森の絵描き屋さん

夢水 四季

第1話

ある森に一羽のフクロウが住んでいました。

 フクロウは絵を描くのが好きで、森の仲間たちから「画伯」と呼ばれていました。

 彼の家には自分の自画像や森の木々、空から見えた景色の絵が飾られています。

 森の仲間たちは時々、彼の「美術館」に訪れては絵を見ながら一緒にお昼ご飯を食べたり、楽しくおしゃべりをしたりします。


 ある時、リスの子どもがフクロウの噂を聞いて、彼の家に訪れました。

「すみません、絵を描いてもらえませんか?」

「絵? 何の絵だい?」

「僕のお母さんの絵をお願いします」

 フクロウは少し考えました。

 今まで自分の絵は描いたことがありましたが、他の動物の絵を描いたことはありませんでした。彼は自分の絵には自信を持っていましたから、描けないということはないだろうと思っていますが。

「僕のお母さんの誕生日プレゼントを贈りたいんです。……最近、お母さんの元気がないから、森で評判のあなたの絵を贈れば元気になるかなって……」

「確かに私の絵は評判になっているが、絵を贈ったくらいで元気になるものかね」

「お母さん、昔あなたの書いた絵に勇気をもらったことがあるそうなんです。お日様みたいなお花の絵だったって……」

「ふうん」

「だから、きっと元気になります!」

 フクロウは「ふむ」と一言頷いて、倉庫にしまってあった絵をがさごそと探します。

「ああ、これか。そんなに上手い絵ではないのだがな」

 そこにはまるで太陽のようなヒマワリの花が描かれていました。

「少年、君の母はどんな顔をしている?」

「描いてくれるんですね!」

「ただし、お代はもらう」

「え……」

「当たり前だろう。私ほどの画家の絵をもらえるのだぞ。タダである訳がない」

「えっと……、どんぐりならあります」

「では、それでいい」

 フクロウは正直安いと思いましたが、今回は絵を描いてやることにしました。

 羽で絵筆を持ち、もう片方の羽でパレットを持ち、リスの子どもから母の特徴を聞きながら、どんどん描き進めていきます。


 しばらくして、絵が完成しました。

 ヒマワリの花束を持った母リスと子リスが仲良く微笑んでいる絵です。

「ありがとうございました!」

「ふむ。お礼を忘れずに持ってくるのだぞ」

「はい、本当にありがとうございました!」

 自分の家に帰っていく子リスを見ながら、フクロウは自分が初めて描いた絵のことを思い出しました。

「私の母の絵はまだとってあるだろうか」

 今と比べれば下手っぴで、輪郭もめちゃくちゃで色も所々はみ出していましたが、それでもお母さんが褒めてくれて、それが嬉しくて彼は沢山の絵を描くようになったのでした。

「思えば遠くに来たものだ」



 とある森で、一羽の老いたフクロウの元に手紙が届きました。

 「拝啓 お母さまへ

    お元気でしょうか?

    最近描いた絵を贈ります。昔とは格段に上手くなっているでしょう。

    それと、お客様から頂いたどんぐりをおすそわけします。

    煎りどんぐりにすると美味しいです。

    それでは、またいつか会いにいこうと思います

                                    敬具」



 老いたフクロウは微笑みながら、同封されていた絵を下手っぴな絵の隣に飾りました。


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森の絵描き屋さん 夢水 四季 @shiki-yumemizu

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