おまけ話 死神少女と皇女様
「最近、お兄ちゃんが女の子と夕方まで遊んでた」
「それって、彼女さんとかじゃないの?」
「お兄ちゃん彼女とか居ないって言ってた」
教室の廊下を箒で掃きながら会話をする。周りの教室や廊下も同じようにみんな協力して掃除している。私の隣に居るのはこの学校で最初の友達。根はいい子だが時折、ノリがうざいと感じる。もう1つ嫌な点は名前が
「う~ん、でも高校生になったら彼氏彼女が出来るって他の子が言ってたよ」
「そうなの?」
「うん、高校生はみんなお付き合いしてるんだって」
「うぅ」
「大丈夫だよ。あかりんも高校生になったら彼氏できるって」
そういう事ではない。もしお兄ちゃんに他の仲の良い女の人が出来てしまったら、私に構ってくれなくなるのでは。お兄ちゃんは年下より年上が好きなように感じる。ジムの女の人や皇帝の手下の女の人を見るときの目が私の事を見るときと違っている気がする。
「あら……掃除をサボっておしゃべりですか?」
「ん?誰?」
「え?知らないの?朱音ちゃん」
知らない。この学校に来て1か月くらいたったので同じクラスの人の名前と顔は一応覚えたが、こんな顔の子は知らない。可愛い系というよりは綺麗系のすらっとした鼻筋、切れ長の目、艶のある唇、肩辺りまである黒髪。そして、人を下に見るような口調。
「この人、皇財閥の子なんだって」
夏奈ちゃんは耳元で囁くように伝えてくる。
「へぇ……じゃあ、皇帝の妹?」
「なっ!?お兄様を略して呼ぶなんて無礼ね、貴方」
「だってあいつも私のこと死神とか言うし……」
「朱音ちゃん、皇さんのお兄さんとお友達なの?」
なんか夏奈ちゃんが驚いたように聞いてくるが、別にあんな奴すごくもなんともない。皇財閥と聞いた時は驚いたがいざ会ってみれば普通の人となんら変わらない人間だった。
「昨日も家でス〇ブラしてたよ。ボコボコにしたけど」
「なっ……朱音……まさか、貴方が四ノ宮?」
「うん、四ノ宮」
「そう……そうだったのね」
「?」
なんか……黙り込んじゃった。ていうか、人の掃除を指摘してんのに当人は何もしてないじゃん。
「貴方、覚悟していることね」
「?」
さっきから頭の中にクエスチョンマークが尽きない。何言ってんだ?金持ちになるとみんな訳の分からないことを言いだすのかな。
+ +
「え?」
それはまるで……まるで……なんて言えばいいんだろう。とにかく、可愛かった。肩にギリギリ届かないくらいの長さの黒髪、当たり前のように刻まれている二重線、くっきりとした涙袋、綺麗なピンク色をした唇、そしてそれらが完璧に配置された顔。
「あれが……」
下世……なんとか。私の新しく出来た家族を奪ってしまうかもしれない女。彼女は親しそうに私の家族に駆け寄り、隣を歩いている。身長は彼よりも2,3㎝ほど低い。そこまで変わらない。
何より気に入らないのは、その風貌でも、身長でも、仕草でもない。胸だ。私のものを2つ足しても足りなさそうなほど豊満な胸。それを支えている足腰にも程よく肉が付いている。
「……」
それは手を伸ばす。人間ではないから、本当の意味で腕そのものが伸びていく。今は手に何も持っていない。死以外は……。
「!?」
「……」
彼の隣に居る女はこちらに振り返り、目を細める。まるで笑っているかのように。そして口を動かす。
「 」
見えないはずだ。何の力も持たない彼女には。
でも……。
ダメだよ。
彼女の口は声すら発していなかったが、口の形がそう言っていたように見えた。
+ +
「何かしらこれは……」
「……」
「答えなさい。なぜこんなことになったの?」
「私が集中していなかったからです」
「はぁ……」
お母様は決して声を荒げない。感情が高ぶった時でも、冷静に優雅にふるまっている。すべては皇と言う称号を守るため。皇家の人間は常に完璧を求められる。皇家の力は日本の皇族などを除けば頂点に君臨していると言っても過言ではない。
「テスト1つから皇家の評価に関わってくるのです」
「はい、お母様」
「それなのに……」
「お母様、もうその辺で良いのでは?人間である以上、仕方のないこともあります」
廊下を通りかかったお兄様がお母様に語り掛ける口調で話しかけた。お母様は常に完璧を求める方だ。そしてお兄様は常に完璧以上の結果を出す人間。お母様も必然的に納得する。
「はぁ……美幸も兄を見習いなさい」
「はい」
+ +
「ありがとうございます。お兄様」
「いや、母さんも少し言い過ぎていたから少し横から突いただけだ」
「……」
「じゃあ、俺は夕食まで自室に居る」
「お兄様」
思わず、後ろを向いたお兄様の背中に向かって声を発した。少し上ずってしまったが、それでもお兄様は振り返ってくれた。
「何だ?」
「……お兄様は……お付き合いをしている女性が居るのですか?」
「いや、居ない。なんでだ?」
「いえ、その……最近、少しだけ様子が変わったので……」
「まぁ……そうだな」
お兄様は少しばかり口元を緩めるだけで、はっきりとした理由は教えてくれなかった。
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