第18話 魔法学院での生活(1)

 入学が許可された私達は、宿屋を引き払い、魔法学院の寮に入った。一緒に合格した2人も同じく寮に入ってきた。少女はエルフ族のエルミアで、少年は人間族のクルドだった。


 貴族も、基本寮で生活するのだけど、魔法学院の宿泊棟は2か所ある。というのも、魔法学院の立っている場所は、貴族エリアと平民エリアの両方にまたがっているからだ。


 貴族の宿泊する寮は貴族エリアにあり、私達が宿泊する寮は平民エリアにある。それぞれに1つずつ寮の入っている宿泊棟がある。魔法学院の教職員も同様に2つに振り分けられている。


 普通、教師は貴族なので、貴族エリアに宿泊している。一方、職員と普通の教師は平民エリアに宿泊している。職員というのは、食堂や魔法学院内の商店や掃除など、様々な雑用を処理している。職員に貴族はいない。貴族が雑用をすることはないので、これは当然だ。


 そして、貴族エリアが近衛兵に守られているのと同じように、魔法学院の中にも門があり、そこは近衛兵によって、守られている。それによって、平民が簡単に貴族エリアに侵入できないようにしている。私達と職員は同じ平民エリアで生活しているので、すぐに仲良くなった。


 食堂は、バイキング形式で、好きな物をいくらでも食べることができる。でも、種類が少ない。味はまずまずだ。


 寮の部屋は一人に1部屋ずつ与えられている。これは、特別枠で入学した私達も同じだ。


 「コン、コン。キリ、もう寝たの?」


 「はい。ちょっと待ってね。

 どうぞ、キリ姉。入って」


 「一人一部屋あるのはいいけど、寝るときは少し寂しいね」


 「キリ姉は、本当に一人だから。私はパープルがいるので、大丈夫よ」


 パープルが呼ばれたと思って、私の腕に絡みついてきた。思わず、頭を撫でてあげた。パープルの尻尾はモフモフなので、すぐに触りたくなる。


 「食堂の食べ物は、どう? 気に入っている?」


 「いっぱい食べれるので、パープルは喜んでいるよ。でも、私は飽きてきたかな」


 「そうね。量は多く、味もそこそこだけど、いつも同じような料理だから飽きてくるよね」


 「スープだけだね。毎日、変わるのは」


 「たまには街で何か食べたいね」


 「キリ姉、今度の土曜日は何か予定ある?」


 「特にないよ。街に行こうか?」


 「はい、行きたい」


 「それじゃあ、予定入れとくね」


 「早く土曜日にならないかなぁ。今から、楽しみで、今日は寝れそうにないよ」


 「まだ、今日は水曜日だよ。キリは、気が早いね。でも、私も楽しみ」


 魔法学院の授業は、実習が中心で、講義はわずかだった。新入生に対しては、文字の読み書きや計算の授業が中心で、貴族といえども、読み書きすらできない者が多いということが分かった。


 「キリ、これはどう読むの?」


と、エルフのエルミアが尋ねてくる。私は、時々エルミアに読み書きを教えている。そのせいで、すっかり仲良しになった。


 「これはね。〇〇だよ」


 「そうか。〇〇かぁ。じゃぁ、これは?」


 エルミアは、見た目は若いけど、本当の歳はよくわからない。いつも歳のことになると、はぐらかされた。もう一人の同級生のクルドは、いつも怒っているような表情で、迂闊に話しかけれない。パープルも、用心して、近づかない。でも、いつも勉強していて、頑張り屋さんだ。それは、評価しないとね。


 魔法学院の授業は、月曜日・火曜日・金曜日が実習・演習の日で、木曜日だけが講義だった。そして、教師による実習・演習は、午前中だけで、午後からは各自の自主的な活動に任されていた。

 私達は木曜日の講義は、事前テストに合格したので、授業は免除されている。エルミアは、だめだった。


 魔法学院への入学の目的は、魔法の基礎をしっかりと勉強するためだったので、キリ姉と一緒に授業のない水曜日と木曜日は、図書館で勉強をすることにした。


 「キリ、凄い数の本だね。私は、本を見るのが初めてよ」


 「そうなの。魔法の本があればいいね」


 私は、前世での経験を隠して、キリ姉に話を合わせた。


 初級魔法の本や中級魔法の本があったので、少し読んでみたが、あまり役に立たなかった。


色々な魔法の詠唱の文言が載っているだけで解説らしきものは皆無だった。


 「キリ姉、魔法の本には詠唱の事しかないね」


 「そうね。私やキリは詠唱しないから、何か変な感じね」


 「そういえば、皆詠唱しているよ。すごく短い子もいるけど、詠唱していない子はいないね」


 「私達も小さな声で詠唱していると思っているのかな?」


 「そうかも。実習の時は、少しゆっくり魔法を放った方がいいかもね。特にキリは、注意した方がいいね」


 「はい、わかった」


 魔法陣の本は、古いものしか見当たらなかった。どうも、最近は魔法陣を扱える魔術師がほとんどいないようだ。そのため、新しい本が出来ないらしい。仕方がないので、古い埃まみれの本を取り出して、読んでみた。読むと言っても、文字で解説しているわけではなく、魔法陣の図が描かれており、その横に申し訳程度に機能・作用について書かれているだけであった。それでも、私にとっては初めての魔法陣であり、新鮮だった。


 本を借りだすことができないので、特徴的な魔法陣と機能を羊皮紙に書き写していった。


 その中に転移魔法の魔法陣があった。色々と便利そうなので、一度、使ってみよう。


 「お早う! キリ、起きてる?」


 「はい、起きてるよ」


 「それじゃ、行こうか」


 今日は、土曜日。キリ姉と一緒に街に出かける。魔法学院に入学して、毎日バタバタして落ち着かなかったが、最近、生活のリズムが安定してきた。少し、気持ちの上で余裕が出来てきた。


 「キリ姉、何処へ行く?」


 「キリは、何処へ行きたい?」


 「取り敢えず、何か美味しいものを食べたいな。パープルもそうでしょ」


 「ウン、ウン」


と、パープルも頷いている。


 「そうね、何か、甘いものでもたべようか」


 「はい。任せます」


 キリ姉を先頭に3人は、街の食べ物店が集まっている通りにやってきた。


 「ここが、最近はやっている所よ。ふんわりした、あまいパンケーキが食べれるよ」


 「へぇ、そんなものがあるの。私は、このフルーツをトッピングしたものがいい」


 「ウン、ウン」


と、パープルも頷いている。どうも、同じものが欲しいようだ。


 「それじゃ、3人分頼むね」


 「すみません。このフルーツをトッピングしたパンケーキを3人分、お願いいたします」


と、キリ姉が店員に注文した。


 「はい。分かりました。飲み物はどうしますか?」


 「そうね。私は紅茶がいいけど、キリはどうする?」


 「私も同じでいいよ。でも、パープルは、熱いものはだめだから、冷やしてもらって」


 「わかりました。紅茶が3人分で、そのうち1つを冷やしてくるのですね」


 「「お願いいたします」」


 暫くすると、3人分のパンケーキと紅茶が運ばれてきた。3人は、久しぶりの甘味に舌鼓を打って、楽しいひと時を過ごした。

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