ライブ・ラジオ・リンクー21

「断る」


とか言っておきながら、なんだか演ってみたくなった。

小さな箱用に編成しなおした。



 ライブ当日、久しぶりにやったこの曲の工程に、俺たちも興奮した。


ライブの後、いつものように3人で飲み始めた。

有名人が来ているのか、ライブ後の立ち飲みのお客さんがざわついていた。


そこに、ぐっさんが一人の男を連れてきた。

この日はなぜか、土曜日の夜でお店が忙しいであろう哲治さんも来ていた。


「プロボクサーの大崎おおさき 龍也りゅうやさんだ」


小柄な今時の男だった。


「大崎です。

今日は感動しました」


ニコッと子供っぽく笑って、握手を求めてきた。

その笑顔とは裏腹に、眼光は鋭く、手はゴツかった。


俺は睨んでいるつもりはなかった。

ただならぬオーラを、俺は見逃さなかった。


後になって、哲治さんが言うには、


「時間が止まってた。

格闘家にメンチきって、やる気なのかってヒヤヒヤしたよ」



すると、


「できないって断られたから、本当に残念に思ってたんです。

でも、あのビートとギターのフレーズが流れてきた時、超嬉しかったです。

『Take Wing』大好きなんです」


コイツが、リクエストしてきたのか?


「あの曲が好きで、歌詞も自分で訳したんです。

ボクシングにも通ずるものがあって、背中押してもらってます。


やるだけやった人間に対しての応援歌っていうか」



俺たちの意図するところを、コイツはわかっている。



「もしよかったら、一緒に飲みませんか?」


哲治さんが言うと、


「お酒はやらないんです。

でも、少しお付き合いさせて下さい」


この眼光とオーラには似つかわしくない、礼儀の正しさが不気味だ。


ぐっさんが、いつもの如く席を用意してくれた。



 席について、俺たちはいつものようにテキーラを飲み干した。

彼にはウーロン茶が用意されたが、口は付けていない。

落ち着くのを待っていたのか、しばらくすると、


「本当は、ライブを観てすぐ帰るつもりだったんですが、実は、どうしてもお願いがあって、オーナーさんに声をかけさせてもらいました。


『Take Wing』を、次の試合の入場曲に使わせてもらえないでしょうか?」



ーRayー



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