第31話
休息を取ろうにも眠れない予感がした俺は防護服の投薬により強制的に眠りについた。
しかしゆっくりと休むまでもなく強制的に覚醒させられる事となった。
「何があった!」
警告音と共に覚醒した俺はすぐに状況の確認にはいる。
ヘルメット内にはうるさいほどの警告音が鳴り響いている。
いや、ヘルメット内だけではなくシェルター内にも大音量で鳴り響いている。
そのような中、俺はヘルメット内の表示パネルを横目で確認する。
緊急項目の表示がされ担当AIとの接触を早急に行うよう書かれている。
同時にミカミから反応がある。
「緊急事態です。」
他のフォッシオのメンバーも起き出し集まってきている。
ソングバード(闇姫)は少し離れたシートに固定されたまま微動だにしていなかったが。
「皆様が休息にはいられる少し前に2番艦で事故があったのですが、その事故の被害が拡大しております。」
集まったメンバーに動揺が走る。
俺のすぐ隣で留依が体を硬直させたのが分かった。
不満げに通津が文句を言う。
「何故事故が起きた時に報告されなかったんだ?」
「当初は小さな事故でした。そして我々は大きな作業を終え、休息をする必要がありました。さらには距離的にも我々にできる事はありませんでした。」
普段通りの冷静なミカミの返答が返ってくる。
もっとも、ミカミは報告自体はしていたのだ。
その対象が俺だけだっただけで。
俺も休息に入るタイミングでの事故報告は良くないと思いそのまま皆には伝えなかったわけだが。
「そしてその事故の拡大とは?」
大事なのはその事故の内容だ。
俺はミカミにその事故の内容を話すよう促した。
「映像で見た方が早いと思います。」
そうミカミが言うと、ヘルメット内のモニタではなく室内の大きめのモニタにその事故の状況が映し出された。
!!!
あまりもの光景に全員が息をのむ。
その映像は本来2番艦の居住区を守るように囲うコリドールの1本が中ほどから折れ、くの字に曲がりその曲がった先端が居住区方向を向いている映像だった。
その折れ曲がった部分には小さな───小さいと言っても恐らくは数kmはある───資源衛星が接続されている。
その資源衛星がもし居住区へ接触するようなことがあればその被害はどれほどのものになるのか全く想像がつかない。
映像をひとめ見ればその被害がとてつもないであろうことは容易に想像できた。
「対処法……いや違うな。直接的な事ではなく、何かあるから俺たちにも警告が発せられたんだろ?」
「ハイ。事故そのものではありません。事故の被害軽減に関しての事柄です。」
一呼吸置き、ミカミが先を続ける。
「折れたコリドールは2番艦の修正中の軌道の外側にあたります。このため内側へと急速に加速することで居住区とコリドールの接触を回避するという事が決まりました。」
同時にモニタには2番艦とコリドール、そして軌道に関する簡易図が表示される。
2番艦の軌道を示す矢印は緩やかな山の形からまるで落とし穴にでも落ちるような垂直に近い形をしていた。
「そして、図にありますように、その軌道の先には我々の居る3番艦の資源衛星があるのです。」
モニタに映し出された縦線に近い矢印の先には「3番艦資源衛星」と書かれた丸が表示されている。
「ひっ!」
俺の隣から留依の小さい悲鳴が漏れた。
留依の反応もとても理解できる。
驚愕と不安で重たくなった雰囲気を吹き飛ばさんと可能な限り勢いをつけてミカミに先を促す。
「状況は分かった!それでだ、俺たちは何をすればいい?」
「2番艦の進路上から3番艦の資源衛星を退ける必要があります。そのためには加速か減速をする必要があります。ですが、減速に必要な推進器が足りません。それに現在も資源衛星は加速を続けていおりますのでこれから減速するよりは加速した方が容易です。」
「ん~……。それならなんで減速っていう選択肢が出て来たっスか?」
説明を聞いていた育波少尉が疑問を呈する。
確かにその疑問は当然だ。
最初から加速一択なら減速の事は俎上にあげる必要は無いと思うのだが。
「最終手段だからです。」
「どういうことっスか?」
「加速が足りず2番艦との接触の可能性が高まった際には資源衛星への砲撃を行い、強引に減速させウィリデへと落下させます。」
そしてその砲撃にはこの3番艦の資源衛星の軌道修正計画に参加予定の工作艦が担当するとの事だった。
さすがの育波少尉も二の句が継げないのか押し黙ったままだ。
