第16話 恋愛? 時には若さに嫉妬する事もある。

「ほらね、怖くない。」



 莉々伊ちゃんはデッキブラシを下ろし、兄を解放していた。



「どうしてこんな事になったの?」


「まぁ、ざっくりと言えば……。」



 俺はこれまでの会話の流れをミイちゃんに説明した。


 何故か勝手に俺を莉々伊ちゃんに紹介する話になっていた事。


 錬蔵が莉々伊ちゃんの恋愛を毎回邪魔しているという事。


 そして邪魔する度に莉々伊ちゃんが錬蔵を虐待している事。



「それは齊藤君が混じりっけなしの100%悪いわね。私がもし校長だったら退学させるわ。」


「そうですよね? やっぱりお兄ちゃんが悪いですよね?」



 俺は莉々伊ちゃんもどうかと思うのだが、女子同士で何か通じるものがあるのか、全て錬蔵が悪い事になっていた。


 確かに元凶は錬蔵だとは思うけどさ。



「間違いなく斎藤君が悪いわ。特に断りもなく恋梨君を勝手に紹介しようとするなんて最低最悪よ。英語の成績下げてやろうかと思ったわ。」



 ミイちゃん? それ、私怨混じってない?



「カワイコちゃん先生、そりゃないぜ。」


「斎藤君は反省して下さい。妹の恋愛を邪魔するだなんて兄の風上にもおけない奴よ。」


「俺はただ、妹を応援していただけで……。」


「それが余計なの。兎に角、今後は邪魔しないように。」


「はぁい。」



 こいつ、また邪魔する気だな。



「さ、ホームルームの時間よ。今回の件は齊藤君が全面的に100%悪いので問題にはしないけど、暴力はオススメしないからね? 妹さんも自分の教室に戻って。」


「はい。」



 返事をするなり莉々伊ちゃんは駆け出して行った。と言うか、今回の件は普通に暴力だから大問題だろ。


 確かに兄妹喧嘩と言えなくもないけど。


 にしてもやり方はどうかと思ったが、莉々伊ちゃんを宥めていた時のミイちゃんは紛れもなく大人の女性だった。


 なんだかんだで先生って事なのか。



「それでは皆さん席について下さーい。後、詳しい事情を聞いておきたいので、恋梨君は放課後指導室に来て下さいね。」


「先生、俺は?」



 錬蔵は自分もミイちゃんと関わる事が出来ると思っているからか、妙にウキウキして嬉しそうだ。


 お前は彼女出来たばかりだろうが。



「斎藤君は最低なので必要ありません。」


「え?」



 先生が生徒に向けるとは思えない程の絶対零度の視線が奴に向けられている。


 まるでそこらの虫を見るような眼だ。



「最低なので必要ありません。」



 錬蔵はショックでその場に崩れ落ちていた。










「で? 恋梨君は齊藤君の妹さんとどうする気なの?」



 今のミイちゃんからは恐ろしいまでの圧を感じる。


 毎度恒例の指導室の中では、俺が本当に指導されているかのような雰囲気に包まれており、非常にピリピリとした空気感だ。



「一応友達という事になったよ。本当は断りたかったんだけど、あの雰囲気で友達としての付き合いまで断るのは難しいし。」


「友達としてなら許します。友達としてなら、ね。あくまで友達として適切な距離感を保って下さい不純異性交遊反対。」


「ただの友達だから。恋愛に発展しなければ諦めるって言ってたし。」


「恋梨君は甘いよ。そう言う人に限ってなかなか諦めないんだから不純異性交遊反対。」



 何それ? 語尾が不純異性交遊反対になってんだけど?


 あとその言葉に関しては散々誘惑してきたお前が言うなという思いもある。



「それ程心配しなくても大丈夫だって。莉々伊ちゃんに関してはどうせ錬蔵が邪魔に邪魔を重ねて上手くいかないってオチだろうし。」


「まあ! 莉々伊ちゃんですって、聞きました奥さん? 親し気にちゃん呼びだなんて、本当に最近の若い人ったらすぐに仲良くなっちゃってイヤだわぁ。」


「いや、たかが呼び方一つで反応しなくても……。」



 俺と莉々伊ちゃんが仲良くするのが余程お気に召さないのだろう。


 小芝居も相まって、焦りのような感情がヒシヒシと伝わって来る。



「ううぅぅ……。」


「なにも唸らなくても……。」


「向こうの方が8歳若いもん。」


「ミイちゃんだって若いじゃん。」


「あっちの方がおっぱいデカいもん。」


「うん。」


「あぁ!! うんって言った!?」



 おっぱいの大きさは変えられないんだから仕方ないじゃん。



「普通だったらそんな事ないよって言って揉んでくれるものでしょ!? ほら、君の方が大きいよ? みたいな。」


「んな事しねーよ。」



 どこのセクハラ親父だよ。


 するかってーの。



「ほら、あっちは張りがあるかもしれないけど、こっちだって凄く柔らかいんだからね!? ほら、ほら!」


「ちょっ、ちょっと!」



 押し付けられるのは嬉しいが、ここは学校なのでやめて頂きたい。



「あんなに大きくたってどうせ硬いだけなんだからっ!」


「わかった、わかったから!」



 つか地味に莉々伊ちゃんをディスってない?



「まぁ、わかってくれるなら良いんだけどね?」


「先生。」


「ミイちゃんでしょ?」



 何を不思議そうな顔してこっち見てんの?


 アンタ一応先生だろが。



「いいえ、あなたは先生です。先生は先生らしく、きっちりした態度で生徒に接して欲しいと思います。」


「やだやだやーだぁ!」



 うわっ……。



「ミイちゃんって呼んでくれなきゃヤダぁぁぁ!」


「学校だしさ。」


「恋梨君と二人っきりの時は一人の女だもぉん!」



 うん。一人の女というか、これじゃあ一人の子供だ。


 一昨日電話でミイちゃんが言っていた通り、俺の周囲には地雷物件の女性しかいないようだな。


 ミイちゃん含めて。


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