第176話 「二人とも仲良しだね?」
赤色と黒色。
ユズルお手製のくじ引き箱から引いた割り箸の先端には、マジックで色が塗られていたんだ。
「うおおおおおおっ! 赤だあああああっ! 俺とっ! ゆずるちゃんのっ! 赤い糸の色っっ!!」
その内の一本を握りしめた大男、長谷川が叫ぶ。
宣言通り、掲げられていたのは赤色に塗られた割り箸だ。
「ご、ゴウっ!? そんな大きな声で言わなくても大丈夫だよぉっ!」
と、まんざらでもなさそうな表情のユズルが顔を赤くしながら照れている。
その手には黒色で塗られている割り箸が握られているのを俺は見逃さなかった。
「赤い糸かぁ……長谷川くんってロマンチックだよね!」
と、長谷川の新しい自分らしさを見つけて喜ぶ部員の鏡な早霧が笑う。
早霧の手にも、黒色で塗られている割り箸があった。
「その糸……俺に繋がってるんだけど……」
「…………」
そして、苦笑いの俺の手には長谷川と同じ赤い割り箸が握られている。
そんな俺を見て長谷川は虚無になった。
文字通り、虚無の顔だ。
「……うん、めい? 俺の運命は……赤堀?」
「運だよ、ただの」
俺を見て、割り箸を見て、もう一度俺を見る長谷川。
大男が心の奥底に飼っているセンチメンタルロマンチストがショックのあまり暴走していた。
でもマイナス方面に走らないのが、くじを作ってくれたユズルに対する長谷川の思いやりなのだろう。
多分、本人的には無意識だと思うけど。
「じゃあゴミ拾いは私とゆずるん、それから赤い糸で繋がった蓮司と長谷川くんで決定だね!」
「うおおおおおんっ!!」
そこに早霧による悪意の無い一撃が刺さり、長谷川は悲しみで机に突っ伏した。
ていうかお前まで赤い糸とか言わないでくれ、この大男本気にするから……。
「ま、まあまあ。ゴ、ゴウ? こ、今回は残念だったけど、まだ夏祭りもあるし……そ、それにさっ? わ、ワタシとのあ、あああ、赤い糸って言ってくれたのはう、嬉しかったよ……っ?」
「ゆ、ゆずるちゃん……っ!」
まだ慣れていなくて恥ずかしいからか顔を真っ赤にしたユズルが、机に突っ伏した長谷川の頭を撫でる。
その初々しいやり取りは、見ているこっちが照れてしまいそうだった。
「二人とも仲良しだね?」
「んんっ!?」
そんな二人を見て、早霧も嬉しそうに俺に話しかけてくる。
それに俺は変な声を出してしまった。
その理由は早霧に急に話しかけられたからじゃない。
机の下で、二人に見られないように、早霧が俺の右手の小指に自分の小指を絡めてきたからだった。
「そ、そうだな……」
焦った俺は冷静を装いながら頷いて、長谷川とユズルの微笑ましい光景に視線を戻す。
恥ずかしくて、早霧の顔を直視できなかったからだ。
「お、俺……俺っ! 絶対一番大きなゴミを拾ってゆずるちゃんにプレゼントするから……!」
「えっ? い、いらないけど……頑張ろうねっ!」
「おう、俺……頑張る……っ!!」
視線を向けた先で、長谷川とユズルは独特なやり取りを繰り広げている。
小さい少女と大男が頭を撫でて撫でられながらお互いを励まし合う光景だ。
これもユズルがさっき俺に言ってくれた、自分らしさの先にある二人らしさというものなんだと思う。
「蓮司も、ゴミ拾い……頑張ってね?」
それと同時に、この人前で隠れてスキンシップすることに慣れてしまったというか癖になりつつあるんじゃないかという親友とのコミュニケーションをどうするべきかと考えなければならないのかもしれない。
そのせいで最近は、恥ずかしい思いをかなりしてしまっているから。
「……早霧もな」
そんなことを、机の下で絡んだ小指が、いつの間にか手と手になって、お互いに絡め合いながら、俺は考えていたんだけど、当然答えなんて出なかったんだ。
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