夏ノ巻 花火とお盆 6

 落ち込む一九に、お六は「ふふっ」と笑う口元をそでで隠しながら、一九に助言をした。


「まぁまぁ一九さん。面白さを保つためには、あちきら妖怪の行事と人間たちの行事の違いを、たくさん書けばよいのでありんすよ」

「そうじゃ。お前はそれが書きたくて、ここに来ておるのだろう?」

「はい。見越殿のおかげでこうして里に出入りができて、仕事ができているわけですから、あきらめることなく頑張がんばります!」


 頭領夫婦の言葉に、一九はやる気を取り戻した。


「ところで広場には、行きんしたか? 5月の節句でありんすから、のぼりがたくさんあったでありんしょう?」

「あ、はい。ここに来る前に、鎌鼬殿に案内していただきました。妖怪の里では、坂田金時が悪者なんですね」

「あの小僧は、本当にどうしようもない悪ガキでのぉ。わしらも手を焼いておったんじゃ」

「ほら吹きでもありんしたので、あちきたち妖怪を退治したって、言いふらしていたのでありんす。そうしたらいつの間にか、妖怪退治の英雄。面白い事もあるものでありんすね」


 まるでつい最近の出来事のように語る見越とお六に、一九は目を丸くする。


「あの、もしかして、坂田金時もここを出入りしていたのですか?」

「うむ。最初に出入りしていた人間が、金時じゃ。源頼光みなもとのよりみつや他の頼光四天王らいこうしてんのうは来なかったな」


 見越のうなずきに、一九は驚きで、口をあんぐりと開ける。坂田金時は平安時代の人間だ。それを知っているとなると、見越たちの年齢が何歳になるのか、さっぱりわからない。一九の考えていることが

わかったのか、またお六が「くすくす」と笑う。


「あちきたちにも一応、寿命はありんすが、基本的に長生きでありんすから」

「じゃあ、鎌鼬殿も、見た目よりお年が上……?」

「俺はまだ若いよ。まぁ、一九よりはだいぶ上だけどね」


 すると猿鬼たちが胸を張った。


「おいらたちは、もっとすごいぞ!」

「じつはとーりょーたちより」

「としうえなんだぞ!」

「えぇ!?」


 いくつもの衝撃的しょうげきてきな事実に、一九は言葉を失った。


「それより一九、あの西瓜すいかってやつ、そろそろ食べれる?」

「あ、そうですね。ちょうどいい感じに冷えている頃かと」

「じゃ、取ってくる」


 鎌鼬は楽しみなのか、ふりふりと尻尾を振りながら、西瓜と取りに行った。


「一九さん。あれはどうやって、食べるのでありんすか?」

「大きな包丁があれば、それで均等きんとうに切るのが一番ですが……」


 一九はあごを指先で叩く。


 そこへ、鎌鼬が「よっこいせ」と西瓜を持ってきて床に置いた。それを雑鬼たちが、ぽこぽこと叩く。それを見て、一九はひらめいた。


「西瓜割りをしましょう!」

「西瓜割り?」


 妖怪たちは、首を傾げた。

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