第23話 「……する?」
「えっ、はっ、ほっ!」
結局、ユズルに相談は出来なかった。いや出来る訳ないだろう。本人が隣にいて、まるで満員電車の中にいるかのようにグイグイ密着してるような状態で。
必死に誤魔化してうやむやにさせ、ユズルの補習対策勉強の話にシフトさせるのにはかなり疲れた。
しかし悩みの種かつ、聞いてきた張本人の早霧も何故か途中から俺の味方になってくれたのだった。
そんな何を考えているのかさっぱり分からない俺の幼馴染は今。
「よっ、たぁっ、わ、わわわっ!? あー……死んじゃった……」
夕焼けの空の下、帰り道で白線の上から落ちたら死ぬゲームをしていた。
小学生かコイツは。
「転んだら危ないぞ」
「蓮司、それはもう手遅れって言うんだよ」
「なんで誇らしげなんだお前は……」
外に出ても恥ずかしくないレベルのドヤ顔だった。
神秘的な見た目とのギャップから、これで堕ちる男子生徒も多い。
「良かったな、今が帰り道で」
「んー、なんの話?」
「お前の話だよ」
住宅街を通る帰り道で他愛のない会話が続く。
普通だった。至って普通の早霧だった。
朝の授業をサボり、隠れてキスをしていたとは思えない態度である。
俺が気にしすぎなだけなのか?
いやそんな事は無いだろう。
考えれば考える程、一番近くに居るはずの幼馴染の事が分からなくなっていた。
今も前を歩いていたのにフラフラと道を外れて……って。
「蓮司! ちょっと寄り道しようよ!」
「あ、おいっ! ……ったく」
言うが早いが小走りを始める早霧だったが、目的地は目の前だった。
住宅街の中にある小さな公園。
俺がいつも早霧を待っている、あの公園である。
「いっちばーん! 蓮司の負けー!」
「いつから勝負が始まった?」
小さな公園の中心に立ち、伸ばした人差し指を天に向ける幼馴染はやっぱり外に出すと恥ずかしいかもしれない。
「という訳でそんな敗者の蓮司には勝者の私からプレゼントをあげよー!」
「普通、逆じゃないか……って」
肩掛けのスクールバッグから取り出されたのは紫色の缶ジュース。
いつもここで俺が早霧を待っている時に飲んでいる、ぶどうジュースだった。
「えへへ、好きでしょ?」
「あ、ああ……」
俺を下から覗き込んで笑うその顔に心臓が高鳴った。
思わず俺は顔を逸らしてしまって。
「うりゃっ!」
「おわぁっ!?」
その隙を、狙われたんだ。
俺の首すじに冷えた缶ジュースが押し当てられたのである。
「あははっ! おわぁっ! だって!」
「お、お前……お前なあっ!!」
オーバーに俺の真似をして笑う幼馴染に俺の胸は違う意味でドキドキしていた。
うん、普通にビビった。
「朝の仕返しだよー? どう? どうだった?」
「ど、どうって……」
ニヤニヤと顔を近づけてくる早霧に更に違う意味でドキッとする。
高鳴りっぱなしな俺の心臓、視線はどうしてもその薄桃色の唇に引き寄せられてしまった。
「あれれー? 顔、赤いよー?」
「う、うるさいなっ! ゆ、夕陽のせいだ……!」
「蓮司が言うんだ、それ」
誰が言ったって良いだろう。
ああ、クソ。本当にコイツは人の気も知らないで……。
人の、気も……?
俺の、気持ちって、なんだ……?
「……する?」
「……はっ?」
聞き返した時にはもう遅かった。
既にネクタイは引っ張られていて。
「んっ」
「んっ」
夕陽に照らされる公園のド真ん中で、キスをされた。
いつもと変わらない不意打ちのキスだったのに、なんていうか……自然と受け入れてしまったんだ。
「…………え?」
そんな俺の些細だけど大きな変化は、唇を通して早霧にも伝わってしまったらしい。
口が離れ、至近距離から俺を見上げる顔がどんどん赤くなっていく。
「……な、なに……今の?」
自分の唇を手で隠し、俯いてしまった親友の顔が、ずっと頭から離れなかった。
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