空想教室

PROJECT:DATE 公式

心のかたち

いくつもの学習机が並んでいる

ひとつの箱のの中にいた。

窓の外には無数の花が

咲き誇っているように見える。

人はいない。

僕だけしかいない。


夢だと分かるまで少しかかる。

夢だとわかってから

どのくらいかかったろう。


ゆっくりと目を閉じてみる。

まるで進んでいない時間の中で

置き去りにされるような感覚を

味わいながら。


誰かが言った。

迷いは成長のもとだって。

でも、別の誰かが言う。

迷うだけ時間の無駄だって。


何事にも二面生があるものだけど、

ここまで反対なことを言われたって

混乱するだけだと思う。

迷いは善か悪か。

好きか嫌いか。

美しいか醜いか。

どうして、白黒つけなくちゃ

ならない雰囲気になるのだろう。


君は思ったことない?

なければ、今考えてみて欲しい。


例えば、A、B、Cと

仲が良かったことにしよう。

ただし、Aと、BCは深く関わりはない。

BCが一方的にAの悪口を言っている。

でも自分は両方好きだから

どっちとも共に過ごす時間をとった。

BやCから「Aはやめとけ」と

言われることもあったとしよう。

それでもAとの関係を続けた。

友達として過ごしていて楽しかったから。

それなのに、BCからは叱咤された。

両方を選んだだけなのに。

両方を選ぶことは時と人によって

曖昧も同義らしい。

どうして片方につくことだけが

正解になりうるのか全くもって

理解できなかった。


他にも、例えばの話好きなことで

生きて行こうか悩むとする。

友達に聞けば

「やりたいことをした方がいい」と、

先生に聞けば

「将来のことを考えてまともな職に」と

言われたとする。

まともな職という言い方が

そもそも気に入らない。

ほぼ全てがまともと言えるだろう。

先生に不信感を抱きながらも

安定感があることを前提に

考え直したとしよう。

じゃあ両方を選ぶ。

しばらく安定感のある公務員として働き、

その間副業をして、

それだけで安定できるようになってから

退職をする、と。

そう伝えれば友達は

「将来のための時間が削られるよ」と、

先生は

「どうして安定性を捨てる必要があるのか」と。

実体験では高校進学の話だったけど、

今回は就職の話だったから

少し重みが違うけれど、

言いたいことは同じだ。


どうして⚪︎か×でしか捉えられないのだろう。


どうして曖昧は駄目なんだろう。

許され難いのだろう。


どっちかじゃないと

駄目なんだろう。

どっちもだったり

その中間であったりは

どうして奇妙なものになってしまうのだろう。

曖昧であればどうして意思のないような、

両方であればどうして欲張りのような。

どうして。

どうして同じに

なれなかったんだろう。


どうして僕は。





-----





歩「こころ?」


こころ「んー?なあにお姉ちゃん、かまちょして欲しいのー?」


歩「んなわけあるか。馬鹿。」


こころ「あー、馬鹿って言った方が馬鹿なんだよー。」


早朝からこんな会話を

繰り広げながら

ベッドの上でごろごろする。

伸びた髪がくしゃくしゃになりながらも

まだ上体を起こす気にはなれない。

ダラダラとスマホをいじっていたら

不意にお姉ちゃんが

僕の部屋に入ってきたのだ。

なんとデリカシーのない人だ。


昨日から今日にかけて

お姉ちゃんが帰省していた。

いつも連絡が遅くって、

気づいたら家にいるから

びっくりしちゃう。

