最初の呪縛ー2

 何でも言いたい放題の俺に、きっちり文句を言ってくる奴は、今まで数少なかった。



 でも、ショウは幼少期のほとんどをアメリカで過ごしている。

そのせいか、率直に意見を言う。

日本では、空気が読めない奴という程に。


「レイちゃんの演りたい曲ばかりなのはおかしい」

「俺たちの意見も聞くべきだ」

「ここはそうじゃない」


俺とショウは、喧嘩になることも多かった。


正論で反論してくるショウに、こんなガキみたいな返ししかできない時もあった。


「ここは俺んちだからな」


「レイちゃんて、本当にお山の猿だな」


「はあ?」


「川瀬君、それはお山の大将では?」


カーリーが珍しく半笑いで言っていたのを思い出す。




 その点カーリーは、従えやすかった。

当時のカーリーは、まぁ今もだが、コミュニケーション取るのが難しく、しかも、楽器やバンドに関して初心者に近かった。


「次は、この曲やるぞ」

「ここはこうしてくれ」


と言っても反論してこなかった。

しかし、自分の意見を言い出せないでいる分、溜め込んでいた。

ある日は何度言っても無言で言うことを聞かず、またある日はボイコット。

挙句の果てには、レポート用紙に論理立てて、俺を批判した物を書いてくる。


ムカついた。

でも、そのレポートを読んでいるうちに冷静さを取り戻し、納得させられてしまう。



そんな一筋縄ではいかない奴等は、今まで他にいなかった。

でも、すでに俺には、俺の音楽には、かけがえのないものになっていた。




 高校も2年生位の後半になると、進路云々が始まる。

その時、俺はきっぱりとふたりに言い放った。



「俺は、俺たちにしかできない音楽で、飯を食っていきたいんだ」



これが、最初の呪縛だったに違いない。




 ショウも、その気だった。

おじいさんがミュージシャンだったこともあって、


「おじいちゃんに似たのね!」

「やれる所までやってみなさい」


位で、家族は寛容だった。



しかし、カーリーはそうはいかなかった。

親に、いや家族に、こうしてロックバンドをやっていることすら話していない。

成績上位クラスのカーリーは、もちろんのように大学に進学するように薦められていた。


さらには、コンテストで高評価を得てしまったり、八木さんに言われてライブ映像やMVすら動画サイトにあがっている。

いつバレてもおかしくない。



 練習場で親父達を交え、進路の話になった時、


「私は、ここまでで限界です。

これ位のベースができる人はいっぱいいると思うので、私の事は跡形もなく忘れて下さい」


カーリーがそんな事を言い出した。



跡形もなくって……


この練習場で音楽を演っているカーリーは、目をギョロつかせて上を向いていた。

でも、学校では下を向いたままで、その存在を消そうとしていた。


カーリーから音楽がなくなったら、

そう考えると、行き着く先は見えていた。



 もうすでにカーリーを放っておけなくなっていた親父達が、時を見てご両親を説得してくれると言った。



ーRayー



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る