ソロ活動ー15

「レコーディングが押しちゃってて、予定してた便に乗れそうにないの。

でも、カーリーも絶対今日中に帰りたいって言ってるし、最終便に変更したから、家に着くのは夜中になると思う。

もしかしたら、明日になる可能性もあるかも」


果穂ちゃんと、うちの子達を預かってくれている副社長に、電話を入れた。




 あの後1時間以上もマスタールームで話し合いをし、メンバーそれぞれがレコーディングし直すことになった。


「妥協したくないのよ」


アシーナさん始め他のメンバーもそう言って、何度も何度もやり直している。



途中一度だけ休憩があった。

カーリーは私に駆け寄り、いきなり抱きついてきて、私の胸で泣いている。


「どうしても今日中に帰りたいの。

美由紀、どうにかして!」


「だって、あなたが火をつけちゃったんでしょう?

私には、どうにもできないわよ」


そんな話をしている間も、カーリーは私のスーツの裾を握っている。

不安なんだ。


今までも、そんな光景は何度も目にしていたことを思い出した。

時には八木さんやレイ君やショウ君。

時には、果穂ちゃんや副社長。

不安な時の仕草なんだ。

そして、それは信頼している人間にしかやらない。


今、私は全面的に信頼されているんだ。

そう思うと、なんだか愛おしくなってくる。


28歳にもなって子供みたいに甘えてくるその仕草は、ある意味壊れている。

でも、その壊れ具合が、カーリーを放っておけなくさせる。



「さあ、ミュージシャンのカーリーになって、さっさと終わらせてくるのよ!

子供達が待ってるんだから」





 

 どうにか最終便に間に合った。

先にカーリーの家に送っていく。

果穂ちゃんの部屋の前で電話を入れる。


すぐに、パジャマ姿の果穂ちゃんが出てきた。

カーリーは振り返って、


「美由紀、ありがとう」


そう言って、果穂ちゃんの部屋に駆け込んでいった。

私は、その閉じられたドアをしばらく見つめながら、この2日間のカーリーとの時間を思い起こしていた。


そして、私の留守の間子供たちの面倒をみてくれていた、副社長とレイ君の家に急いで向かった。



 その1カ月後、アシーナさんが結成したガールズバンドのアルバムが公開された。


例の曲は、激し目のロックにちょっぴり切なさが織り込まれた、女の子だけではなく、ちょっぴり悔しい思いをしている人への応援歌になった。


アシーナさんと錚々たるメンバーが話題となり、ポスターも目に入るようになった。

そのポスターには、アシーナさんと共演者が、スタジオで撮影した写真やレコーディングの様子を写したスナップ写真が、ところ狭しと散りばめられている。


その中に小さく載っているカーリーは、ソファの肘掛けに大股開きで両腕を乗せ座り、あさっての方向を向いて写っている。

顔はわからなくても、その佇まいはいつものカーリーじゃない。

バレバレよ!


「男の子が混じってる」

「究極のアンドロジナス」

「ジェンダーレスの申し子」


とか言われ、カーリーの株は少し上がった。


ファッション誌からモデルのオファーが来るようになったが、当然のごとくお断りしている。




 その後、なぜか私はマネジメントの仕事を褒められおだてられ、レイ君の雑誌の対談や、ショウくんの四宮さんとのコラボにも連れて行かれた。


こっちは仕事を休んで付き合ってあげてるのよ。

もちろん報酬はいただくわよ。



ーMiyukiー




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