友人

@penta1223

友人

大学時代の友人、ゆきとの再会が私の日常を一変させた。


5年ぶりの再会は、あるカフェでのランチから始まった。ゆきは変わらず明るく、当時を思い出しては話に花を咲かせた。


しかし、ランチが終わり、席を立つ際にゆきが言った一言が気になった。


「最近、君の近くに引っ越してきたんだ。よかったら、家に遊びに来ない?」


私は思わず、「いつ?」と答えてしまった。


それからの数日間、ゆきとは連絡を取り合い、彼女の家に遊びに行くことになった。彼女の家は静かな住宅街にあり、外観も清潔で普通の家だった。


ドアベルを押すと、すぐにゆきが出迎えてくれた。「お待たせ!」と彼女はにっこり笑ってドアを開けた。しかし、家の中は期待とは裏腹に薄暗かった。窓のカーテンがすべて閉じられており、日光が一切入ってこなかった。


「新しい家具やデザインが気に入ったの?」と私は軽く尋ねた。ゆきは、「そうよ、この雰囲気、いいでしょ?」と答えた。


彼女の家は綺麗に片付けられていたが、何となく寒々しく、抑圧感が漂っていた。ソファに座ると、ゆきがコーヒーを入れてきてくれた。


しばらくお互いの近況を話し合っていたが、私の視線がリビングの壁に飾られた写真に引かれた。その写真には私が写っていた。しかも、私が知らない場面での写真だった。


「これ、いつの写真?」と私が問うと、ゆきは少し考えるような仕草を見せた後、「あれ?その日、一緒に買い物に行ったよね?」と答えた。


しかし、私はその日の記憶がなかった。そして、他の写真もよく見ると、私が知らない場面での私の写真がたくさん飾られていた。


「実は…」とゆきが言葉を続ける前に、私のスマートフォンが鳴った。着信者は「母」。私はすぐに出ると、母の声が聞こえた。「今すぐ帰ってきて。おばあちゃんが具合が悪くなったわ。」


その言葉を聞いた瞬間、私は安堵の息を吐き出した。そしてゆきに、「すみません、急用が出来てしまったので」と言い残し、家を後にした。


ゆきの家を出て、タクシーに乗った私は、心の中で何度も「あの家から早く出られて良かった」と繰り返した。


しかし、後日、母から聞いた話によると、その日、おばあちゃんは元気にしていて、電話もしていなかったという。


私の心の中に疑問が湧き上がってきた。あの時、私のスマートフォンを鳴らしたのは、一体誰だったのだろうか…。

私はあの夜以降、ゆきからの連絡を避けるようになった。不気味な写真、そして謎の電話。私の心には不安と疑念が渦巻いていた。


しかし、逃げるようにして日常を送る中、一つの事実に気づくことになる。私の周りの人々が、徐々にゆきに似てきているのだ。


まずは職場の同僚、続いては親しい友人、そして家族まで。彼らは何かを知っているかのような微笑みを浮かべながら、「ゆきに会ったの?」と聞いてくるのだった。


私は心の中で混乱していた。一体全体、何が起こっているのだろうか。そして、ゆきは私に何を求めているのだろうか。


ある日、私は家に帰ると、リビングのテーブルに一通の手紙が置かれていた。差出人は「ゆき」と書かれていた。


手紙には以下のように書かれていた。


「最近、私のことを避けているようだけど、怒っているの?私たちは友人なのに…。そんなことより、今週末、私の家でパーティーを開くから、来てほしい。」


パーティーの日時と場所が記載されていた。私は手紙を読み終えると、悩むことなく決意を固めた。ゆきの家に行き、真相を確かめることにした。


週末、私はゆきの家に向かった。ドアを開けると、中から賑やかな声が聞こえてきた。私を待っていたのは、私の知り合いたちの顔ぶれだった。


しかし、彼らの顔には何とも言えない冷たさがあった。そして、皆が私に同じことを言ってきた。


「ゆきは素晴らしい。あなたもゆきのことをもっと知るべきだ。」


私は部屋の中を歩きながら、ゆきを探した。そして、彼女は自分の部屋にいることを知った。


部屋のドアを開けると、ゆきが座っていた。彼女の隣にはもう一つの椅子が用意されていて、私を待っているようだった。


「座って。」ゆきは私に言った。私は彼女の言葉に従い、椅子に座った。


ゆきの部屋は薄暗く、あの不気味な静寂が再び広がっていた。彼女の瞳は冷たく、何か計算されたような視線で私を見つめていた。


「実はあなたに伝えたかったことがある。」ゆきは静かに始めた。「あの写真たち、理由があるんだ。」


私は身を緊張させた。「それは何?」


彼女はゆっくりと口を開いた。「あなたは私のもの。あなたのすべての瞬間を見守ってきた。」


私は戸惑いを隠せなかった。「何のことだ? 私たちは大学で初めて出会ったはずだ。」


ゆきはにっこりと微笑んだ。「それはあなたが思っていること。実は私はずっと、あなたの影で生きてきた。」


私は恐怖で震えた。「何を言ってるんだ、ゆき?」


ゆきは冷静に続けた。「私はあなたを見て成長してきた。あなたが忘れているだけ。私の存在を受け入れ、私と一緒に生きるしかない。」


部屋の中には私の日常の瞬間、私が知らないシーンでの私の写真がたくさん飾られていた。ゆきの異常な執着が明らかになった。


私は立ち上がり、部屋を出ようとしたが、ゆきは私の腕を強く掴んだ。「どこに行くの? 私たちは永遠に一緒だよ。」


私は彼女の掴みを振りほどき、家を後にした。その後、警察に相談し、ゆきは拘束されることとなった。彼女の家には他にも彼女が執着していた人々の写真や記録が大量に見つかった。


この恐ろしい経験を乗り越え、私は友人や家族との関係を大切にし、再び日常を取り戻すことができた。しかし、ゆきの冷たい瞳は私の記憶から消えることはなかった。

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