授業サボったのかーって聞いたら、

月曜は3,4限だから大丈夫だと言っていた。

平日に休みがあるなんて

大学生って感じ。

いいなぁ。


お姉ちゃんは僕の学習机に

附属している椅子に座っては

綺麗に足を組んだ。


こころ「いいなー、お姉ちゃん暇そうで。」


歩「どこを見て?」


こころ「平日なのに休みなところ。」


歩「ああ。まあ、そうかもね。」


こころ「そうじゃないの?」


歩「まあまあって感じ。バイト入れまくってたしそこまで恩恵感じてないかも。」


こころ「扶養はいいのー?」


歩「後半に休むの。」


こころ「計画的だなぁ。店長とか許してくれる?」


歩「意外と仕事はできるから。どこか月1になってもいいから席残してほしいって言われた。」


こころ「すご。前々からしっかりとはしてたもんね。」


歩「私?」


こころ「そう。まーあー、人とはかなーり軋轢を生んでたっぽいけどねー?」


歩「うるさいうるさい。あんたに譲った、そんなもん。」


こころ「先に産まれたからってその言い訳ずるーい!」


お姉ちゃんは手をふりふりと

虫を追っ払うように動かした。

口も態度も悪いし愛想はないけれど、

何かと容量が良かったり

顔が良かったりと

バランスが取れてるんだよなあ。

世の中ってバランス取れてるもんだよね。


スマホを確認すると、

どうやらそろそろ準備を

始めなきゃいけない時間らしい。

ゆっくりと上体を起こすも

面倒くさくってあぐらをかく。

あまり良くないけど猫背になりながら

頭を優しく掻いた。


こころ「ねー、大学ってどんな感じ?」


歩「自由な部分は多いよ。履修とか席とかね。でも個人的には高校の延長って感じ。良くも悪くも。」


こころ「高校の延長?」


歩「そ。大学に上がったからって3歳歳をとるわけでもないしさ。急に大人ぶるのは無理じゃん。」


こころ「何それ。達観しちゃって。神様ー、アドバイスをくださいー。」


歩「はあ?…まあ、授業と授業の間に2コマとか空いてたら暇するよ。」


こころ「じゃあ近くの飲食店見て開拓できるのかー。」


歩「あんたは凄まじく外向的だね。」


こころ「えへ、そーお?」


歩「そお。私には無理。」


こころ「ってか、そもそも大学行くかどうかって話だしねー。あははー。」


歩「あははーって…あんた2年でしょ?受験するんならもうそろそろ志望校とか考え始めなきゃね。」


こころ「そうなんだよねー。あーあ、どーしよっかなー。」


歩「授業は大丈夫なの?」


こころ「もー、お母さんみたいなこと言うー。」


歩「あの人ほど心配症じゃないよ。私はどっちかって言うと興味。」


こころ「それはそれで趣味悪いなー。勉強はまだしも、出席日数がギリギリかな。」


歩「そ。昔から容量はいいもんね、あんた。」


こころ「お姉ちゃんが言うと嫌味みたーい。」


茶化してみると、

あっという間にむすっとする。

すぐ顔に出るんだから。


とはいえ、朝から重たい話は

したくないなあ。

未来がずうんと床に埋もれて

沈んでいく感じがする。

一見何も考えてなさそうに

さらっと流しているけれど、

ここのところ未来があまりに見えなくって

うんうん唸ってる状態だった。

お姉ちゃんはやりたいことはまだ

明確に決まっていないけれど、

とりあえず今のところ

興味のある分野に行くと言って

学部をあっさりと決めた。

そこまで心が入っているわけじゃないのに

努力できる彼女のことは

なかなか理解できない。

好きでもないのに

どうして頑張れるんだろう?

