2023年3月30日 「駿河優子は守ってあげたい」あとがき

 「始めの指先最後の一行」で”ゆう”と祥一の話を書いていた時、半導体製造が国内からほぼ海外に行ってしまうなんて、想像もしていませんでした。それもアメリカではなく台湾に!

 初期の半導体産業は日本やアメリカで開発メーカー自体が製造していたわけですが、今は開発と製造が分かれて、製造は台湾のTSMC社という台中にあるばかでかい会社が大きなシェアを持っているのですね(今度熊本に工場ができます)。

 祥一は台湾での仕事が頻出するようになった頃、うちのかみさんのために、ここに来たっけなあと、なつかしみつつ、時代の変化に思いをはせたのではないでしょうか。


 「封印が解ける時」の後日談で、佐野一家が台湾台中に駐在三年目と書きました。コロナさわぎで行き来が難しくなり、行きっぱなしの駐在員もいるはずと考えての話です。そしてゆうなら、付いていくだろうなと。ふたりの子供が優子より4つも年下なのは、ゆうと祥一が結婚した頃は、まだ祥一の出張が多く、「タイミング」が合わなかったのと、今産んでもワンオペ必須だわ、と思ったからしばらくふたりを楽しんだのです(あのころはワンオペなんて言葉はありませんでしたが)。ですから、台湾駐在とはいえ、一家で暮らせていれば、祥一は毎日家族の元に帰れて幸せかなあと思います。


 さて、穣と美津子は、この「駿河優子は守ってあげたい」で闇に消えてしまいました。動機がどうあれヤクザ稼業に携わった二人です。文書をタレこんだくらいで、メデタシメデタシにしてしまってはいかんなと。もう少し”ひどいめ”に遭ってバランスをとってもらいます。優子ちゃんには可哀そうですが、そういう親を持った子は、心を鬼にして、覚悟を持って、親からはなれにゃならんという話です。美津子もそういう直感で、ばしっと子を切り離したのです。


 上に、翔と優子の将来の職業について書きましたが、CHAT-GPT(対話型AI)に、「義理の祖父が元暴力団組長です。税関職員になれますか?」って聞いたら、「税関職員は公務員で身元調査があるので、もしかしたらダメかもしれません」、という回答が出てきて、頭の中の登場人物の話なのに、ものすごいショックを受けてしまいました。こういう血も涙もない(あたりまえ)回答でAIに傷つけられる人間の小説も書いてみたい気がします。



 養護教諭も狭き門で、公務員の枠に入ろうとすると難しそう。私立の荒れた男子校の養護教諭になって、大活躍って話なら無理が無いかな?

 しかし単純にヤクザになろうとする学生を止めるって話だと、もう時代に合わなくなってきている気がします。今は闇バイト?ちょうどこの「守って」を書いている最中に広域強盗事件があれよあれよと表に出てきて、フィリピンから犯人が護送されてきました。そのとき犯人にごつい防弾チョッキが着せられていた光景が忘れられません。彼らが集めた金はどこにどう流れたのでしょうか。


 さて駿河爺さんはどうして八千代爺さんと仲良くなったのでしょうか。

 高卒で警官になって、曲がったことが嫌いで世渡り下手で、上司と喧嘩したりして出世できず、気が付くと息子は行方不明、定年間近に妻に病死され、失意の中、息子を探して八千代組長に会いました。


 八千代組長が語る息子、穣は、親も学校も警察も信じられず、自分の道を突き進み、組長の娘と結婚したと言う。つまり目の前の暴力団組長と親戚ってことかと愕然。しかし話を聞くと組長はひどい生い立ちかつ、若いころに恋女房を亡くしている。結局、警官も、ヤクザも、「男はつらいよ」で変わらんな、って親近感を持ってしまったのです。穣に通じる親分肌の謙爺さん、捨て鉢な八千代組長を、こいつなんとかせんとなあという親心まで持ってしまった。


 八千代組長は、腕っぷしと無鉄砲だけで若くして組長になったものの、親分肌が無くて、孤高の人。でも根は寂しがり屋だから周りにワル集めて、集まってさえいれば裏切られようが裏切ろうが気にしない。人を信じるのも嫌なら、信じられるのも嫌。それに基本、女は苦手です。ちょっと惚れた顔見せると、あれこれ世話してくるから。女に世話焼かれるのが嫌いなわけ。それで60近くなったらもう女はいいやって思ってしまったんですね。駿河爺さんと一緒にいたほうがよっぽど心地いいんです。


 定年した駿河爺さんは暴対法のからみでヤクザ稼業が成り立たなくなった八千代組の廃業を手伝い、バーを立ち上げさせました。


 バーでは八千代爺さん、ぜんぜん働かなくて、カウンターでリラックマ的にぐたーっとしてるのだけど、彼がいるだけで昔のダチがやってきて、八千代爺さんが面倒そうにへえとかふーんとか話相手になって、商売が成り立っているホステスみたいな存在。


 駿河爺さんは会話は苦手。真面目なので酒はきっちり計量して水割り作ります。料理はできないので乾きものと、チーズぐらいしか出しません。昔取った杵柄で客の顔と酒の好みはばっちり覚えてます。客層ゆえ、もと警官の過去は秘密です。顔が怖いので、客からは元子分だと思われています。


 「ゲイバーじゃねえぞ」の張り紙は八千代爺さんが書きました。でもLGBTどうたらで、いつか本文から削る日がくるのかな。


 最後に歌について。

 近況ノートに書きましたが、チャゲアスの歌を聞きながら書いた小説です。チャゲアスの歌は怖い歌が結構あって、あまりに売れすぎて身動き取れなくて足元や視界がゆらぐ感覚が歌われているのです。純粋でせつないラブソングとそういう怖い歌が混在しているのが、本当にドキドキします。ジェンガみたい。高くなるほどに、いつ崩れる?いつ崩れる?みたいな。ふつうそういう状態になったら歌なんか作れなくなりそうだけど、ASKAさんは作ってるんですよねー。その強靭さも怖い。金の卵を産む鳥に群がるまわりの状況も怖い。ASKAさん、生きてて良かった。マイケル・ジャクソンは殺されたようなものだけど。というわけで、宮津君を才能豊かなミュージシャンとして書けているかは不明ですが、生きていて欲しいので、正面から歌手になる夢はあきらめてもらいました。まあ、変に群がってくるヤツラがいたら、優子ちゃんに投げ飛ばしてもらえばいいのですが。怖いですね。金の卵が尻から出たら…防弾チョッキ着て生きないと。



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