある。
そしてそれがもう一つの愛原さんに告白できない理由にも繋がっていた。
「ねーねー。愛原ちゃ~ん」
黒崎の不快な声が教室に響く。無駄によく通る声だ。
その声を聞いた愛原さんがビクリと身を震わせた。
「一緒にトイレ、行こーよ。あたし達、友達だもんね~?」
馴れ馴れしく肩に手を回す黒崎。周りにはまるで手下のように取り巻きを引き連れている。
顔は笑っているが、蛇みたいな縛り付けるような目であいつは愛原さんを見つめていた。
半ば無理やりに近い形で教室から連れ出される愛原さん。
そして程なくして戻ってきた黒崎グループ。愛原さんは一人フラフラと自分の席へと戻っていく。
それを見た黒崎たちは、楽しそうにクスクスと笑っていた。
よく観察すると、愛原さんの頬は小さく腫れていた。『殴られた痕』だ。
そう、愛原さんは黒崎から『いじめ』を受けていたのだ。
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