タイトル

@rabbit090

第1話

 きれいだと感じた。

 空気がまずおいしいし、おいしいっていうのか?まあ、とにかく普段吸っている物とは少しだけ成分が違っているように感じる。

 それに、道行くところどころに人がいない。

 僕はついこの間まで人だかりに行くと体調を崩してすぐ目が覚めたら病院とか、とにかくベッドの上に運ばれていることが多かった。

 でも、その通りだ。

 僕は人間が苦手だった、それも極端に、分かりやすく極端に苦手だった。

 「はあ、何でこんなところに連れてこられてきたのだろう。」

 呟くしかなかった。

 人もいない、何もいない。

 最果てみたいな場所、誰が連れてきてくれたかという事だけ分かっている。

 もぞもぞと体を動かしながら、緊張を強いられている自分に気付く。それはそうだ、

 「立て。」

 立てと言われたら秒速で立たなければならない。

 体中を縛られているのに、立つのは至難の業だった。が、実際にうまく立てなくて殺されている人間を何人も見た。

 「はい。」

 僕は多分、割と器用な方なのだ。

 今まではすげえ、どんくさい何かなのかと思っていたが、どれだけ体を縛られても、すんなりと犯人の指示に従えた。

 人と競り合ってっていうか、人と比べながら出来不出来を比較しながら、何かを成し遂げることが苦手だっただけなのだと、その時初めて気づいた。

 競争、という概念が持ち込まれると、体が委縮する。

 でも、今回は大丈夫。

 多分僕は生き残って、ここを出ることができる。

 そう信じている。


 彼はそんなに、強い人じゃなかった。

 なのにあんな所に連れていかれて、何か月も、何がしたかったんでしょう?犯人は、彼の自由を奪って、おかしくさせて、帰ってこれない人にして、あんまりにもじゃないですか。

 洗脳されているような状況になっていて、まだ眠り続けています。

 多分、目覚めないのかもしれない、と医者が言っていました。

 意識が戻らないのです。

 でも、彼自身が戻ることを拒んでいたし、それもすごく変だったし、何で私っていう彼女がいるのに、あんな島を選んだの?

 視野が狭くなって、ここを出たら間違いだって、そんな風に思わせて何がしたいの?

 ねえ。

 みちは目の前で下を向いている、男に話しかける。

 彼はただ、黙って下を向き続けているというのに。

 言葉など通じない、と誰かが言っていた。でも、それでもこの男に問い詰めなくては、なぜ、彼を殺したのか。いや、まだ死んでいないけれど、こんな言い方も変だけど、元の彼は多分一生戻ってこない。

 罪を償ってよ、ねえ、あなたさ。

 「………。」

 しかし、何を言ってもこの男は喋らず、ただ虚しさだけが広がっていた。

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