第31話 恋愛? もしかしてこれが……

「考える時間が長いと有利になっちゃうから。お題はこの部屋に来たら伝えます。じゃ、莉々伊ちゃんは和室で待っててね?」


「はいお義母様。」



 莉々伊ちゃんを奥の和室へと通し、再びリビングに戻る俺。



「お題は簡単よ。私がスーパーにお買い物に行ったは良いけど、お財布を落としたという設定。」



 ありそうなシチュエーションだ。



「そんな私にバッタリ会う武太の彼女が取る行動や如何に!?」



 母さんもノリ良いな。


 実は楽しんでる?



「あら? お財布が……落としちゃったかしら?」



 もう始まっているらしい。



「お義母様、奇遇ですね? どうされましたか?」


「ミイちゃんじゃない。実はお財布を落としちゃったみたいで。今日は特売なのに……。」



 特売の設定か。



「ならこれでお買い物して下さい。」



 ミイちゃんは自分の財布から二万円を渡す。


 間違いなく学生の取るべき対応ではないと思う。



「え? えぇ? あの……。」


「後で一緒に探しましょう。見つけた時に返して下されば結構ですので。」


「助かるわ。後でちゃんと返すから。」



 成る程。学生の対応でない事だけは間違いないが、これはポイントが高いかもしれない。


 俺が同じシチュエーションで相手の親御さんに同じ事が出来るだろうか?


 大人ならばそうするのかもしれないけど、今の俺は財布を一緒に探そうとするのが関の山だ。

















「次は莉々伊ちゃんね。」


「はい。」


「お題はミイちゃんに出した物と同じよ。私がスーパーにお買い物に行ったは良いけど、お財布を落としたという設定。」



 同じだな。



「そんな私にバッタリ会う武太の彼女が取る行動や如何に!?」



 母さん、さっきとノリまで同じだよ。


 完全に楽しんでるじゃん。



「あら? お財布が……落としちゃったかしら?」



 にしても唐突に始めるよなこの人。



「お義母様、何かお困りごとですか?」


「莉々伊ちゃんじゃない。お財布を落としちゃったかもしれなくて……。今日は特売なのに……。」


「お義母様のお財布はどのような物でしょうか?」


「ティファニーのピンク色した物なんだけど……。」



 成る程。かつて父さんが貢いだ物の一つなんだろう。


 今でも持っているという事は、母さんも実は結構父さんが好きなのか?



「分かりました。どなたかー! ティファニーの財布を拾った方はいらっしゃいませんかー?!」



 マジか? いきなりこの対応が出来るというのも凄い。


 俺なら一緒に探してしまうだけだと言うのに……。俺は所詮凡人か。



「あ! あいつ、怪しい動きを! このやろっ!」



 え? 何それアドリブ?



「お義母様。スリから無事に取り返しました。」


「あ、ありがとう……。頼りになるのね?」


「いえいえ。」



 俺は凡人だが、莉々伊ちゃんは変人だな。


 まぁ、現実でこれが起こったら頼りになるのは間違いない。でも間違いなくJKの対応でもないけどね。


















「結果はっぴょー!! ドゥルルルルルルルルルルルルル………。じゃーん!」



 それ、口で言うの?



「より良い対応が出来たのは………………どっくん、どっくん、どっくん。」



 うわ、ドキドキ感まで演出してるし。



「………ミイちゃんです!」


「やった!」


「えぇ!?」



 これは……まぁ、うん。



「正直悩んだわ。」


「莉々伊も悪くなかったという事でしょうか?」


「まぁ、うん。えっと……どちらも全く学生らしい対応じゃなくて悩んだわ。」


「え?」


「あれ?」



 だろうね。



「ミイちゃんはいきなり財布からお金出すし、莉々伊ちゃんは突然スリを捕まえるでしょ? どっちも対応としては有難いけど、彼女らしいかと言えばちょっとねぇ。彼氏のやる対応だったら二人とも満点かもしれないんだけど。」


「うっ……。」

「あぅ……。」



 その通りだ。俺が感じた違和感はこれだったのか。


 二人ともが男らしい対応過ぎるのだ。



「でも二人の良さは分かった。彼女バトルの結果がどうあれ、二人には家に遊びに来て欲しいわ。」



 おい。そんな事言うと毎日来るぞ。良いのか?


 ……多分良いんだろうな。母さんは常々娘が欲しいとぼやいていた。早く結婚して娘を連れて来いとも言われていた。


 俺がモテるモテない以前にそもそも学生だという事を理解してもらいたい所存である。



「「ありがとうございます!」」


「どういたしまして。」


「ところで私が三点中三点を獲得したけど、莉々伊ちゃんの負けよね?」



 これ、三本制だったのか?


 しかも一点は始まってもいないのに父さんがあげた点数だし。



「くっ……でも、彼女の座は明け渡しても、妻の座がまだ残ってますから。」



 莉々伊ちゃんもナチュラルに三点制だと思っていたようだ。


 君達、実は親友かなにかなの?



「どっちも武太には勿体ないわ。絶対もっと良い人がいるのに……。あ、でもそうじゃなければ二人は家に来なかったのよね。そう考えると複雑だわ。」



 俺も母さんにディスられて複雑だよ。



「もし余ったら父さんの彼女になっても良いぞ?」


「結構です。」

「間に合ってます。」


「ふん。俺には母さんがいるから悔しくないもんね!」



 フラれたからって捨て台詞吐くなよ……。


 我が父ながら、なんて三下くさい人なのだろう。



「こらこら。あなたには私がいるでしょ?」


「まぁね。今までのも冗談なわけだが。」



 本当か?


 母さんが怒っていないところを見るに恐らく本当なのかもしれないけど、やけに本気っぽく言う人だ。



「まぁ、年齢を重ねると女子への恥じらいって無くなるからね。父さんもおじさんになってからは女子相手に冗談が言えるようになったのさ。」



 俺も気持ちは分かる。


 恋愛に興味を無くしてからは、すっかり女子への恥じらいが無くなって冗談も下ネタも言えるようになってしまった。


 しかも若干楽しい自分がいる。特にミイちゃんと冗談を言い合うのが好きで……って俺は何を考えてる。


 雷人の言う通りだったとでも言うのか?


 恋愛に興味を無くした俺が?



「むっくん? 熱があるんじゃない? ほら、お部屋に行って休も?」



 ミイちゃんがさりげなく俺の手を引く。



「あら? 確かに熱いわね。」



 母さんが俺のおでこに手を当て呟く。


 ミイちゃんは見ただけで俺の体調を判別した……?



「え? 武太先輩、無理はしないで下さいね?」


「あ、あぁ。二人ともありがとう。」



 何だ? さっきから思っていたが、やけにミイちゃんが可愛く見える。


 莉々伊ちゃん相手にも少しだけドキドキするような……。



「ほら、ボーっとしてないで部屋に行かないと。とりあえず市販の風邪薬はあるから飲んで?」


「あ、うん。」



 まさか興味が戻って来た?


 ヤバいぞ。自覚したらミイちゃんが異常な程可愛く見えてしまう。


 何故かいつも通りの対応が出来ない。俺は……一体どうしてしまったんだ?



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