第14話

 事故から3日が経ち、俺の意識もはっきりとしてきたところで、俺と母さんは医者からの説明を受けた。

「右腕はかなり複雑に骨折をしています。靭帯の損傷もかなりひどい状態です」

 レントゲン写真を見せられたけど、俺にはよく分からなかった。

「この子の腕は…どうなってしまうのでしょうか…」

 母さんは俺が怪我してからというもの、俺の右腕のことをずっと気にかけている。

「短くて5カ月、長くて8カ月で完治、といったところでしょう」

 この答えだけじゃ安心のいかない母さんは、

「この子の腕は、ちゃんと動くようになるんですか?」

 と重ねて質問した。

「リハビリを繰り返せば、少しずつ日常生活は送れるようになるかと」

 医者がそう答えても、まだ満足のいかない母さんは更に質問を重ねた。

「野球は? また野球は出来るようになるんですか?」

『野球がまた出来るのか』これが俺と母さんにとって、一番気になることである。

 右腕の怪我一つで選手生命を絶たれてしまう選手も少なくはない。俺は元々、過去の怪我で右手首が弱かったから、余計に不安なところである。

「はっきり申し上げますと、」

 医者は言葉を選びつつ話しているように見えた。

「長期間リハビリをしても、野球が出来るようにならない可能性もあります」

 その言葉は、俺に待ち受ける運命をごまかされているようで、もどかしかった。

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