第129話 「……見ても、良いよ?」
どれぐらいの時間、泣き続けただろうか。
時間が分からなくなるぐらい感情をむき出しにして泣いたのは久しぶり、いや、初めてかもしれない。
でもその間、早霧はずっと俺の隣にいてくれて……こうして全てを出しつくした筈なのに、とても満たされた不思議な気分になってしまっている。
それはまるで、さっき大切な思い出を話し終えた時の早霧みたいで。
俺たちは似た者同士なのかもなんて、らしくない考えが頭を過ぎった。
「大丈夫?」
「……ああ、ありがとう」
「えへへ、どーいたしまして」
隣から優しい声がかけられる。
けれどその顔は見れない。
でもその理由は後ろめたいからじゃなく、単純に恥ずかしかったからだ。
「蓮司の泣いてるところ、初めて見たかも」
「……そうか?」
「うん。だっていつも私の方が泣いてばかりだったし」
「……そうだな」
「むっ、否定してよ泣き虫さん。うりうりー!」
「や、やめろ! おい、頬をつつくな頬を!」
つんつんと。
隣から人差し指で俺の頬に攻撃が始まる。
いつもの、だけど久しぶりに見る気がする……明るいお調子者の早霧だ。
まだいつも通りじゃないのは、俺だけなのかもしれない。
「……ありがとな」
「え? 頬つつかれるの、好きなの?」
「違う! そっちじゃなくて、その……泣いてる間、何も言わずに隣にいてくれて……」
「……うん」
静かに、早霧が俺の右肩に頭を乗せてきた。
白くて長い髪からふわりと甘い匂いが漂って、冷房の効いた部屋で早霧のあたたかさが伝わってくる。
「……私が蓮司にしてもらって、嬉しかったことだもん」
「……そうか」
「……うん」
言葉がどんどん少なくなって、沈黙の時間が訪れた。
でもそれは心地良くて、安心できる俺たちだけの時間だ。
「…………」
「…………」
無言の時間が続く。
心地良い、冗談抜きに本気で心地良い。
このまま無限にこうしてられる気がした。
だけど何かしたい。お詫びと言っては聞こえが悪いけど、何か早霧にお礼がしたかった。
「な、なあ……さぎっ!?」
「え!? ど、どうしたの?」
「い、いやお前! し、下着姿で……!」
話しかけようと視線を向けて、気がついたというか思いだした。
そういえば俺は早霧に服を脱げと言われて上半身裸で、早霧は下着姿だったのだ。
上から覗いた、白く長い髪の隙間から見える薄水色の肩ひもとその下にある大きな膨らみの谷間がとんでもなく主張していて、俺は思わず目を逸らした。
「え、あー……うん」
「うん、じゃないだろ!?」
「……見ても、良いよ?」
「何言ってんだお前!?」
「だ、だって……親友……だし……」
「うぇっ、あっ、うぉっ……!?」
ギュっと、俺の右腕が早霧の左腕に抱かれてそのまま胸を押し当てられる。
下着越しにとても柔らかな感触が右腕に広がり、押し当てているせいか下着の中でその大きな胸が形を変えていた。
すごい、なんかすごい、親友って、すごい……!
俺の頭は一瞬で馬鹿になった。
「蓮司は……大きいの、嫌い?」
「大好きだが!?」
真っ直ぐ正直に生きる愚直な人間に、俺はなりたい。
煩悩には勝てない。ていうか無理だろう。
こうして色々なものがほとんど吹っ切れた、昔から付き合いがある好きで好きでしょうがない幼馴染にこんなことされて、意識するなという方が無理だと思うんだ。
「えへへ……うん、知ってる」
「……すぅー」
ぎゅむぎゅむと。
嬉しそうに俺の右腕に抱きつき、早霧が大きな胸を押し当ててきている。
可愛い、そして愛おしい。
何だこれ、おい待ってくれ、何だこれ。
早霧が可愛いのは理解できる、昔から知っているからな。だけどこれはいかんせん急過ぎるんじゃないだろうか。俺だって心の準備というかまだ早霧に対して謝罪……はもう終わったんだよなこの感じを見ると、だけど感謝のフェーズとか欲しいのにいきなりこうぐいぐい来られると嬉しい……嬉しいんだけどちょっと待て頼むから!
「さ、早霧!」
「んー、なーに?」
俺とくっつけてご満悦になっている早霧が可愛い。
だけど俺は、抱きしめ返したくなる衝動を我慢して言葉を続けた。
「さ、早霧は俺に……何かして欲しいことはあるか!?」
「……蓮司に?」
「あ、ああ……その、さっきは俺がしてもらったから、お礼がしたいんだ……だ、だって……親友、だしな……?」
あれ?
親友って、こんなに言うの恥ずかしい言葉だったっけ?
俺たちの中での親友の意味をちゃんと思いだしたせいかおかげか、この言葉の重みがとんでもなく大きなものになっていた。
「し、しんゆう……えへへ」
そして、これでもかと顔を緩める可愛い親友の姿が俺の目の前に広がる。
だけどこんな可愛らしい姿を見せている間もバッチリとその暴力的な大きさと柔らかさを持ち合わせる大きな胸を俺に押し当てているという危機的状況は変わらなかった。
「……親友?」
上目遣いで俺を見上げる、早霧。
「あ、ああ……し、親友!」
そんな早霧に恥ずかしながら何度も頷く、俺。
「えへへ、しんゆー……!」
今度は俺の肩にグリグリと頭を押し付けてくる、早霧。
「そ、そうだな親友だ……!」
早霧の甘い匂いがもっと襲ってきて、胸の感触とのダブルパンチに耐える、俺。
「……親友?」
「あ、ああ……親友!」
なあ、ループしてないかこれ!?
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