第51話 1+1は?

 不本意とはいえ、ヤバいキノコを食べてしまいました。


 なんてことでしょう。私、置き引きとスリと当たり屋はやりましたが、違法な薬物には手を出していませんからね。


 それにしても、どんな毒性を持ったキノコなんでしょうか。


 やっぱり幻覚ですか? ラリっちゃうやつですか? 


 最初に影響が出てきたのは、僧侶のレーニャさんでした。


「もうギャンブルはやめるわ。これからは真面目に戒律を守って、敬虔な教徒になるから」


 ええっ!? あんなにギャンブル中毒だったレーニャさんが、なんで突然真面目な僧侶になろうとしているんです!?


 続けて戦士のアカトムさんは、すべてのやる気を失った表情で、虚空を見つめながら語りました。


「もう騎士なんて目指さないで、テキトーに親の遺産食いつぶして生きてこうかな」


 な、なんで真面目なアカトムさんが、こんなゴク潰しのニートみたいな意見を!?


 最後に武道家のシーダさんは、だらしない姿勢で頬杖をついて、あくびもしました。


「パワーなんて必要最低限でいい」


 そんなぁ……なんでも力技で解決しようとするシーダさんが、筋力を否定してしまうなんて、いったいどうしてしまったんですか?


 …………もしや、これがヤバいキノコの効果?


 元学者の魔人が、キノコの効果を教えてくれました。


『性格反転キノコといってな、錬金術の貴重な素材なんじゃよ』


「性格が反転するんですか、なるほど……ちなみに私は腹黒なわけですが、性格が反転したらどうなるんでしょう?」


『卑怯なことができなくなって、なんでも真っ向勝負するようになるんじゃないか?』


 こ、この私が真っ向勝負ですって?


 それはまずいですね。レベル一の遊び人が正攻法で戦っても、百パーセント負けますから。


 と思っていた矢先に、クイズ用の魔法人格が、追加報酬をゲットするためのボーナス問題を出題してきました。


『早押しクイズで勝利したパーティーが、追加ボーナスをゲットするための問題です。1+1は? なおこの問題に正解しますと、クエスト報酬にお得な冒険セットが追加されます』


 これだけ簡単な問題を追加ボーナスの条件にするってことは、元学長の魔人による若者向けのサービス問題ですね。


 駆け出しの冒険者にはお金がないから、生活に役立つアイテムを支給するっていう。


 たしかに普通に冒険しているときであれば、こんな簡単な条件で追加報酬が得られるのは、すごくありがたいんですけど。


 現在の私たちはダンジョン配信者になりましたから、たとえ不正解になろうともおもしろいこと言わなきゃ負けなんですよ。


 でも性格反転キノコを食べたせいで、いつもの裏技じみた発想が生まれてきません。


 脳内では、1+1は2だろうって素直に考えちゃっているんです。


 いいですか、私の反転した性格、真面目に答えたらおもしろくないんですよ???


 1+1=2なんて、バラエティ的にはアウトの答えですよ。


 算数として正しいとかじゃなくて、おもしろいかどうかなんですよ。


 それなのに性格反転キノコのせいで、私の手は解答ボタンを普通に押してしまいました。


「1+1=2です」


『正解! 追加ボーナスゲットおめでとうございます。大事に使ってくださいね』


 小麦粉、砂糖、塩、の三点セットが支給されました。


 たしかに生活に役立つありがたい追加報酬をゲットしたんですけど、解答としてはつまらないですよ!!!


 なんですか、この微妙な空気……配信のコメント欄も苦笑い的なやつが並んでいました。


『性格反転キノコは致命傷だったなw』『ユーリューの持ち味が消えてる……』『ある意味オチはついてるよね、ある意味では』『ドンマイ、次回の配信に期待してる』


 さらには元学長の魔人が、ぱちぱち拍手しながらダンジョンの出口まで見送ってくれました。


『クエストクリアおめでとう、若者諸君。君たちの人生には、これからも困難が待ち受けているだろうが、めげずにがんばってくれたまえ。もっとも大切なさくせんは【いのちをだいじに】だよ』


 卒業式における校長挨拶のノリでした。


 なんでお笑い路線の物語なのに、オチがちょっと感動系なんですか。


 これもすべて性格反転キノコのせいですからね。


 ***CMです***


 音楽系出版のハートフルミュージック社です。


 卒業式の定番BGMが、この一冊ですべて演奏できます。鍵盤から管楽器まで、あらゆる楽器に対応。専門家によるコード進行の解析もついているので大変お得です。春は出会いと別れの季節、あなたも卒業式をきっかけに、楽器を初めてみませんか?

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