第6話 オッサン、自分のスキルを知る

「飯食ってる場合じゃねえ! いますぐ帰って特訓するぞ!」

「ま、待ってくださいまし!」


 俺はリーシャの手を引くと、急いで屋敷に戻る道を進む。まさか試験本番が明日だとは想定外だ。

 すぐにもスキルってやつを覚えないとヤバすぎる。というかそんな状況なのに街を案内してたのか!?


 俺が望んだこととはいえ、お人よしがすぎる。


「ここなら好きに使ってかまいませんわ。どんなスキルを発動しても大丈夫ですわよ」


 屋敷に到着すると、リーシャは裏庭にある訓練場に俺を案内してくれた。ちょっとした公園くらいの広さがあり、射撃の的に使うような瓶や、拳法の修行でよく見る木人まで用意してある。


 使い魔の召喚にも使うのか、書き損じた召喚陣や、地面が焼け焦げた跡が見えた。


「よし、それでスキルっていうのはどういうものなんだ? 俺のやってたゲームじゃ炎や電撃を出せたりするんだが」

「そのイメージであってますわよ。スキルとは魔力を使って様々な事象を引き起こすことですから。炎や水を操るスキルもあれば、壁を通り抜けたり夢に侵入するスキルもありますわね」

「つまり俺にも魔法みたいなことができるわけだな」


 異世界らしいファンタジーな能力を使えることが確定して、俺は内心有頂天になっていた。漫画やゲームの必殺技を練習しない男子はこの世に存在しないからな。

 この段階でかなりワクワクしている。


「でも自分ではどんなスキルが使えるかわからないんだよな。どうやって知るんだ?」

「普通の使い魔は自分のスキルを把握してますが、リュウジは特殊なパターンなので自覚がないのかもしれませんわね。わたくしの方で診てみますわ」


 リーシャは俺の胸に手を当てると、瞳を閉じて集中を始めた。手の周りが青白く光り、少し熱く感じる。

 これが魔術師が魔力を使うということなのだろう。


 診てもらっている間、俺は自分のスキルについて妄想していた。やっぱり男なら炎を操るスキルだろうか。

 いや、電撃やビームを出せるのもいいな。相手のスキルを無効化や、コピーするのももトリッキーでおもしろそうだ。


 なんたって前世は魔王なんだからな。見るだけで相手を殺すとか、ブラックホールを発生させられるスキルもおかしくない。


 試験で大活躍して「俺、なんかやっちゃいました?」って言いたいな。いや、その前に試験官を死なせないように気を付けるべきか。


 そんな風に妄想がヒートアップしていると、スキルがわかったのかリーシャは手を離した。俺は結果が待ちきれずに、早口で訊ねる


「どうだった!? すごいスキルか!?」

「リュウジの持っているスキルは二つですわね。一つ目は【変身】。自分の姿を様々な形に変化できるスキルですわ。動物に姿を変える使い魔が多いですわね」


 おおっ、変身能力か。これはいろいろと便利そうだな。

 ドラゴンに変身して暴れたち、潜入捜査にも役立ちそうだ。。


「二つ目は【魔眼】。人には見ることができないものを視るスキルですわ。主に魔力の痕跡を探知したり、【変身】で姿を変えた使い魔を見破ったりできますわ。【魔眼】は派生が多いスキルですが、これは最も基本的なタイプですわね」


 こっちは補助系のスキルって感じか。魔眼っていうから見るだけで敵に攻撃できるスキルだったら良かったんだが。


 まあとにかく戦闘に少しは使えそうなスキルで助かった。他の使い魔と戦うのに、役に立たないスキルばかりじゃ困るからな。

 これならいけるだろうという思い、リーシャの顔を見る。


「…………」

「おいおい、どうしたんだよ」


 リーシャの表情がまた曇りはじめている。そんなにおかしいスキルだとは思わなかったが、なにか問題があったのだろうか?


「リュウジ、落ち着いて聞いてください。【変身】【魔眼】の両スキルは、すべての使い魔が使える基本スキルですわ。もちろんレベルの差はありますけど」

「えっ、じゃああのボガートも使えるのか?」

「はい。貴方から逃げていた時は使う余裕がなかったみたいですけど」


 俺は気を失いそうになりながらも、両足に力を込めることで意識を保っていた。あの一撃で倒した使い魔と、俺のスキルは同レベルなのか!?

 そんなことってある?


「汎用スキルだからこそ応用力がすごいとかだろ? 変身でドラゴンになって火を噴けるとか。魔眼で未来を視るとか」

「ドラゴンのような竜族に変身した使い魔は聞いたことがありませんわね。魔眼は成長しない限り、このままですわ」


 これってけっこうヤバくないか?

 村から出発したばかりの初期装備で戦うみたいなものだろ。


「いやでも俺の前世はなんかすごい魔王なんだろ!? もっとこうすごいスキルとかないのか? 地獄の炎を呼び出すとか!」

「残念ですけど……」

「露骨に目を逸らすのはやめてくれ」


 気の毒すぎて見ていられないといった様子で、リーシャは地面にある砂粒を数え始めた。せめて主人であるお前だけは現実を直視してくれ。


 しかしあの前フリでこんなことってあるのか? あの自称魔王が嘘をついている可能性まであるな。

 もしかして前世はゴブリンだったのかもしれない。


「じゃあこう……新たなスキルに目覚めるとかは!?」

「ないことはないですけど、明日の試験には間に合いそうにありませんわね」

「もうこれ詰んでるんじゃないのか? 相手は最低限でも俺と同じことができて、他のスキルも持ってるんだろ?

「と、とにかく! いまあるスキルで戦うしかありませんわ! わたくしはリュウジを信じますわよ! えいえい、おー! ですわ!」


 完全に壊れたテンションで、リーシャは強く俺の手をにぎった。

 母さん、俺の新たな人生は早くもピンチです。




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