1-1-4〜闇に包まれた都〜

 二神は、神々しい衣をなびかせながら、空中に立っているかのように空を飛んでいる。

 ”軽功ケイコウ”と呼ばれる仙術せんじゅつを使っているのだ。

 分厚い雲を除けながら、邪気の気配が強い都へ向かう。


 星命セイメイは、

「広範囲な上に強力な邪気だ...」

「数々の門派が共同で抑え込んでも、この範囲にこの強さでは無理でしょう」

 仙術せんじゅつを鍛錬し仙人に近づくために修行する門派がいくつかあり、邪気を浄化している。

「このような邪気はおよそ千年ぶりぐらいでしょうか」


「ああ。そうだな」

「千年前のあの件以来だ」

「そのときも招陰陣しょういんじんであったな。あの時と同一人物だろう」



 少し遠くの地面では、人がまばらにおり、逃げ惑う人もいる。

 門派の人がようやくたどり着いたようで、あちらこちらで赤黒い闇との戦闘が繰り広げられる。

「もうすぐですね〜」


 柏麟ハクリンは、横目で星命セイメイを見て、

星命セイメイ。体はなまってないか」


 星命セイメイは、声色こわいろを低くし、

「たかが、千年ぐらいでなまるわけないですよ」

わたくしは、最強の神の従者でありますから」


「ならばよい。では、行くぞ!!」

 二神は、軽功ケイコウの速度を上げ、その先で二手に別れる。

ーーーーーーーーーー

 一方、下界の神殿の寝台がある部屋では、少女はでれでれしながら、

(よし、元気になったし、一番好きな場面をもう一回読もうかな〜)

 

 汐鸞セキランは、起き上がって、懐に温めておいた書を取り出す。

 半紙を折って作った簡易的なしおりがはせてある場所を開き、でれでれしながら眺める。


 少し時間が立ち、汐鸞セキランは少し冷静になった。

(私が推している白霖ハクリン様って、もしかして、柏麟ハクリン上帝じょうていのこと?)

(だって、名前もそうだし、あの白くて艷やかな長い髪に、顔の整った美貌、優しい声...、この本の表現と実物全く同じじゃん!!!!)

(この目で見たんだから!! 絶対に間違ってるはずない、ない、ない!!)

(水の仙術せんじゅつを使っているのも同じじゃん!!)


 汐鸞セキランは、その場所にしおりをはせて、書の表紙をめくる。

(よく考えれば、作者『青明セイメイ』って...、星命セイメイ帝君ていくんの『せいめい』じゃん!!)

(『作者は、やけに白霖ハクリン様を推しているな〜』って思ってたけど、作者は、柏麟ハクリン上帝じょうていの従者だから、そうなるのは当たり前か...)

 書は少女の手から離れ、地面に落ち、パタンと閉じる。

(ってことは、わわわたし...推しに抱かれた?)

(し、しかも、推しに『そなたが罪を背負う必要ない』って...)

(ええっ、まっって。し、死んじゃうだけど...)

 汐鸞セキランは、手で顔隠す。

(あわわわわわ)


 汐鸞セキランは再び冷静になった。

 汐鸞セキランの帯にある、紐付きの銅製の鐘の凹凸おうとつをなぞる。

(付けられた時は、気にしなかったけど、こんなきれいな装飾がしてあるのね〜)

(なんたって、あの白霖ハクリン様にもらったんだもん。えへへっ。えへへっ)

(それにしても、柏麟ハクリン上帝じょうていの姿。かっこよかった...)

 汐鸞セキランは、でれでれしながら柏麟ハクリンの姿を思い浮かべる。

 すると、手に握っている鐘が、打つものも何もないのに勝手に振動しカンカンとなる。

ーーーーーーーーーー

 柏麟ハクリンの頭に、鐘の音が響く。

 柏麟ハクリンは、来た方向を横目で確認し、左手の中指薬指をくっつけて、左のこめかみ辺りに当てる。


 柏麟ハクリンの周りには、一体だけで赤黒く都を覆うような高さの赤黒い怪物が何体も現れる。


「少しさみしくなったのか...」


 鐘を握る少女は、聞こえているが、驚いたのか、

「.........」

 いいや、込み上げる気持ちを抑えるので精一杯なのだ。


 柏麟ハクリンは右手を横に出し、金色に輝く剣を出現させ握る。

 柏麟ハクリンは、左手を動かさないまま、軽功ケイコウを使い、怪物の胴体まで到達する。


「吾がいる。安心したまえ」


 すると、柏麟ハクリンは、剣先を赤黒い闇に向け、舞のように美しく、そして雷の如く一瞬にして円を描くように切り裂く。大地は振動し、怪物は全滅した。


柏麟ハクリンは、地面につくと、

「これからそなた達の父親に会う」

「心して、まっておれ」


 汐鸞セキランは、

「あっ、あの〜」


「なんだ?」


「私も弟子にしてくれませんか?」

「お兄ちゃんだけずるいですって」

「わ、わたしも、弟子にしてください」

「お、お願いします」


「そなたから言わぬとも、そのつもりだったのだ」

「そなたが、それを心から承諾しているのなら、なお嬉しい」

「この鐘は、離さず持っておけ」


「承知しました」

 汐鸞セキランは、これ以降、書と一緒に青銅の鐘を懐にしまい、師匠のことを考えるのであった。

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