Forest〜枝葉のように広がる感情ー4

 私には、学友というものがいたためしがない。


12歳で心を閉ざしてしまったからだ。

それ以前のことは、ほとんど覚えていない。


殻の中に閉じこもるというよりは、卵殻膜のような物の中にいたような感じだ。

音も聞こえるし、色も見える、行き交う人達も見える。

時々、その卵殻膜に少しだけ穴を開けて、様子を見たりもしていた。


そんな私の卵殻膜を、時々ツンツンと指で突いて穴を開けて、中を覗き込んで来る人もいた。


そこに、腕を突っ込んで私を引っ張り出そうとしてくれた人がいた。

ショウくんだ。

そして、そこにパンチをして大きな穴を開けてくれたのは、レイちゃんだ。

時々、中にいる私の胸ぐらを掴んでくるが。

そして、レイちゃんのファミリーもだ。


そっちサイドの穴だけはいつも開いていた。

それ以外は、やっぱり膜があった。

ロンドンに行って、その穴はどんどん増えていった。

それでも、そんな穴だらけの卵殻膜でも、私は捨てられなかった。


今もそうだ。

このボロボロの卵殻膜でも、手放すのはまだ怖い。

中の自分を見られたくないからだ。



大学に通うようになってから、私は違うサイドに穴を開け始めた。

時には外側から突かれ、時には自分から突いて穴を開けてみる。





 

「今度の土曜日、うちでBBQしましょう」


社会人受験の面接仲間の詩織が言い出した。


「BBQいいねー」


達也が言った。


彩名と健人は、なぜか戸惑っているように見える。

そういう私もだ。

学友の家にお招きなんて記憶にない。


 高校生の頃、レイちゃんの家でよく行われていたBBQに、一度だけ参加させては貰ったが、体に染み込んでしまったその焼肉の匂いに、母が激怒した。

それ以来断り続けていた。


「私は難しい。

休みの日は、子供と過ごしたい」


そういった私に4人は釘付けになり、一瞬の沈黙の後絶叫した。


「えええーーーー!」

「子供いるの?」


別に隠していたわけではないが、確かに言ったこともなかった。


彩名が、そんな私にいたずらっぽくこう言った。


「で、どっちやってるの?」


「どういうことだ?」


「パパやってるのか、ママやってるのかってことよ」


「まあ、どっちもだ」


「ねぇ、連れてらっしゃいよ!

私こういうのにずっと憧れてたの、お友達とBBQとか。

ねぇ、お願い!」


「私、参加しまーす。

あなた達も来るのよ」



ーKerlyー






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