8.未来を変える。そして、新たな道を
俺とミレイアは、国王の宣言のあと別室へと呼ばれていた。
部屋の中には、国王と王妃、侯爵とアリア夫人、父上と母上、それに宰相がいた。
俺とミレイアはソファに座らされ、目の前には国王・王妃が座っていた。
俺達の後ろに両親たちが並び、国王の左隣に佇むように宰相がいる。
大人に囲まれている・・・。
「レイン、ミレイア。お主たちは何者だ?」
国王が俺達に尋ねる。
いろいろやりすぎたのかもしれない。
「・・・私は、ただの子供ですが?」
「レイン殿、それはいささかおかしいですぞ」
宰相がそう言う。
冷や汗が止まらない。
ミレイアが俺の手を握る。
「レインよ、ここでの話は内密にする」
「わかりました・・・俺とミレイアは未来から意識だけ帰って来たんです」
「なんだと!どういうことだ、レイン」
父上が大声を上げる。
俺は、驚いて肩をビクつく。
「まずは、10年後の話をしないといけません。
父上が旧国王派の物によって毒殺されました」
俺は、それから未来の話をしていく。
10年後、父上が毒殺されたこと。
15年後、大戦が勃発しクロフォード公爵領地が戦渦に巻き込まれる事。
そして、ミレイアと母上が亡くなること。
そして、10年大戦にとり聖王国自体が傷つき続け、俺自身が終戦まで戦い続けたことを。
「なるほど、この先がそのようなことになっていくのか。
よもや、予期せぬ戦乱に巻き込まれていくとは。
先程の剣技はその時の物だったということだな。
だが、体格も違えば力も違うだろうに」
「はい、ただ今世に来たことで私達2人は幾つかのアビリティを取得していました。
1つは、武器鑑定★★です。これによって、武器のアビリティを知ることが出来ました。
もう1つは、【ロード】と【リード】です」
俺は、1つずつ説明していく。
信じてもらうには、真摯に向き合うことが大切だと思うから。
「武器鑑定★は聞いたことがあるが★★は聞いたことがないな。
それに、【ロード】?【リード】?と言う物も」
「【ロード】も【リード】もどちらも【読み込む】と言うアビリティになります。
これによって、魔導方程式を心象武器に【読み込む】ことが出来ます。皆さんも【鑑定】をする限りではアビリティに【リード】が存在しますので使っていただければお判りいただけるかと・・・簡単な魔導方程式を提出します」
俺は、そう言って近くに置かれた紙とペンを使って魔導方程式を書く。
ここ数日で、俺の頭の中にも魔導方程式の知識が収められていた。
俺が紙に書いたのは【共有化】の魔導方程式である。
「心象武器は、顕現させなくても大丈夫です。
この魔導方程式を【リード】してください」
そう言うと、全員が【リード】を使用した。
今回は、限定的に知識だけの共有に留める。
アビリティまでは全てを明かさないでおこう。
「ふむ、アリシャとの繋がりを感じるな」
「ええ、陛下との繋がりを感じます」
皆が、それぞれのパートナーとの繋がりを感じる。
残念なのは宰相だった。
近場に奥さんがいないからか遠くにいる感覚があるという。
【共有化】は、繋がりが元々ある間にしか発動しないのか。
特に、婚姻関係のような男女の繋がりでしか。
「レインよ、どうやらお主が言っていることは真実のようだ。
我は、信じることにしよう」
「ありがとうございます。これでやっと、父上に邸の事を話せます」
「ん?邸の事?」
「はい、先程の毒殺の件です。
あの毒は、少量を長い間摂取したことによって臓物が腐る物でした」
「なんだと、そのような物が」
「はい、現在邸ではその毒が使用されていましたので、執務室に【自動化】【解毒】の魔導具を設置させていただきました」
俺の言葉に、大人が総じて頭を抱えた。
ただ1人ミレイアだけが目を輝かせていた。
「流石、レイン様です。
是非、公爵家から魔導具を販売しましょう。領地が潤います」
「魔導具は我の物も用意してもらえると助かる。
それにしても、そうかお主たちは未来では夫婦だったのだな。
出会って数日で仲の良い物だと思っていたが15年近くも連れ添っていたのなら頷ける・・・成人と言わずに結婚をしても良いが・・・」
設置型だとその場に居なければだめだったけど、今はアビリティを明かしたのだからアクセサリーに【自動化】【解毒】を書き込むことも可能かもしれない。
ああ、服とかにもいろいろ仕込めそうだなぁ。
「クロウドよ、お主の領地の半分をレインに分けても良いか?」
「はい、兄上構いませんが・・・いずれは全てレインの物になると」
「えっと・・・父上。私には、いずれ妹弟が増えます」
「なんだと!そうか、それは喜ばしいことだ」
父上と母上が抱き合いながら喜んでいる。
あれ?現状で毒を負っていたのに妹や弟が生まれるということは妹の時にはまだ軽傷だったということか、弟に関しては少し離れているからかなり影響があったのかもしれない。
「ただ、私のいた世界ではそうだっただけで、この世界ではもっと増える可能性もあるかもしれません。何故なら、毒は効かないわけで」
「なるほど、それは一理あるな・・・兄上、レインに領地を分け与える件了承いたします」
「うむ・・・して、レインよ。我の方はどうなのじゃ?」
「えっと・・・ミレイアどうだったかな?」
俺は、首を傾げるながらミレイアに視線を向ける。
彼女も少し考える。
「何人かお生まれになったと思います。が、申し訳ありません。学園卒業と共にお互いに忙殺されており・・・」