話の途中から嫌な予感がしていたのだが……ここまでとは。
「ちょ!待てよ!そりゃないだろう!ここまで必死に何とかしてきたってのによ!」
通津の怒りはもっともだが、こればかりは2番艦の6万の生命がかかっている。
それだけじゃない。
2番艦には皇帝陛下がすでにお戻りになっている。
資源衛星とどちらを優先するかなど明白だ。
「通津落ち着いてくれ。まだ砲撃が決まったわけじゃない。」
「そうですがよぅ……。」
通津も頭ではわかっているのだろう、語気が弱まる。
俺の横に立っている留依が俺の手を握って来た。
無意識なのだろう留依自身はそのことに気づいていないようだ。
俺は握って来た留依の手を握り返す。
そこで留依も気づいたようで手を放そうとするが俺はそれを逃さず先ほどよりも強く留依の手を握り小さく頷く”大丈夫だから”と。
今度は瑠亜が尋ねる。
「加速するにしてももうすでに加速している状況でこれ以上どうやって加速させるんですか?」
「暴走させます。」
だよな。
資源衛星の推進器は正確には”補助推進器”だ。
元々大きな推進力はない。
今より大きな推進力を与えるにはそれしかない。
「すでに”暴走”させる推進器とその手順の計画は策定されております。」
ミカミはそう続け、その計画の詳細を説明し始めた。
計画は通津、瑠亜、育波がここより離れた場所の推進器へと向かい暴走の設定を行う。
今回は中央事務室での制御はAIがやってくれるので育波少尉も推進器の暴走設定にあたることができる。
俺と留依はこの場でこの破損して出力の弱まった推進器の暴走設定をする。
万全の状態の推進器の”暴走”であってもその制御にはAIが付きっきりで対応しなければならい。
それが、一部破損している推進器だ。
慎重に慎重を重ねる必要がある。
故に俺たちの目の前のこの推進器に関してはここ以外の全ての推進器の”暴走”が行われた後フォッシオメンバー全員で監督しながらの実行となる。
そしてその際は当然工作艦も資源衛星の加速の補助をすることになる。
その計画の説明と手順を確認しそれぞれが作業を開始する。
ここで以前”念のため”と持ってきた個人用「耐衝撃シールド」を”念のため”着用する事にした。
もし加速が間に合わない場合には砲撃がなされる。
その際に耐衝撃シールドが役に立つはずだ。
全員で耐衝撃シールドを着用しながら話す。
「一応持ってきて正解だったな。」
「使かわねぇのが一番なんですがねぇ。」
「まぁ、そうだが……ないよりは安心感が違うからな。」
「これってどのくらいまで耐えられるんですか?」
留依が聞いてきたがそれに答えたのは育波だ。
「大気圏突入しても”死なない”っていう位っスね。」
「う……含みのある言い方……。」
若干引く留依。
「命があるだけマシって事だと思うけどね。死ぬよりはいいじゃない?」
瑠亜が前向きに捉え、続ける。
「それに……ウィリデに落ちるとしても単独で落ちる事はそうそうないでしょ?シェルター内だったらかなりマシになると思うし。そもそもそういう状況になったら船に乗って退避でしょ?」
「それはそうかもしれないけど。」
そんな会話をしていると少し離れた所から会話に入ってくる声がする。
「わたくしのこと、忘れてません?」
ソングバードさんの中に憑依?している闇姫が不安そうにしている。
「もちろんこの後あなたにも耐衝撃シールドは付けますよ?」
そう答えるとホッとしたような様子を見せる。
随分と話し方もスムーズになってきているようだ。
「体の動きはどうですか?」
「もうかなり思い通りに動かせるわね。もう、間違って殴るような事にはならないと思うわよ。」
「それは何よりですね。話し方も滑らかになっているようで……。」
自分の耐衝撃シールドを装着し終わった俺はソングバードさんの実体に耐衝撃シールドを装着すべく近づき、彼女を固定しているシートベルトを外す。
闇姫の言葉通り思い通り体を思い通りに動かせるようでスッと立ち上がると耐衝撃シールドを装着しやすいような態勢を取ってくれた。
留依も俺を手伝おうと近づき俺と二人でソングバードさんの実体に耐衝撃シールドを装着した。
「それで……わたくしにも何か手伝えることはないかしら?わたくしとしても地球にこの資源衛星?が落ちるのは困るのよ。」
彼女の提案はありがたい事ではあるのだが……。
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