第168話 『一目惚れだった!!』

 いやいや。

 いやいやいやいやいやいや。

 こんなこと、誰が想像できただろうか。

 ユズルの過去話が終わった瞬間に、長谷川が告白しながら入ってきた。

 さっきあんなにムードがどうこう言って夏祭りにちゃんとした告白をすると言った男が急に告白してくるなんてそんなこと、今までの話を聞かれていたぐらいじゃないと想像すらできないだろう。


「はぁ……っ! はぁ……っ! ゆ、ユズルちゃん……っ!」

「は、はい……っ!」


 けれどそれは無いと思った。

 だって長谷川は全力で走って来たようで、不審者のように息を切らしているから。

 だからきっと、何か別の理由があったんだろう。長谷川を突き動かすような外的要因というか、別の何かが……。

 そんな何かに突き動かされた長谷川に名前を呼ばれたユズルは背筋を伸ばし、勢いよく席から立ちあがった。


「一目惚れだった!!」


 そしてそう、長谷川は叫んだ。

 大きな身体から発せられた大きな想いは狭い部室を揺らし、言葉が続く。


「初めて会った時から俺は、ユズルちゃんのことが好きだったんだ! 最初はその小さくて可愛い見た目にキュンと来たのがキッカケで、そこから一緒に過ごしていく内にユズルちゃんの諦めない心の強さに惹かれていったんだ! 今も可愛さは毎日更新しているんだけど、それでも俺は頑張っているユズルちゃんが大好きなんだ!」

「え、あ、わ……ご、ゴウ……!?」


 真っ直ぐすぎる告白を、横で聞いている俺の顔が赤くなりそうだった。

 それを真正面から受けているユズルは、長谷川が言う通り恥ずかしさで赤くなる顔の赤さが、どんどん更新され続けていた。


「確かに! そんな魅力的すぎるユズルちゃんには、身体と声がデカいしか取り柄が無い俺は釣り合わないかもしれない……でも! ユズルちゃんを想う気持ちだけは世界中の誰よりも負けるつもりは無いんだ! だって俺は、ユズルちゃんのことが好きだから!」

「あ、え、えっと……!」

「だ、だから俺と、俺と……!」

「ご、ゴウッ!!」


 そしてついに長谷川が好意を伝えたその先に進もうとした瞬間、顔を真っ赤にしたユズルの声が響く。

 その高い声は長谷川の声を止めるには十分すぎて、自分らしさ研究会の部室に静寂が生まれた。


「き、気持ちはすっごい嬉しいけど……出来れば、その、二人っきりの時に……」


 そう言って。

 チラッとユズルは、俺を見た。

 今この場で、完全に部外者となってしまった俺を。

 恥ずかしさと気まずさが混ざりに混ざった顔をしながら……。


「あ、赤堀ぃっ!? お前、いたのかっ!?」


 驚愕する長谷川。

 いたよ、ずっといたよ。

 ていうか部室に行けって早霧に背中を押されたところ、お前も見てただろうが。


「も、もうっ……! ゴウは昔から、こうなんだもん……」

「ご、ごめん……!」

「で、でも……そんなゴウだから、わ、ワタシも……勇気を、貰えて……」

「え? お、俺が、ゆずるちゃんに……?」

「う、うん……いっぱい、貰ってる……」

「ゆ、ゆずるちゃん……」


 甘酸っぱい空間が発生した。

 二人の間で、今までに無いぐらいの良い雰囲気が発生したんだ。

 直感で分かる。

 俺はこの場所に、いてはいけないって。


「……れんじ、れんじ!」


 そんな時だった。

 開かれっぱなしの扉の奥から、長谷川の大きな背中に隠れて見えなかった早霧が俺に手招きをしているのが見えたんだ。


「えっと、その……だ、だからね……」

「だ、だから……!?」


 めちゃくちゃ良い雰囲気な二人から隠れるように、俺はこっそり部室から抜け出そうとする。


「…………」

「…………!」


 だけど位置の都合上、ユズルとはバッチリ目が合ってしまった。

 そんな逃れようのない気まずさに無言で頷くことしか出来なかった俺は、静かに部室から出て、開きっぱなしだった扉を閉めるのだった。

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