誰にでもなれるダンジョン管理者

だいだらじろう

第1話 追放

田井中たいなか逸郎いちろう、おまえをこのダンジョンから追放する!」

「え、なんですそれ?」

出社して自分の席について早々、社長がなんか言ってきた。


「冗談冗談、一度言ってみたくてね」

「あ、そうすか」

「でも、君にダンジョン管理者の仕事辞めてもらうのは本当よ」

「え、オレなんかやっちゃいました?」

「君だけクビってわけじゃなくてね、今月いっぱいでこのダンジョン閉めることになったのよ。まあ、原因は君ではあるんだけど」

まじか。これ朝から怒られる感じか。だるいな。


「君、低階層で雑魚サキュバスをバンバン出すようにしたよね?」

「はい、あれは受けましたね。来場者数が前期の10倍ですから。社長も喜んでたじゃないですか?」

「そう、受けすぎちゃったのよね。ドスケベダンジョンとして有名になりすぎちゃったせいで監査来ちゃって。実質風俗だから学校の近くで開業するなって怒られちゃって、そのまま閉鎖よ」

「あー、近くの大学生連中入れ食いでしたもんね。妥当な判断ですね」

「まあ、協会のお偉いさんに私が嫌われてたせいでつっつかれた、っていうのはあるんだけどね。調整すれば続けられないこともなかったんだけど、借り作るのも嫌でそのまま、って感じかな」

「あら、じゃあ社長のせいじゃないですか。退職金弾んでくださいよ」

「いいよ、結局稼がせてはもらったからね」


そういうわけで来月から無職になることが決定した。

今月はあと三日しかないので、普通の雇用契約であれば労働基準法的に問題が出そうなものだが、ダンジョンはダンジョン協会が統治し、治外法権が適用されるので問題ないのだ。

問題ないわけあるか。という気持ちはあるが、退職金に色を付けてもらったのでおとなしく無職におさまった。


無職にはなったが、特に焦りなどはない。

なぜなら、オレの仕事であるダンジョン管理者は、資格さえ取れれば誰にでもなれるし、いくらでも仕事はあるからだ。


ダンジョンができたのはオレが子供のころのことで、子供ながらに世間がやたらごたごたしていたことを憶えている。

家やオフィス、商店や公園なんかが突然ダンジョンになったという。

テロかいたずらかと騒がれたが、すぐに首謀者である自称高次元人が名乗り出て「異世界からダンジョンを広めるためにやってきた」と語った。

明らかな侵略ではあるのだが、高度な技術力を背景とした高い武力には逆らえず、人類はダンジョンの存在を認めざるを得なかったという。


高次元異世界人達がダンジョン協会を名乗り、現地人をダンジョン管理者として雇ってダンジョンを運営し始めるのは、ごたごたが落ち着いてからすぐだった。

最初のダンジョン管理者はダンジョンになった場所にもともといた人々がなったらしい。

それからダンジョン協会はダンジョン管理者を資格化させ、広く募集するようになり現在に至る。


ダンジョンはダンジョン協会から押し付けられる形で生まれたものではあったが、人類側にも恩恵があった。

異世界産のアイテムである。

まるでゲームのように、出現する怪物を倒すとアイテムがドロップする。

このアイテムが異世界の高い技術力によって生み出されたものであり、大きな価値を生んだため、人々はこぞってダンジョンに訪れるようになった。


ダンジョン管理者として裏側で使っている業務用異世界アイテムを色々見ちゃうと、ドロップアイテムなんかは数段しょぼく感じる。

多分あっちの量販店で普通に売ってるものなんだろう。

異世界ものの小説なんかで、地球の百均でライター買って異世界で高額で売って丸儲け、みたいなやつがよくあるけど、同じことをこっちが未開人側でやられてるんだろうなと思ってちょっと面白い。


そうしてお宝ゴミに群がる未開人をなんやかんやするのがダンジョン管理者の仕事だ。

「なんやかんや」の部分はそのままの言葉ではないけど、意味としては本当にそう教えられる。

「殺す」でもいいし「もてなす」でもいい。「追い返す」っていうのもあるし「閉じ込める」っていうパターンもある。

これは本当に何でもいいらしくて、ここでダンジョンごとの個性が出る。


これがどうして仕事になるかというと、ダンジョンに人が入ってなんやかんやすると、ダンジョンから報酬が支払われるのだ。

ダンジョン協会にとって、ダンジョンに人が入ることで何らかのメリットが発生している。ということだと思われるが、ダンジョン管理者を十年以上やっていても正確なところはわからない。

ダンジョンとは何か?というのはダンジョン管理者が集まったときの鉄板の話題で、実験施設説や発電所説、リアリティーショー説や産廃処理場説、など各人がお気に入りの説を持っている。


ダンジョン協会としては、ダンジョンなんてものはなんぼあってもいいものらしく、ダンジョン管理者資格を取ったものにはダンジョン協会から管理ダンジョンを用意してもらえる。

ダンジョンに空きがなくても適当に接収してしまえばいいので、就職率百パーセントだ。

適当にホイホイ接収された結果、国会議事堂がダンジョンになりました。だとさすがに困るので、国や地方自治体はダンジョン用の物件や用地を用意しているとかなんとか。

ちなみに初期に接収されたダンジョンの中には、市役所ダンジョンや病院ダンジョンなんかがあって大混乱だったらしい。


ということで協会に行けば新しい就職先を斡旋してもらえるのだが、せっかくたんまり退職金をもらえたので、この無職期間を使ってあちこちのダンジョンを見て回って勉強することにした。


「オレよりぬけるダンジョンに会いに行くかー」

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