第11話
「……」
聞き方が少し怖く見えたのかもしれない。エライザが間に入って声をかけようかどうか迷っている様子だったが、レレムはあくまでウェスタリアと話しているつもりだった。
「えっと、近所の男子、その……で、でも、よくあることだから」
だから?
……よくあることだから、それですませていいのか?
レレムは責めたくなった。ウェスタリアではなく、その人を。子供だからって関係ない。
そのせいでウェスタリアは喋れないんだ。レレムの頭の中で事実同士がするすると繋がった。原因の一部にはなっているだろう。
自分の思ったことを言うのが、受け入れられるのかと不安になるのは、当たり前なことだ。
レレムは受け入れる姿勢を、見せたいと思った。最初から否定してきている相手に心を開くなんて、無理だということを、自分が一番実感していたから。
「そっか。教えてくれてありがとう」
「レレムさん?」
不穏な空気を感じたのか、エライザが声をかける。しかし、レレムは無視し続けた。
「気にする必要なんてないよ。自分の意見が絶対に正しいって押し付けて否定にくるのは、弱い人間だから。人がどう言おうと、私たちは私たち。……私はウェスタリアの目、すごく綺麗だと思う」
紫の目が驚きで大きく開かれた。
レレムは少し顔を近づける。そして告げる。
「他の人と違うって、他の人が何を言おうとさ、自分と一番長い間付き合っていくのは自分だから……」
ウェスタリアに自分と似た嫌な思いをさせたくない。同じ苦しみを味あわせたくない。もっと明るい人生があってもいいはずだ。
だから私なんかが正しいなんて、それも思わないでほしい——レレムは心の中で、そう付け足さずにはいられなかった。誰かに信じられるのは、まだこわい。
「もしその子達を見かけたら、私たちの方で注意しておくから。そうですよね、エライザさん?」
「……え? あ、ええ。そうね」
急に話題を振られてエライザは遅れて反応した。
だって、いちいち道端を歩いている男子に声をかけて、名前を聞き出すわけにいかない。
私がずっとこの町にいれるわけでもない。それならこの町の大人が気にかけて解決していくのが筋だろう。
「レレムさん、あの……」
ウェスタリアは言いながら、遠慮がちにエライザを見た。気にしているのは、一目瞭然だった。
「私はちょっと用事があるから、席を外すわね」
エライザは気を利かせて、いなくなる。
それを見送ってから、
「どうしたの」
「……」
ウェスタリアはうつむいたまま黙っている。まだ足りないのなら、ウェスタリアが安心するまで、ずっとここにいるつもりだった。
けれども、ウェスタリアが話し始めたのは、違うことだった。
「わたしのお家と、ここは交流があるの。お花が薬の材料になることも、あるから……」
「そっか、じゃあ、面識があるんだね」
「……エライザお姉ちゃん、昔のこと、覚えていないみたい、なの」
思わぬことを言われて、レレムはウェスタリアを注視した。
「昔の約束、覚えていないの。元気になったら一緒に山の藤、見に行こうねって、忘れちゃったのかな」
「元気になったら?」
どういうことだろう。
「うん、お姉ちゃん、昔は病気がちだった、……ぜんそく、で」
「……いつから元気に?」
「3年前。約束したのは、4年前」
3年前。
その数字が、レレムの頭のなかで引っかかった。
「仲良しだったんだね」
「うん、毎月、あってた。でも、パタってあわなくなって、わたしのこと忘れちゃった見たい」
忙しくて忘れた、今はそれどころじゃない、というだけなのかもしれない。
けれどもレレムは、別の可能性を予想した。
「他にも、昔と今で変わったなと思うことって、ある?」
「変わったところ…………昔より、すごい元気で、明るくなった、のかな。あとね昔は髪の毛をね、こうやってよくかく癖があったんだけど、今はしないの」
「そっか、ありがとう」
仮説はこうだった。名前通りの、本物の変身薬が存在する。
そしてエライザは、その変身薬によって入れ替わっている。
そうすると、前のエライザがどこに行ったのか? それは知らない。
「お姉ちゃん、忘れちゃったのかな」
ウェスタリアは心配そうな表情を浮かべる。
「そんなことない、きっと忙しいだけだよ、いつか連れて行ってくれる」
レレムは安心させようと微笑む。
これは単なる憶測だ。
憶測で彼女を傷つける必要はない。そう思った。
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