こっとん堂と銀少女 1

こっとん堂と銀少女


「彼女はね、その一号店こっとん堂……僕と妻で営んでいたお店のお手伝いとして働いていたんだ」


「……少し、長い話になるよ。きいてくれるかい?」


 ✴︎ ✴︎ ✴︎


 僕とその妻「小梅」は永い間共に暮らしていた。

 この大陸には、月の民と星の民の2つの民が混同して暮らしている。月の民と星の民、どちらと大きな差はない。違うのは血の濃さと魔力量くらい。そもそも、この国の人々は何千年もの時を生きる生物なのである。血が濃くて魔力が強く多い方が月の民で、薄く魔力が少ししか持ち合わせていないのが星の民。基本的に月の民は王族にしかもういないとされているが、生き残りの月の民はまだ山ほどいる。

 小梅は櫻王国の王女で、僕は月の民の隣国からの脱走者。隣国のアンダール王国では、まだ月の民への反乱が続いていて、僕は櫻王国の城に忍び込んだ所で、彼女と出会い、様々な選択を経て、喫茶店を営んでいた。


「小梅、今日は雨だね」


「そうね。……あっ」


 入ってきたのは、暗く目を伏せて、こちらを向くために斜め上を見るのがやっとなくらいに落ち込んでいた少女だった。まだ100も行っていないことだろうし、落ち込んでいるという表現が合わないくらい、鬱々とした雰囲気を感じた。

 外の雨の中、傘も刺さないでいたのだろう。彼女の綺麗な銀色の髪は、びしょ濡れで髪が顔に張り付いていた。


「大変!」


 小梅は急いでタオルを取って少女のところに駆け寄る。

 少女は一言も言葉を発さず、光のない瞳をただ下を向けている。


 この喫茶店は小梅の魔法がかけられていて、人は自分の精神状況を隠すことができない。どんなに外で取り繕っていても、ここではありのままに戻ってしまうのだ。

 彼女が外でどんな態度をとっているかは知る由もないが、この状態が良い訳ではないだろ。


「……ありがとうございます」


 彼女は小さな声でそう言った。

 小梅が拭いてあげようと頭にタオルを被せようとした時、彼女はびくりとし、両手で頭を庇うような姿勢をとった。そんな彼女を、小梅は優しく包み込むようにその両手を解いて、包み込んでやった。


「……すみません!つい、癖で」


 喋れば明るい子だった。でもそれは


「ううん。頭拭くね」


 無理矢理繕ったような、今にも泣きそうな声だった。

 日々ここにたどり着く彼女とは段々と打ち解け、分かったのはどうやら彼女は両親とのいざこざや学校でも苦労があるらしく、さらに月の民としての差別も少々。苦労して生きてきた子だった。

 当時14だった彼女は、15歳で隣の隣の国。リベール王国のリベルテ学級王国に転入、そして寮暮らしを始めたのだ。


 ✴︎ ✴︎ ✴︎


「ナルキスさん、こんにちは!」


「やぁ、リアリー」


 リアリー・ノースプレイズ、その後の名前をリアリー・ローズブレイド。彼女は寮暮らしになって悩みの種からはある程度解消されたおかげか、彼女は徐々に心からの笑顔を取り戻していった。


「ね、ナルキスさん。新しい学校で友達ができたの!2人目!」


 どうやら彼女には、前の生活の時にいた唯一の友人がいて、その人のおかげでここまで生きてこられたとか。

 前の生活での彼女は非常に他人から舐められやすい性格であり、常に人の顔色を見て、他人に合わせご機嫌をとる。自分が傷ついてもそれを顔に出さない。表向きだけを見れば、彼女はただヘラヘラと笑っているだけの幸せな子のように見えるのだろう。皆彼女になら何を言ってもいいと思っていて、悪気はないが度がすぎた事を平然と彼女に言ったりやってのける。なんともまぁタチが悪い。


「よかったね。また舐められてはいないだろうね?」


「それが!全然そんな事はなくて、凄いしっかりしてる子なんです。博識で、クールで、美人で素敵!」


 リアリーは顔をキラキラさせながらそういった。よほど嬉しいのだろう。その後もその子との交流を事細かに話している。

 出会って一年。ようやく本来の彼女の明るさが出てきたように思える。そんな彼女はこっとん堂名物、クリームブリュレソーダを頼みたいという。


「あら、リアリーちゃんいらっしゃい。お友達ができたの?」


 裏から出てきたのは小梅は、そのソーダを持ってカウンターに出てきた。


「素敵な笑顔記念に、アイスマイルだよ!」


「わぁぁ!小梅さん、いいんですか!?」


「もちろん。笑顔は大事だもの!」


「ありがとうございます!」


 リアリーはとても愛嬌のある子で、感じもいい子だ。流されやすい子なのかとも思ったが、意外にも自分の意見や考えを曲げない頑固な子でもあった。だからこそ、あのような目にあいながらでも生きてこれたのだった。


「あっそうだ。小梅さんナルキスさんあのね……」


 (そろそろあいつが帰ってくる頃か……)


 2人の会話を耳にしながらぼんやりと今度帰ってくるのことを考えていた時、リアリーが少し居心地の悪そうに何かを言いだそうとしている。


「そのお友達も、今度ここに連れてきてもいい……?」


「もちろんだよ。僕が見極めてあげよう」


「楽しみだわ!いつでもきてね!」

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