第17話 恋愛? 押しが強いと困惑するよね。

「武太先輩、一緒に帰りましょう。」


「え?」


「何を呆けているんですか? せっかく友達になったんですから、一緒に帰りましょう。」


「あ、あぁ……。」



 何故か莉々伊ちゃんが昇降口に居た。


 もしかして、わざわざ待っていてくれたのだろうか?


 まぁ、取り敢えず一緒に帰るか。



「本当にお兄ちゃんには困ったものです。」


「確かにな。さっきの話はマジで酷いと思ったよ。」



 妹の告白シーンに現れては全力で声援を送る兄なんて、世界中のどこを探してもいない気がする。


 兄を机の引き出しにしまおうとする妹ってのも、恐らくどこにもいないだろうけど。



「そこで武太先輩に相談があるんです。」



 嫌な予感はするが、一応聞くだけは聞いておこう。



「何だい?」


「合法的に人間を始末する伝手とかって知りませんか?」


「……。」



 何言っちゃってんのこの娘?


 そんなもん知るわけないじゃん。



「あ、合法的というか……脱法的な感じで大丈夫なので。」



 合法的か脱法的かの問題ではない。


 この娘は俺を何だと思っているんだろうか?



「あっ。」



 いや待てよ? これは普通に考えて冗談なのでは?


 恋愛対象に兄の始末を相談する人間なんているわけないしな。



「莉々伊ちゃんってわりと冗談が好きなんだね? そうだなぁ……目隠しして遠くの山に捨てて来るとか? ははは。」


「良いアイディアですね。直接手を汚す必要がありませんし。何なら行方不明って事で処理されるかもしれません。」


「ははは……え?」


「武太先輩、ありがとうございます。お兄ちゃんの言う通り頼りにな……」

「ちょっと待て。」


「はい?」



 どうしたの? という表情の莉々伊ちゃんは首を傾げてこちらを見ている。



「冗談、だよね?」


「うふふ。武太先輩が突然そんな事を言うので可笑しくて。」


「そ、そうだよね。」



 良かった。そりゃそうだよな。


 知り合ったばかりだからか、この娘の発言はどこまでが冗談か判りにくい。


 常識的に考えれば冗談だとは思うのだが、さっきの兄への対応を見る限りではあながち冗談とも切って捨てる事が出来ない。



「その方法はもう過去に試しました。」


「は?」


「武太先輩が言った方法は既に試した事があります。」



 嘘だろ……。



「四日くらいは家に帰って来なかったのですっかり安心しきっていたんですけど、以前好きだった人に告白したらどこからともなく姿を現わして、頑張れって応援を始めたんです。」


「そっかぁ……。」



 正直それしか言えない。マジで反応に困るぞこれ。


 冗談と思いたいが、俺は知っている。


 錬蔵は高校一年の頃、学校に来なかった時がある。


 事情を聞いたところ、気付けば山に居たので異世界転生かと思って色々と試した結果、特に魔法を使える様子もステータスが表示される事もなかったので、諦めてラブ臭のする方向を辿ったら妹の通う中学へ辿り着いたのだとか。


 当時の俺はまともに取り合わず、ずる休みでもしていたのだと思っていたが……。


 ちなみに、錬蔵が学校へ来なかった期間も確か四日だ。


 莉々伊ちゃんの話と合わせて考えればピタリと符合する。



「はい。山に捨てても戻って来てしまったので、私が出来る事は殆どなくなってしまいました。」



 いくら邪魔だからって山に捨てるなよ。



「錬蔵の奴、異世界転生しなくてもチート持ってんじゃん。」


「何ですか? それ。」



 おっと、動揺し過ぎて意味不明な事を言ってしまった。


 違うだろ。先ずは錬蔵を捨てて来た事に対してツッコミを入れるべきだ。



「兄を捨てたらダメだろ。」


「そうですね。結局戻って来てしまいましたし、多分私の捨て方が悪かったんです。今度は違う方法を考えたいと思います。」



 違う。そうじゃない。



「始末する方向じゃなくて、邪魔されない方法を考えてみない?」


「考えたこともありませんでした。そんな事……出来るんでしょうか?」



 莉々伊ちゃんは心底驚いた様子で俺に問いを投げかける。



「分からないけど、やってみる価値はあるんじゃないかな。」



 始末するよりは余程建設的だと思う。


 と言うか邪魔されない方法より先に、元凶を始末する方法を考えてしまうという思考回路が本当に猟奇的である。


 兄妹揃って大概オカシイだろ。


 錬蔵の奴、良く今まで生き残ってきたよなぁ……。



「ありきたりな方法だけど、邪魔されない為には何か別の事で錬蔵の気を逸らすのが良いんじゃない?」


「ですね。どうやらお兄ちゃんは昨日彼女が出来たようなので、お兄ちゃんと彼女が性交している隙に、私が自分の恋愛を成功させると良いのかもしれません。」


「いや、うん……まぁ。」



 方法としては間違っていないかもしれない……が、何でいきなり性行為になるんだよ。


 普通にデートさせとけば良いじゃん。



「あのさ、普通にデートさせたら良いんじゃないか?」


「あ、そうですよね。武太先輩、明日は暇ですか?」


「土曜だしな。暇っちゃ暇だけど。」


「では明日お兄ちゃんが彼女とデートしている隙に私とデートして下さい。」


「それは断る。」


「言い方が悪かったですね。友達になったんですから、遊びに行きましょう。」



 この娘メンタル強過ぎ。


 ド直球で断りを入れたのに、次の瞬間には普通に誘ってきやがる。



「明日は勉強しようと思って……」

「では私の家で一緒に勉強しましょう。明日は家族も外出しますし。」



 食い気味で来るなぁ。


 この娘って後退のネジ外れてんのか?



「いや、いきなり二人っきりってのはちょっと……。」


「ダメですか?」


「ダメだね。」



 女子に興味が湧くかどうか以前に、この娘と二人きりになるのがちょっと怖い。



「そうですか。でしたら武太先輩の家にお邪魔します。」


「何故そうなる?」


「ご家族がいらっしゃいますよね? 二人きりではありませんよ。」



 絶対この娘にだけは家を知られたくない。


 幸い錬蔵も俺の家を知らないので、錬蔵経由でバレる事もなさそうだ。周囲の人間には俺の家を奴に教えないよう口止めしておこう。



「やっぱり、明日どこかへ出掛けよう。12時に怒涛の勢い駅で待ち合わせ。これで良いかな?」


「はい。楽しみにしてますね。あっ、私はここで下車しますので。」


「莉々伊ちゃんの家は猛烈な勢い駅が近くなんだね。」


「はい。明日楽しみにしてますからー。」


「あぁ。また明日ね。」



 莉々伊ちゃんは鼻歌を歌いながらスキップで電車より去って行く。


 高校生にもなってスキップしてる奴なんて初めて見た。




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