第10話 No one escapes death
『死神』……タロットカード大アルカナの13番目のカード。
生命の死だけではなく物事の終了や人との別れなど、何かが終わることを示しています。次の段階が不透明な状態です。
物事が終わると次の世界が見えてくることを示し、状況がほぼ180度変化して生まれ変わったような状況が訪れます。
+ +
少女はただ彷徨っていた。自分の居場所はどこにもない。何故ならこの世に存在してはいけない力を持っているからだ。
「お母さん?お父さん?どうしたの?」
「……」
「……」
少女が呟いた問いに答えはない。そもそも答えられる状態ではない。
お父さんと呼ばれた男は首がありえない方向にねじ曲がっており舌は口からだらりと垂れ下がっている。
お母さんと呼ばれた女は全身に擦り切れた傷跡があり、男と同じように手足がありえない方向に折れ曲がっている。その影響なのか体の所々から折れた骨が突き出ている。
「あぉ……げおぉオぼ……」
男はありえない方向に首が折れ曲がっているため喉もおかしくなっているのか正確な発音が出来ていない。それでも少女はまるで理解しているかのように首を縦に振る。
「うん、おいしいよ」
男性と女性と少女は1つのテーブルを囲んでいる。テーブルには乱雑にコンビニ弁当が置かれている。しかし、弁当に手を付けているのは少女のみで男と女は体を動かさない。
「ううん、気にしてないよ。コンビニのお弁当もおいしいよ」
少女は女の方を向いて笑みを浮かべる。女は一言も発していないが少女には何かを言っているように聞こえているのだろう。
「お兄ちゃんも早く帰ってこないかなぁ?」
「こぶ……ひゅっ……」
喉に空気が通る音。もはや声すら発さなくなってしまった。男に向かって同じように笑みを浮かべる。
「うん、きっと帰って来るよね」
暗い部屋。電気は付いておらず本来なら相手の顔すら見えず、会話もままならない状態なのにも関わらず少女は楽しそうな声を上げて食事を楽しんでいる。
+ +
「おはよう、帝」
「あぁ……昨日の件だが……」
帝は挨拶に対して特に反応を示さずに用件だけを伝えに来る。最初から思っていたが、帝は愛想というものがない。愛想というものを覚えずに幼少期をすごしてきたのだろう。
「昨日、学校に出入りした人間を調べてみたが……やはり、怪しい人物などはいなかった」
「そうか……やっぱり勘違いだったのかな?」
「分からない……だが、警戒をするに越したことはない。学校だからと言って油断はするなよ」
「あぁ」
他の異能力者は平気で学校でもお構いなく殺しに来るかもしれない。しかし人が人を殺すという現場を見たことがないからなのか、未だに殺し合いという意識が薄い。
「おはよー。何の話してるの?」
「あっ……お、おはよう」
「……」
帝と話していて気づかなかったがいつの間にか隣の席に永遠さんが座っていた。そしていつの間にか帝は自分の席に座っていた。
「で……何の話してたの?」
「いや、特に……」
「へぇ……」
何やら怪しまれている気がする。帝と会話をしているだけでこんな風にみられるのか。永遠さんの目から目を逸らした瞬間、永遠さんは笑いかけて来た。
「嘘だよ。何でもない」
「……ははは(棒)」
彼女の笑みは何か別の意味を孕んでいる気がする。顔はちゃんと笑顔だが、何かが足りない気がする。
「そう言えば、今日って数学の小テストがあるんだけど……」
「……えっ?」
+ +
「疲れた~」
普段の授業にすら付いていけていないのにいきなり小テストをさせられた。結果は散々。正直、ほとんど白紙の回答用紙を提出してしまった。
「今日は簡単だったね」
「えっ?」
隣の席で永遠さんが前の席の人と談笑しているのを聞いて耳を疑った。あのレベルで簡単なのか……じゃあ、普段はもっと難しいという事になる。正直付いていける気がしない。
「そ……そうっすか」
「愚上君は?どうだった?」
「いや~全然できませんでした」
「そっか……まぁ……しょうがないよ。数学の先生結構いやらしい問題出すから」
確かに問題の出し方が前の学校とは明らかに違っていた。そもそも問題文に記載されている条件が少なすぎるため、どうやって解いたらよいのかが分からなかった。
