第29話
俺たちの世界で”黒毛”と呼ばれる人たちは前世の記憶をもつ。
そしてその人たちの記憶は”地球”という惑星の記憶だった。
今俺たちが転移してきたこの世界がその、俺たちの世界では伝説にまでなっている”地球”のある世界だったのだが、俺たちの知っているモノとはズレが生じていた。
そんな中俺たち移民艦隊の中の”黒毛”である上皇陛下へ今、目の前にある惑星、俺たちがウィリデと呼称する惑星が”地球”であるかどうかミカミが確認を取りに行っていた。
そして、ミカミが上皇陛下の返答を携え戻ってきた。
「上皇陛下のお答えはやはり”地球”で間違いないとの事です!ただし、事がひと段落するまでこの事は口外を禁じ、然るべき時に公表するという事になりました。」
それはそうだろう。
今公開したら混乱に拍車がかかってしまう。
「分かった。それまでは口外しないよう気を付けよう。留依もいいね。」
「はい。畏まりました。」
「闇姫様。お願いなのですが、どうか今いる私たちの他に人がいる際には地球という発言、できれば地球での事柄などもできるだけ控えていただきたいのです。」
「もちろ、ん、了承、いたし、ます。」
地球に関しての話はひと段落したと判断したらしいミカミは少し言いにくそうに話を切り出した。
「一度に多くの事柄が発生しました関係でお伝えする事が遅れてしまったのですが、1番艦の乗員全員に視力が戻っております。」
やはりそうか。
俺も直視装置が壊れたから分かったのだが、ちゃんと1番艦の乗員すべての視力が回復したようだ。
「ああ、俺も直視装置が壊れたおかげで分かった。2番艦は?」
「残念ながら2番艦の乗員に関しては未だ変わらずとの事でした。」
「そうか……だが、これなら2番艦もそのうち戻るだろうな。」
「ハイ。恐らくは。そして視力が戻ったことで1番艦の作業員がこの資源衛星の軌道修正に参加する事になりました。」
「おお!ありがたいな!どういった形で行うんだ?」
「ハイ、現在その軌道修正計画の策定中なのですが、大型工作艦の乗組員はすでに発艦準備に入っております。計画の策定が済み次第、発艦する事になります。」
流石に大勢が関わるとなると大掛かりな計画策定が必要になってくるという事だな。
しかし、これで資源衛星の落下はかなりの確率で成功するはずだ。
「俺たちはどうなるか決まっているのか?」
「現状は今まで通りという事になっております。工作艦を使用してもやはり急激な進路の変更には今進められている推進器の暴走による推力が必要になるという事です。」
「そうか……工作艦が来れば簡単にいく……というわけではないか。」
「ハイ。しかし、工作艦の使用により落下を阻止した後の軌道の制御もある程度可能になります。今までの計画では落下を阻止した後の軌道は全く考慮されておりませんでしたので。」
落下を阻止した後の事まで気が回っていなかった!
今の今まで落下の阻止をした後の事までは考えていなかった。
最悪の場合は落下は阻止できてもその後しばらく漂流することになっていたかもしれないのか。
「それから。闇姫様にお聞きしたいことがございます。」
ミカミは改まって闇姫へと質問する。
「なに、かしら?」
「もし、ウィリデ、いえ、地球に巨大な隕石が落下するならばどの辺りが一番穏当であると考えられますでしょうか?」
「落下は、阻止、できるので、はなくて?」
「そのつもりで計画の策定はしておりますが、万が一という事がございます。その場合に可能な限り穏当な結果になるような場所を知りたいのです。」
「……なる、ほど、そういう、事、ね。」
しばし考えてから。
「太平洋、上、がいいと、思うわ。」
「”たいへいよう”とはどの辺りでしょうか?」
「地図、が、あれば、すぐわかるの、だけど……ない、かしら?」
実体AI自身にはデータ上の地図や資料を見る機能があるはずなのでソングバードさん自身であればすぐにでも見て、情報の共有ができたのであろうが、残念ながら闇姫にはその機能の使い方は分からないようだ。
また、個々人の視野に表示する以外の表示機器はここには無く、具体的な場所を知ることはできなかった。
「これは失礼いたしました。実際の地図による指摘は後程といたしまして……大体で良いので説明していただけますか?」
そのことに気づいたらしいミカミは謝罪し、おおよその位置の指摘を求めた。
それに対し闇姫はざっくりとした場所の説明をしてくれた。
「まぁ、大陸や、島々に、囲まれた、巨大な海、と思ってくれて、いいわ。」
「場所の提示ありがとうございます。後程表示機器において改めて教えていただこうと思います。」
「そうね、そう、しましょう。」
