第20話 女装理論の世界

☆☆☆この世界について


今から五十年前。世界に魔法の存在が確認された。


人類は魔法師と非魔法師に大きな格差が生まれ、大きな戦争へ発展することとなるが、力の差は歴然であり非魔法師は淘汰されていった。


こうして世界は魔法師だけのものとなり、魔法師国家である『フラテシオン帝国』が建国された。魔法の文化が発展していく。


数年後。魔法の才能は絶対的に『女性』が優れている結論付けられ、フラテシオン帝国は女性国家へと発展していく。


「男性魔法師は魔法の才能を持たない」


誰かの言った言葉が世界に浸透していった。そうして帝国による男性差別が始まった。


女性国家となった帝国に一人の天才『アルフレッド・ソルフィン』が現れる。彼は男性でありながら、女性と同じ魔法の才能を得られる方法を発見したのだ。


それこそが『女装』であった。彼は女性の格好をし内部に潜入。魔法の才能を認められ帝国内で地位を確立していった。


数年後。女装していることが帝国にバレるも、その頃には自らの領地で独立の準備を進めていた。


こうして帝国と争いが起きアルフレッドは『グランバイア共和国』を建国したのである。


男性達は共和国へと移住。『男の娘』として過ごすしていくようになる。共和国内では女装は常識となっていた。


アルフレッドは『女装理論』を提唱したその後。帝国のスパイに暗殺され、十数年経った今も帝国と共和国の戦争は続いている。


聖シエール魔法学院は優秀な『男の娘』を育成するための場所だ。だからこそ女性ががいることは禁止されている。


そう……僕は、この学院に居るべきものじゃない。だからこそ性別がバレてはいけなかった……のに……


☆☆☆気まずい空気


「ティアちゃんが……女の子……」


僕は未だオリビーに押し倒されたままだった。


「あ。あの……胸から手をどけてください……二度ほど揉まれました」


「……あ、ご、ごめん!」


すぐに僕から離れた。僕も起き上がると、オリビーはものすごく顔を赤らめて足をもじもじさせている。


……女性とバレた時点で任務は失敗だ。このことが学院に知られれば僕は処理されるだろう。そうでなくても口封じのため組織に殺されるか……


欲が出たな……だけど、起きてしまったことだ。いくら後悔しても遅い。


だとしたら、せめて好きなことぐらいしていいのだろうか……知らなかった真実に辿り着くことぐらいは……


「……『最期』にあの場所へ向かっていいですか……」


「……最……期……?」


「女性であると知られてしまったので、この学院にいることはできません。明日にでも僕はここを去ります。だから、最期に……」


「……黙ってるよ」


「え」


「ティアちゃんが女の子だってこと黙ってる……そうすればティアちゃんはこの学院を去らなくて済むんでしょ!」


何を言っているんだオリビーは……黙ってても彼に何もメリットはない。そもそもオリビーのことをずっと騙していくつもりで利用していたのだ。


怒りだってあるだろうし、同性だと偽っていた異性と一つ夜を過ごしたのだぞ? 気持ち悪いと思わないのか?


「いや、そういう問題じゃなくて……僕は皆様のことずっと騙していくつもりでした……怒りはないのですか? 嘘をついていたのですよ」


「確かに驚いたけど……怒りはないよ。むしろ安心したんだ。ティアちゃんが女の子だってことに、女の子で良かったって」


「え」


「だって私はこんな身なりだけど男だから……疑問に思っていたんだ。男性が男性を好きになることなんて……おかしなことだって……でもティアちゃんは女の子なら……これは必然的なことだから……」


共和国内では男の娘同士の恋愛は推奨されているはずだが、まだ平民には根付いていないみたいだ。


僕が女性であって安心したこと……女の子であるなら必然的なこと……そして一つの結論に至る。それはつまり……え


「……え、ちょちょちょちょっと待ってください! どういうことですか。それではまるで……オリビーちゃんは僕のことを……」


「うん。私はティアちゃんのこと好きだよ……だから離れてたくないんだ。ずっと友達の関係を続けられればいいと思っていたけど。それ以上になれるって分かったんだ……こんなチャンス活かさないわけがないよ!」


「はぁ!?」


「もう一度言うよ。私はティアちゃんのことが好き! 君が女の子だって分かったから……もちろん誰にも言わないし、手助けするよ!」


「……」


彼の恋心を利用すれば、僕はこの学院にまだ残れるのか? 確かに男女間の恋愛になる。だが、他人から見れば僕達は同姓のカップルだ。


学院で男の娘同士のカップルは存在する。だから偏見などはないが……


しかし、任務は続行できる。恋人のふりをすればいいだけ、考える必要もないか……それにオリビーも性別を隠す手助けしてくれるだろう。


「だから……この学院に残ってほしい。ティアちゃん……いなくならないで」


仕方がないか……


「はい……オリビーちゃんが認めてくれるのなら……」


「うん……ティアちゃん大好き……」


こうして、僕はオリビーと偽りの恋人関係になった。


―――第一章 完。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る