最初の呪縛ー9
『魂の飛び出るような音楽』
今聞くとダセーな!
全然イケてないな!
案の定、カーリーはボスを伴って帰ってきた。
そして、哲治さんの居酒屋で飲み会だ。
それぞれの中の俺たちらしさが、微妙に違っていた事に気付き出していた。
でも、結成当時からこのダサい『魂の飛び出るような音楽』を、俺たちは演っていた。
ボス曰く、
「いつも、その時々の感情や想いを、音や歌詞に全力でぶつけていたじゃないか」
俺たちは、その時の感情のまま曲を作っていた。
後になって違和感を感じて、ライブでも演らなくなる曲はあった。
今の小さなライブでは色々演ってみる。
過去を思い出す為だ。
「アルバムを出す度に精神的な成長が見られて、俺は感慨深かった」
くそ!
海のバンドの磯貝が、同じ事を言っていた。
俺たちの成長は、ダダ漏れだったわけか?
「精神的に辛い時期でさえ、お前達は良い曲を描いていた」
あの頃の曲を聴くのは、まだ辛い。
でも、愛おしく感じることができるようになった。
カーリーが初めて描いて俺達が却下した曲のように。
「最後のアルバムを出してツアーをやって、お前達は無期限活動休止をすることになった。
でも、そのアルバムは、1年近くもUKチャートに細々と入っていた」
海のバンドの佐久曰く、
感情爆発な曲と感情を押し殺した曲が交差するカオスの中で、押し殺したテクニックが洗練されて聴こえてくるのかもしれない。
「今、お前達はなかなか3人で揃って曲作りができないと言っている。
でも、あの頃みたいに、自分の心境は今これだと言って聴かせればいいんじゃないのか?」
秘密にしているわけではない。
でも、真っ白から再出発した今の自分の心境を曝け出すのが、なんだか恥ずかしく照れくさい。
ロンドンの時の俺たちとは、全く違うからだ。
家族の中にいる安心感、今までとは違う恋愛、そして、世間になじんできているような気がする。
「今の心境を今まで通り全力で、全力のテクニックに乗せていけばいいじゃないか!」
過去の自分たちらしさに縛られて、今の全力が出せないでいたのは確かだ。
「俺は、今までお前達に、ああしろこうしろと言わないように心掛けていた。
その方が、お前達らしい素晴らしい曲ができるからだ」
逆に、俺たちは言って欲しい位だった。
でも、甘やかされるまま、今までやって来た。
身を持ち崩していた時期もあった。
それでも、何も言わず、見守ってくれていた。
「俺は、お前達という宝物を手に入れたことを、誇りに思っている。
今もだ」
どうした?おっさん!
「お前達に呪縛があるとしたら、それは俺のせいだ。
アメリカでお前達に与えてしまった屈辱だ。
でも、もうそれも忘れろ!」
ーRayー
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