新しい匂いー12

 授業が始まると、俺を悩ませるのは専門用語と漢字だ。


今になってわかったことがある。

塾の馬場先生は、専門学校の入試の勉強の為だけではなく、専門の勉強が始まってからの勉強もさせてくれていたのだと。

入試前日まで、漢字のドリルをやらされていた。


いつも無表情で淡々としていたが、そこまでしてくれた馬場先生に感謝だな!



 とにかく、教科書や資料は漢字だらけだ。

俺は、漢字にふりがなをふるので手一杯。


休み時間にも、誰ともコミュニケーションを取らず、ひたすら復習しなければいけない。

まるで、中学校の時のカーリーじゃないか!


 昼休みに勉強するのには、もう一つ理由がある。

学校が終わり次第、レイちゃんのスタジオで練習やレコーディングをしているからだ。

その後家に帰り、日中預けっぱなしの子供達と、食事を取り、遊び、風呂に入れ、寝かしつける。

これに関しては、カーリーも同じだ。


うたは、寝付きも悪いし夜泣きもする。

家で勉強をする暇はない。


 10代の子達が、友達とのコミュニケーションを楽しんでいる間も、ひたすら勉強に励む。

あの頃の俺からは、こんな自分は考えられない状況だ。


カーリーが不敵な笑みでよく言う。


「これが、本気の勉強ってやつだ!」


 そんな休み時間、ふりがなをふるのに手一杯で聞き逃した箇所があった。

空はあんな性格だから、友達も多い。

数人の女の子に囲まれてお喋りしている。


なので、隣の席の女の子に話しかけてみた。


「ここの部分聞き逃したんだけど、教えてくれる?

それと、ここの漢字何て読むの?」


「いいですよ」


俺の資料の異様な程のふりがなを見て、俺の顔を見つめる。


漢字を教えてくれ、自分のノートを見せて説明してくれた。



「ありがとう」


「いつもお勉強熱心ですね?

感心しちゃいます」


「漢字が苦手な分、みんなから遅れを取ってるからね」


「外国の方なんですか?」


顔が少し欧米人寄りだからだろう。

もうこの際、外国人ということにしておいて、漢字苦手は大目に見てもらおう。


「日本人ではあるけれど、外国生活長いし、漢字苦手なんだ」


「こんなアプリがあるんですよ」


そう言って、漢字検索のアプリを教えてくれた。

音楽のアプリしか知らなかった、世間に疎い俺。

毎日が新しいことばかりだ。


「私、安藤あんどう 加那かなです。

よろしくお願いします、翔さん」


「俺の事知ってるの?」


「空くんが、いつもそう呼んでるから」


そう言って、キャラキャラと笑った。



ーShowー



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