「まあ、仕方あるまい。
して、お主たちはどうだったのだ?」
俺達は、その言葉を聞いて押し黙てしまう。
俺の脳裏には、ミレイアの打ち捨てられた死体の光景が過る。
少し、深呼吸をする。
彼女が、俺の手を強く握りしめた。
「大戦が勃発する直前。私は、騎士団長として王都に詰めておりました。その時、彼女を王都に伴っていればと今では思いますが・・・ミレイアを領地に母上と残したのは、身重の彼女を王都に連れてこれなかったからです。
あの時少しでも兵力を領地に残していればよかったのですが、少なくともクレアだけでも残していれば違う結末になったかもしれません」
俺は、ついクレアの名前を出してしまったことを思い出した。
引きずり出された胎児の・・・息子の姿がフラッシュバックして気づくのが遅れてしまった。
「クレア?」
俺の言葉に母上が反応を示した。
そして、俺の肩とミレイアの肩を掴んだ。
「クレアちゃんは、来年の今頃に生まれるはずの妹です」
「ミレイアちゃん、それは私の娘ってことよね?」
「はい、お義母様の娘です」
「やった、娘よ」
母上、流石に傷つきます。
どうせ、俺は息子です。
「ふむ、ではクロフォード公爵領は領地分配としてクロフォード準公爵を新たに作ることとする。
詳しい話は、クロウドと詰め今月中に草案を纏めるように。
今日は、これにて解散としよう」
こうして、俺達はセレモニーホールを後にして各王都邸へと帰るのだった。
◇
翌朝。俺は、父上の執務室で両親と話し合いをしていた。
議題は、未来に起こることと俺の新領地のことである。
「レインよ。未来で私が亡き後、領地で起きたことを教えてもらえるか?」
「はい・・・あ、もういつ喋るかわからないので先にクレアが妹で、リオンが弟の名前です」
「ふむ、クレアとリオンか。早く会いたいものだな」
「父上は、リオンには確か会えていません」
リオンが生まれた時。
既に、父上は亡くなっていた。
俺とは、15も年が離れていたからな。
「えっと、領地の事でしたね。
基本的には、俺が領地経営をしていましたね。
ミレイアと母上には補佐をしてもらっていました。
経営自体は、特に問題はなかったと思います。
ただ、父上の死後使用人が大勢逃げました。
首謀者も含めですが」
「なるほどな。つまりは、レインは領地経営に関しては問題ないわけだな。それもミレイア嬢が付いていれば」
彼女がいれば、大抵のことは大丈夫だろう。
それに今は、アビリティもある。
「聞いていなかったが、大戦が勃発した最初の場所はどこだ?」
「領地北東部クリオス地方です」
「クリオスと言うことは・・・隣領地である伯爵が引き金か」
「まさにその通りです」
「クリオスをお前に託すとしたらなにをする?」
「堅牢な街を作ります」
「なるほど、ではお前にはクリオスを渡す」
「必ずや大戦を未然に防いで見せましょう」
「期待している」
俺の領地は、大戦の火種の地になった。
ただ、領地経営をしながら学園に通うことになる。
ちょっと、大変だ。
「学園に行っている間は、私が兼任する。
卒業からは完全なる準公爵領となることを忘れるなよ」
10歳から15歳までの間は準公爵領となるのは確定のようだ。
現状では、他貴族からの牽制のような扱いの叙爵のようだけど。
「エンブレムはどうしましょう?」
「二振りの聖剣でどうでしょう」
「いや、2振りの剣を掲げてる貴族がいるな」
ああ、確かに見た記憶があるな。
そうすると・・・2振りの聖剣を中央に2羽の鷲が支えるような大きなエンブレムにしてしまおう。
「では、少し大きなものになるのですが・・・」
俺は、両親に説明をしていく。
「ふむ、鷲と聖剣か。では、専門家にその辺りでデザインをしてもらうとしよう。後日御用商人などを召喚するとしよう」
「はい、お願いします。
あとは、王都邸も新しく見つけるべきでしょうか?」
「レインちゃん、出て行っちゃうの?」
「えっと、母上流石に他家になりますので区分けは必要だと」
「そうなのだけど、寂しいわ」
母上は寂しそうな表情を浮かべた。
父上は、彼女の顔を見て少し考え込む。
「ならば、この王都邸も半分にするのはどうだろう。
ここも庭がかなり大きい。それならば、庭を減らし一棟作ることは容易だろう。
お互いに行き来が出来るようにもできるだろう」
「それです、そうしましょう。
そうとなれば、ミレイアちゃんと建築家を召喚しなくては」
もう随分と未来は変わってきているのかもしれない。
俺は、やっとミレイアと共に生きられる。
でも、油断はせずに行こう。
旧国王派がどう動くかわからない。
身の回りを守る魔導具でも作ろうかな。
「父上、魔導具ギルドに伝手はありますか?」
「あるにはある・・・なるほど、では魔導具ギルドと商業ギルドに推薦状を書こう」
「ありがとうございます」
俺は、魔導具で領地経営をするつもりだ。
まあ、特産品としてはどうなのかはわからないけれど。
いろいろ、試したいこともあるし。
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次回、魔導具革命
レイン、自重しません。
作りたいものを作ります。
魔導具ギルドでは特許のような物の申請と特許使用料に関して。
商業ギルドは販売に関してになります。
ちなみに、2振りの剣を使っている貴族隣の領地の伯爵です
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