ライブ・ラジオ・リンクー19

 あるライブの1週間前、ぐっさんからこんなことを言われた。


「ライブのお客さんから、リクエストがあるんだけど」


「そんなの受けてたらきり無いから、受け付けないよ」


「そうだな。ちょっと聞いただけだ」


「で、ちなみにどの曲?」


「『Take Wing』だ」


「その曲はキツい、色んな意味で。

やっぱり断る」



 この曲は、ロンドンで作成した最後のアルバムの中の一曲だ。


それぞれが精神的に追い詰められ、心が抜け落ちていた頃、

そのせいもあって、テクニカルな面ばかり追求していた頃、

暗く退廃的な曲しか描けなかった頃、

2枚のアルバムを同時作成していて余裕がなかった頃、

そんな頃に作ったアルバム『Scream Of No Nameー5』。


その後、

真澄が一緒に暮らすようになって、

カーリーがケイトを出産して、

『Scream Of No NameーE』が完成して、

それぞれが落ち着き始めた頃、

『Scream Of No Nameー5』を見直した。


半分をボツにした。

そして、新しい曲を作った。

その中の一曲だ。


 カーリーが、ホワイトボードに『Take Wing』と書いた。


スタジオ近くの森の中で、カーリーが観察していたフィンチの雛たちが、巣立ちしていった。

そんな雛たちへの応援歌だ。


カーリーに母性が目覚め、それがスタジオ中に伝染していった。


俺たちの曲には、珍しいタイプの曲だ。



 俺達が曲を作る時欠かせないのが、ホワイトボードだ。

曲を作る時、

歌詞を作る時、

それぞれがイメージを書いていく。


これは、俺達が高校生の頃から始まった。


親父が作った練習場には、気付いたらホワイトボードが置いてあった。

そこに当時は、演りたい曲が書き込まれていた。


その頃は、仕事をしながらの親父バンドが多く、それぞれのバンドのメンバーが集まれるわけではなかった。

それできるぞという奴が名前を書いて、メンバーが揃ったら即席バンドで演奏する方式になっていた。

中学生の頃から、俺達もそれに参加していた。

色んなジャンルの曲が楽しめた。



ホワイトボードは、今でも俺達の曲作りにかかせない物になっている。



ーRayー







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