森の仲間ー3
夏休みに急遽フランスに連れて行かれ、さらにはその後すぐ大学が再開してしまった為、なかなか森に行けなくなった。
久しぶりに北の森に入ったのは、午後からの講義が休講になった日だった。
森の中でいつものように、ノートやスケッチブックを広げ、変化を記入していた。
雀やシジュウカラが何をついばんでいたとか、栗の花が咲き始めたとか。
どう考えても、趣味の領域だ。
でも、そんな事が楽しかった。
ふと見ると、キノコ少年がいた。
いつものように、樹の下の落ち葉をかきわけていた。
「ねえ!
いつも何をやってるんだ?」
「こういう落ち葉の下にキノコがあるんだよ」
「どこにも見えないけど」
「ほら!これだよ。
この小さいヤツ。
雨が降ったら、笠が開いて、見慣れたキノコになるんだよ」
キノコ少年、今日は雄弁だ。
「そっちは、何を観察してるの?」
「森の木や植物や生き物を、思いつくまま書き留めているだけだ。
まあ、まだ趣味の域だな」
お互いのノートを交換し、ページを開く。
キノコ少年のノートには、細かい観察に、疑問点や推論点まで書いてある。
「凄いな!
大人顔負けの論文が書けるぞ」
驚愕する私に、キノコ少年が言った。
「そっちは、これだけの情報パソコンで上手くまとめられないの?」
「時間が無くてな」
「今度手伝おうか?」
「マジで?」
キノコ少年の方が上を行っている。
「そう言えば、名前聞いてなかったな。
私は、苅原 直。
みんな、カーリーと呼ぶ」
「
「良い名前だな。
中学生?何年生だ?」
「うん」
キノコ少年は、急に言葉少なくなった。
「今日は、学校はないのか?」
押し黙る大樹。
踏み込みすぎたか?
「学校は行ってない」
「不登校ってやつか?
何があった?」
大樹の顔が曇った。
言いたくないよな!
「そうか。
私も学校は楽しくなかった。
でも、大学は楽しいぞ」
「大学生なの?」
「うん」
私は、少年の傷に触れてしまったことに気が咎めた。
でも、その日は意気消沈して別れた大樹だったが、次に会った時から、さらに私に懐いてきた。
森に行けば必ずという程出会うようになり、森の事を語り合ったり、知識の交換をするようになっていた。
ある日、大樹が、
「僕の部屋に見に来てよ。
色んな面白い資料があるよ」
そう言って、家に招いてくれた。
子供たちのお迎えがあるから30分程しか居られないが、傷付いた少年の嬉しそうな様子を見て断れなかった。
森の公園を出て、片側一車線の道路の信号を渡ると、また北川神社の森に入っていく。
「森の中を通った方が近道なんだよ」
ふと、自分の子供の頃を思い出した。
小学校に行くにも、幸子叔母さんの家に行くにも、いつも森の中を通っていた。
そして、家に帰る時も。
それを思い出した時、私の心に心地よい懐かしさが蘇った。
嫌な思いと共に蓋をしてしまった筈なのに。
大樹の家は、住宅街の森に一番近い角に建っていた。
柔らかい色の石のタイルが敷き詰められ、木のベンチや小物が置かれ、綺麗にガーデニングされていた。
まだ新しく広い庭には、小鳥の餌台が設置されていた。
家の中から、お菓子を焼いている様な甘い香りが漂ってくる。
その家からは、優しさが溢れ出していた。
「良い家だなー」
「去年引っ越してきたんだ」
そして、玄関を開けた大樹が、
「ねえ、早く早く!」
と、私を促す。
そこに、大樹の母親が現れた。
「ちょちょ…ちょっと待って!
あなたは、どちら様ですか?」
当然の反応だ。
ーKerlyー
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