猫田砂鉄の作品感想(小説、アニメ、漫画など)

猫田砂鉄

(小説感想)お電話かわりました名探偵です 佐藤青南

この文章は小説の文章形式ではなく、ブログに適した文章形式で書かれています。


●作品の概要

ジャンルはライトなミステリーといったところでしょうか。

作品の舞台はとある県警本部の通信指令室。

事件が起こると110番通報がされますが、その際に通報の受付と捜査員への引継ぎを担当する部署があり、それが通信指令室。

そんな通信指令室で働く人々が主役の話です。


今作の最大の特徴は推理から事件解決までを全て、電話のやり取りのみで行う。というものです。それについて語るために

登場人物について説明します。


●登場人物(主に主役2名について)

今作のヒロインは君野いぶきという女性です。

通信指令室のメンバーの一員で優れた洞察力を持ち

千里眼を上回るという評判から「万里眼」と呼ばれている

凄腕の課員です。


ミステリー作品における、いわゆる「探偵役」です。

事件を推理して解決に導く役です。


彼女の能力は確かなもので通常の探偵役が事件現場に

直接赴いて事件を解決していくのに対して

彼女は電話のやり取りから推理を組み立て、事件を

解決してしまいます。


そして主人公は早乙女廉という男性で、彼女の同僚。

わかりやすく言えば「探偵役」のいぶきさんに対しての

「助手役」のようなポジションですが、実際には助手としての役割を果たしているとは言えないし、むしろ、いつもヒロインに助けられてばかりの印象でしたね。


しかし、語り部としての視点からヒロインの姿や事件の様相を描写する役割はしっかりと果たしています。


●作品の構成について

この作品は1冊の小説内で1つの事件を追うのではなく

エピソードごとに区分けされていて

CASE1からCASE5までの5つの話が収録され

それぞれが別の事件を描いたエピソードになっています。


そのため短い時間で気軽に読める読み物になっているので

ライトな小説を求めている方にオススメです。


反面、エピソードごとのクオリティにムラができていたような

印象はあります。トリックや題材などの質に左右されるところは

あるのでしょうね。


エピソードごとの簡単な評価

個人的に面白いと思ったエピソードは

CASE1とCASE2、そしてCASE5でした。


特にCASE1のイエが盗まれたという通報が題材のエピソードは

トリックの質、人間ドラマなど、ページ数の短さの割りに緻密で

面白かったです。ただそれだけに

このクオリティを全編に渡って維持できていたらなと思ったのも事実。


CASE2の大根にまつわるエピソードはトリック単体の質は

良かったのですが気になるところはありました。


●悪い意味で気になったエピソードについて

大根のエピソードの話ですね。詳しいことはネタバレになるので

語りませんが犯人の行動について。


多くの推理小説はトリックのみで成立しているわけではありません。

登場人物の立場、動機などからなる行動が事件を生み出し

そこにトリックが絡めてあったり、添えられていたりします。


このエピソードの場合もそうで、犯人がいて、被害者がいます。

この犯人の行動に納得のいかないところがあったのです。


この犯人は慎重でリスクを嫌う人物という印象でしたが

エピソード内での行動を見ていると

どうにも無計画で行き当たりばったりな気がするのです。


これがアバウトな人物の犯行、とか、二面性のある人物として

描かれているのであれば、納得しましたが、そうではないので

そうなるか?……と思いました。


トリックと登場人物が上手く混ざってない気がするんですよね。

トリック自体は面白いのですが……。


●恋愛モノとしての評価

この作品はライトミステリーに恋愛要素を絡めた

比較的よくある形式の小説です。

メインジャンルが推理でサブジャンルが恋愛といった感じですね。


恋愛要素だけを見ていくと正直、あまり良くないです。

ヒロイン兼、探偵役のいぶきさんと同僚であり、主人公の早乙女廉さんとの

恋愛なのですが、なぜお互いがお互いを好きなのかが作中描写で判然としないのが恋愛モノとしてはどうなのかと。


早乙女さんがいぶきさんを好きなのはまだわかります。美人で優秀、仕事に対する姿勢も好感が持てる。しかし、その逆、いぶきさんが早乙女さんを好きなのは?


冴えない男として描かれている上に、作中で目立った活躍をしない。

優しい人、マトモな人なんていうのは、割と誰にでも当てはまることなので

価値ではないし、それなら他の男でもいい。


よくあるパターンとして、過去に好きになるきっかけのエピソードがあったりするのですが、シリーズ第1作である本作では描かれず。

続編で描かれるのかどうかについては1作しか購入していないので

わからないです。


いずれにせよ第1作に関して言えば、恋愛の描写が不足していると言えます。それからこれは恋愛に限らない話なのですが

作品の性質上、指令室という閉鎖空間のみで展開されていくので

シチュエーションによるキャラクターの掘り下げが難しいという難点も

あります。


一般的にそれができる学園モノなどに比べると、恋愛要素の質は下がってしまうのかな。と思いました。


それから学園モノではなく、大人の恋愛なのに主人公の早乙女さんが

中学生並みに恋愛に免疫がないのも、キャラ設定上の齟齬はないとはいえ

学園モノであったら受け入れられるんだけど……と思いました。


●総評

手離しに褒められる作品ではないけれど面白かったです。

機会があれば続編も読みたいところですが

諸々の都合もあるので、いつになるかはわかりません。


また作者の佐藤青南先生の作品に関して言うと

「犬を盗む」など他の作品も気になっているので

次回以降で何を読むか迷っています。

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