そうしたやり取りをしているうちに修正する推進器近くへと到達した。
推進器は当然ながら資源衛星の表面上にある。
補助推進器とはいえ、巨大な資源衛星を動かくすための推進器だとても大きい。
直径5m程の円形の皿のようなものが9つ円形に配置されている。
残念ながらそのうちの3つはひび割れ壊れていた。
恐らく基礎支柱を切断した時に発生した衝撃により壊れたのだろう。
それを裏付けるように推進器の付近は波打つように表面が隆起している。
坑道から出て少し進んだ場所の半地下に修正する推進器の制御室がありまずはそこに入る。
制御室横の格納庫には留依が用意してくれた工具や道具が集められていた。
闇姫の挙動に関してはまだ心配な部分もあるが彼女を拘束したままの作業は出来ないので下ろすことにしたのだが……。
「どう?動かない事は、出来るように、なったのよ?」
制御室内で彼女をシートに座らせるように下ろすと彼女は少々得意げな感じでそう語った。
そういえば移動中特に彼女の拘束に力を込めなければならないような事はなかった。
また、先ほどの得意げな感じも出会った時に比べれば表情に変化も出るようになってきた気がする。
「いいですね!動く方はどうなのですか?」
「そちらの、方は……まだちょっと不安ね。」
そういうと凄い勢いで右手が振り上げられる。
「う~ん……そっと上げたつもりだったのだけど……。」
「動く練習は俺たちが離れてからにしてください……。」
「ええ、そうするわ。」
そうして念のために彼女をシートに固定すると俺たちは推進器の位置修正にかかる。
機材の用意や実際の修正に関する手順に関しては事前にすっかりと留依たちが用意してくれていたので実際の作業は難しくなさそうだ。
しかし、留依の左肩の負傷によって俺一人でやることになった。
「申し訳ありません。」
本当に申し訳なさそうに気を落とす留依。
「謝らなくてもいいって!闇姫の件では本当に助かったし、この位の事は俺一人でもできるって。」
そう言いながら手順を確認し、作業にかかるが……。
「ミカミよ。コンタクトキネシスなんて免許持ってないから使えないぞ?」
「問題ありません。ワタクシ先ほどコンタクトキネシスの免許を取得いたしました。」
「いや、お前が持っていても俺が持ってなかったらダメだろ?」
「免許を持っている者が監督していれば使用できます。」
「え、そうなの?というか、こういう免許って実務経験〇〇時間ないと監督できないとかあるんじゃないか?」
「AIには例外事項というのがありまして、取得時から監督できるようになっているのです。」
「マジか。」
そんなわけでミカミの指導の下コンタクトキネシスを使い推進器の修正に入る。
コンタクトキネシスは手を触れずにモノを運ぶことのできる機器なのだがこれが実に便利なのは10トン位のモノなら簡単に運ぶことができる事なのだ。
これを使い推進器の一部を持ち上げ、位置の修正をする。
「留依、シールドカッターを。」
「はい。」
コンタクトキネシスを置き、留依からシールドカッターを受け取る。
留依には道具係をやってもらった。
今の所この方法でスムーズに進んでいる。
作業を進めていると恒星からの光が当たったり陰になったりする。
これも資源衛星が回転しているせいだ。
恒星からの光が当たれば表面は非常に熱くなるし、陰になれば冷える。
温度差によるシールドの粘度や外装、内装部品の膨張も考えながら作業を進めなければならない。
さらこれに回転する資源衛星の慣性も加わるのだ。
先ほど位置をずらした推進器を固定するため、推進器に展開されているシールドをシールドカッターで開きフォースフィールドユニットで固定する。
固定しきるまでは様々な要因を考慮に入れる必要があるのだが、一度固定できればフォースフィールドユニットごとシールドで固定されることになるので見た目以上に強固に固定される。
実の所、本来は完全に固定するにはフォースフィールドユニット程度ではダメなのだが今回は落下の阻止の間だけもってくれればいいのでこれで良いはずだ。
何度か同じような工程を繰り返し、予定された作業を終える。
「ミカミ、どうだ?」
ミカミを通じて専門のAIに作業の評価をしてもらう。
万が一ズレでもしていたら軌道修正に支障が出かねない。
「評価は良です。これで問題は無いだろうとの事です。」
「よかった~!」
留依は心底ホッとしたように喜んだ。
「暴走させる方はどうなったんだ?順調なのか?」
あと気がかりなのは残りの作業の方だ。
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