「分からなかったら聞いてね。私、数学は得意だから」
「はい」
学校生活においては完全に頼りっきりな永遠さんに少し申し訳なく感じながら小さく返事をする。
回答用紙の数を数え終わった数学教師が教室から出ていくといつも通りの雰囲気が戻って来た。多くの生徒は席を立って友達と話したり、廊下に出て行ったりしている。
「……」
俺はと言うと、スマホを開いてあるワードを検索欄に入力している。
【異能力】
当然、検索結果一覧に出てくるのはアニメや漫画などに関するものばかりで現実世界に関係するものはほとんどヒットしていない。
「ん~」
数秒、唸って悩んだ末に別の言葉を検索してみる。
【タロットゲーム】
これに関しては多くの件数がヒットした。しかし、どうやらタロットゲームとは実際に存在する遊戯のようでタロットカードを用いたゲームらしい。つまり俺たちはカードであり、誰かがそれでゲームをしているという事なのだろうか。そもそも世界はなんでこんなゲームをやろうと思ったのだろうか……。
「何見てるの?」
しばらく沈黙しながらスマホを覗き込んでいる俺を不審に思ったのか、永遠さんが俺に話しかけて来た。俺のスマホを覗き込もうとしたせいでかなり顔が近い距離に来ていたため声がいつもよりはっきりと聞こえた。せいで一瞬体を震わせる。
「あっ……ごめん」
「いや、大丈夫」
「何見てたの?」
まるで画面を隠すかのようにとっさにスマホの電源ボタンを押したため、スマホの画面は暗くなっている。
「いや……都市伝説とか、そっち系ですよ」
「へぇ~……好きなの?」
「いや……そういう訳じゃないんですけど、ちょっと気になっちゃって……」
「私は好きだよ。都市伝説系の話とか、心霊系の話とか」
意外だ。女子はそういう系の話は苦手な人が多いイメージだが、永遠さんは好きらしい。しかし、そんな話よりも先ほど声を掛けられたときの耳に吐息が耳にかかるような感触が忘れられない。正直、自分でもキモイと思っている。
「あれ?耳赤くなってるよ」
「マジっすか」
とっさに耳を手で覆い隠す。確かに耳から手に熱が伝わっているのを感じる。おそらく本当に耳が赤くなっているのだろう。
「ど……どんな話が好きなんですか?」
耳が赤くなっていることから話題を逸らすかのように不自然な話題の切り返し方をしてしまう。しかし、永遠さんは気にせず少し間を置いてから口を開いた。
「そうだね……事故で家族を無くした女の子の霊が家族を探すために道を歩いている人に声をかけてくる話とか、有名なので言うとそれこそ……「きさらぎ駅」とか「八尺様」とかかな」
確かに俺でも微かに聞いたことのある有名な話ばかりだ。永遠さんの見た目からは全然想像できなかった。今どきの女子高生はもっと他の話題で盛り上がっているのだと思っていた。
「あと……最近だと「SCP」とか超能力みたいな話もちょっと好きかな……」
「へぇ……」
SCP……聞いたことのない単語なので今度調べてみようと思った瞬間に一時間目の授業である英語の教師が教室に入ってきたため、その話題は一時中断となった。
+ +
ある道を歩いている。家からコンビニまでの道で大して距離は無いので部屋着のまま財布とスマホだけしか持っていない。
時刻は8時前、辺りは暗く、裏道のような場所なので人通りもかなり少ない。街灯もさっき通った踏切の辺りから急に少なくなった。
「ねぇ……」
いきなりか細い声が聞こえてきたため、不思議に思い辺りを見渡してみるがそれらしきものは見えない。左側には線路とそれを守るためのフェンスがあり、右側には小さな公園がある。しかも今はちょうど陸橋の真下に居るため視界は暗闇に支配されている。
「ねぇ……」
今度はハッキリ聞こえた。後ろだ。自分の背中の方から聞こえてくる。
振り返る。
「……お兄ちゃん?」
そこに居たのは少女だった。身長は俺より10㎝程小さい見知らぬ少女。第一印象……不気味。
「誰?」
そう言った瞬間、少女は口角が引き千切れるくらいの笑みを浮かべた。
そして、右手の数字に痛みが走った。
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