第25話 恋愛? 人には言えない事ってあるよね。

 ないない。それはない。


 せっかく人間関係において最も面倒な恋愛というものから解放されたんだ。自ら異性を好きになるなんてあり得ない。


 大体俺とミイちゃんは教師と生徒。恋愛感情なんて……ない、はずだ。



「雷人、それはない。」


「否定されてしまえば俺には何も言えないけどさ。正直にならんと、後悔するかもしれないってのは覚えておけよ?」



 後悔はない………よな?



「後悔はしない。俺は恋愛に興味がないからな。」


「まだ言ってんのか。中二病患者の新しい形か?」



 どうやら雷人は俺の話を信じ切れてはいないようだ。



「まぁ良いさ。それより錬蔵はどうした? いつもならとっくに来てる時間だろ?」


「あいつは零子ちゃんの家の前に打ち捨てられている。」


「どういう事だ?」


「俺も正直良く分かってない。」



 莉々伊ちゃんから聞いて状況は理解している。


 しかし感情が納得出来ないのだ。



「そのうち来るだろ。」


「学校サボる奴じゃないもんな。」



 錬蔵、取り敢えずお前の無事だけは祈っておく。



「はーい。皆さん朝のHR始めますよー!」



 教室の戸を開け、元気よく挨拶をするクラスの担任。


 俺達は自席に戻り、担任の元気に圧倒されながら話を聞く。



「皆さん休日は楽しく過ごせたかな? 私は超楽しく過ごせちゃいました! うっふふーん。」



 ミイちゃん、滅茶苦茶元気だな。



「ねぇ恋梨君。カワイコちゃん先生なんか変じゃない?」


「そうだね。」


「朝から機嫌良さそう。」


「そ、そうだね。」



 隣の席から右京さんが声を潜めて話しかけてくる。


 以前は誤魔化せたとはいえ、ミイちゃんJK形態を見ている人だからバレてやしないかと心臓に悪い。



「こら! むっく……恋梨君! すぐに女の子とお話してデレデレするのは感心しないよ。こちとら激おこプンプン丸だぞ?」


「す、すみません。」



 おい。今結構マズい事を言いかけたぞ。



「右京さんは人の男を盗らないように。私、信じてるからね?」


「え?」


「返事は?」


「は、はい。」



 やめろって。本当にバレるだろうが。


 確かに右京さんとミイちゃんと俺の三人で、そんな会話をした事はある。でもそれってJK形態の時に会話した内容なんだよ。


 サラッと担任形態で話すんじゃねーよ。



「そこは置いといて、今日からまた学校が始まりますが、面倒がらずに元気良く過ごして下さいね! いじょお!」



 そう言って元気良く去って行くクラスの担任。


 あの人マジで何考えてんだ? いや、きっと何も考えてないんだ。



「何だったんだろね?」


「さ、さぁ?」


「人の男って、恋梨君彼女いないよね?」


「う、うん。」



 何かに気付きかけているのか、右京さんは俺をじーっと見ながら質問を続ける。



「カワイコちゃん先生ってばやけに機嫌が良いし、恋梨君と親しそうじゃない?」


「そんな事はないかなうん。」


「それにさー。どっかで聞いた事あるんだよね。」


「な、なんだろう?」


「今日のカワイコちゃん先生の声って少しキーが高めで喋りも幼いじゃん?」



 もしかして、本当に気付きかけてる?



「最近ね、とあるカフェで聞いた声のような気がするんだよ。誰かさんの親戚がさ、丁度今日のカワイコちゃん先生みたいな雰囲気だったなぁって……。」



 どうすんだよこれ。


 右京さん気付きかけてるどころか気付いちゃってんじゃん。



「田舎に可愛いギャルの親戚がいる恋梨君は似てると思わない?」


「ははは……。ちょっと、似てるかも。」


「うんうん。やっぱそう思うよね。ところで話は変わるんだけど……。」



 右京さんは気付いてるはずなのに話題を変えてくれるのか。


 なんて優しいのだろう。



「川井美伊古先生って、仲良い友達にはミイちゃんって呼ばれてたみたいだよ?」


「……。」



 全然話変わっとらんがな。



「もうすぐ受業が始まっちゃうね。放課後、ミイちゃんと恋梨君と三人でお話したいなー。」


「えっと、ミイちゃんは田舎に帰っちゃったので。」


「うん? カワイコちゃん先生でも良いよ?」



 アカン。


 完全にバレてしまっている。



「あ、あぁー……そう言えば、ミイちゃんは今日来るかもしれないような事を前に言っていたような言ってなかったような。」


「じゃ、決まりね。放課後、例のカフェで良いかな?」


「はい……。」



 バレてしまったのはどうしようもない。


 ここからどう口止めするかを考えなければ。















 俺は良い考えはないものか、と受業中も休み時間もぐるぐるとその事ばかりで頭を悩ませ続けていると……。



「じゃ、恋梨君。カフェで待ってるからね。」


「勿論オッケーさ!」



 咄嗟に凄く良い返事が出た。


 気付けば既に放課後、急いでミイちゃんに事情を説明して連れ出さなければ。


 俺はスマホを取り出しLIMEを打つ。



『ミイちゃんとカワイコちゃん先生が同一人物である事がバレた。口止めの為に、JKの恰好で前に連れて行ったカフェに来てほしい。』



 ピコンとすぐに返事が返って来る。


 あまりの返信速度に驚愕するが、今はこの返信速度がありがたい。



『バレちゃったの? バレる事はしてないはずなのに変だなぁ。とりあえず、仕事終わったら即行で行く。大体15分くらいかかるから。』



 今日に限って言えば、バレる事しかしてないだろが。


 まぁ仕方ない。俺も向かうとするか。





















 カフェの扉を開けばカランコロンと小気味いい音がし、目的の人物は奥の席に一人で待っていた。



「お待たせ。」


「大丈夫。私も今来たところ。」



 実は全然バレてなくて、ジャンボグレートデラックス秘伝のタレ入りMAXあんみつパイナッポーアッポーパフェが食べたかったとかってないかな?


 ないだろうなぁ。



「えぇっと、本日はお日柄も大変良く、右京様におかれましては……。」


「何言ってるの? 恋梨君まで今日は変だよ?」



 変な事を言っている自覚はある。


 だが人は切羽詰まった時、普段とは異なる行動を取りがちだという事を是非ご理解頂きたい所存である。



「別に変な要求するわけじゃないんだから、普通にして欲しいな。」


「ど、努力します。」



 結局どう口止めしてもらうのが良いかずっと考えていたのだが、俺のような凡人には何一つ思いつかなかった。


 山吹色のお菓子とか? 袖の下?


 いかん、どっちも同じ意味じゃん。混乱していて考えが纏まらない。



「あっ、来たみたいだよ。」



 カランコロンと音を響かせカフェに入ってきたのは、本日の主役であるミイちゃんだ。


 俺が言った通り、ギャルJKの恰好で現れた。



「めんごめんご。お待たせ―。」



 危うい状況なのに微塵も危機感を抱かせないその姿には、本当に今の状況を理解しているのかと問い詰めたい気持ちでいっぱいだ。


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