僕は好きなことしか

できないというのに。


お姉ちゃんのその容量の良さと

本人は自覚していない我慢強さが

羨ましくって仕方なかった。

僕もそうなりたかったな。


歩「専門は?」


こころ「えー、考え中。」


歩「あんたにあってそう。あ、でも夏休みも学校に行って作品作りするから休みはほぼないとも聞いたことがある。」


こころ「うーん。」


歩「何。」


こころ「何がしたいかわかんなくってさ。このまま就職でもいいなーって思う時もあるんだ。」


歩「いいんじゃない?自分が納得できんなら。」


こころ「うーーん……。」


歩「ま、好きに生きればいいよ。」


ここで好きにすればいいよって

言わないところが

何ともお姉ちゃんらしかった。

まるで生きること以外の選択肢を

その場から見えないように

隠すことが上手。


僕がこれまでいろいろと

悩んできたのを知ってるからこそ

こういう言い回しが

癖になったんだろうな。


歩「冷蔵庫の中、昨日の余り物が入ってたよ。」


こころ「ふうん。じゃあ食べる。温めてー。」


歩「はいはい。自分でやれ。」


こころ「えー!期待して損したぁー…。」


だらけながらふてぶてしく

そう言って見せる。

すると、お姉ちゃんは呆れたように、

けれどどこか嬉しそうにして

椅子から体を離した。

そして何も聞かなかったかのように

僕の部屋から出ていったのだ。


こころ「はーあ。」


1人になってやっと

ため息が漏れていった。

お姉ちゃんの前でもまあまあ素を

出している方だけど、

進歩のこととなると気が張っちゃうな。

…。

今の僕って何だか。


こころ「弱々しいなー。」


そういう時もある。

もちろんある。

そりゃあ人間だもん。

けど、ただ弱いだけじゃなくって…

何と言えばいいのだろう、

選択肢は目の前に広がっていて、

それはしっかりと

見えているにも関わらず

あえて選ばないような。

いちごと桃を買おうとスーパーに行って、

ちゃんとお金は持っているのに

結局尻込みして何も買わずに

帰ってくるような。

予算だってあるし、

その先に明るくって楽しいことが

待ってるってわかっているのに。


選べるのに選ばない。

愚かさに近い弱さで満たされている。

…それは本当に愚かか?

曖昧にしただけじゃないのか。

それなら別に

僕の良しとするものからは

かけ離れていないのでは。


…でも、将来って選ばなくっても、

最終的に選ばなかったことを

選んだということになる。

そこに曖昧はない。

そこにあるものが全てになる。


こころ「…もー…やになっちゃう。」


こんなこと、誰に話せようか。

お姉ちゃんにはもちろん家族には

心配をかけたくないこともあって話せない。

友達…?

…いや、腹の底を

見せれるような人はいない。

先輩、後輩、バイト先の同僚…。

どれを持ってしても、

ピンと来なかった。


こころ「…。」


そんなもんか。

そんなもんだよな。

頭の中の会議を強制的に区切り

ベッドから足を出した。

今日は流石に登校しなきゃ。

面倒臭いけどね。


僕に取ってちょっぴりブルーな

10月が始まった。





***





「あ、こころん!」


「こころおはよー。」


こころ「おっはよー。」


「今日は来たんだ!」


こころ「うん。そろそろ出席日数がヤバくてさー。」


「あはは、多田センもこの前愚痴ってたよ。あいつはちゃんと卒業できるのかーってね。」


こころ「ええ、マジ!?それみんなの前で言われてたんだったら気まずーい。」


「うちらが多田センにちょっかいかけた時に言ってただけだし。てかあの先生優しいけどヘタレなんだよなー。」


「分かる。でもでもでも、この前彼女できたらしいよー!」


「え、マジ!?」


「ヤバくない!?」


「絶対つけ込まれてるだけだって!」


「あははっ!うちもそう思ってるんだけど、今回はガチらしい。」


2人が話すのをよそに、

近くにある自分の席に座る。

僕は遅刻、早退が

結構頻繁にあるものだから、

謎のご厚意でずっと廊下側の席だ。

別に授業中に抜けるわけじゃないし、

教室に行けないのに頑張ってるとか

そういうわけでもない。

だから、言ってしまえば

ありがた迷惑のようにはなってしまうけれど、

お気遣いは素直に嬉しい。


きゃっきゃっと話されているように、

多田先生はいい先生だ。

髪はやや長く、ぎりぎり襟足に届かない程度。

本人曰く切るのが面倒なのだとか。

髪型や細身の体型から

少しばかり陰気な

雰囲気を感じるけれど、

相反するように目元ははっきりとしていて

ある意味バランスが取れている。

おどおどとしている節はあるけれど、

彼の中で「こうあるべき」という

教師の軸があるのだろう。

視野が広く、多くの生徒を

見ているんだなーと思う時がある。

たまにしか来ない僕ですら

そう思うのだから、

それは大層なことだろう。

…いや、逆かもな。

たまにしか来ない僕に

いろいろと施してくれているだけ、とか。


「てかさ、多田センって今いくつ?」


「わかんね。でもちょうどおじさんとお兄さんの間って感じしない?」


「それな。まあ35くらいっしょ。」


鞄から教科書を取り出して

机の中にしまい込む。

ランダムに登校するものだから、

家で自習できるように

基本教科書は持ち帰っていた。

毎回重い荷物を背負って

登校するのは嫌だけど、

こればかりは仕方ないよね。


2人があれこれ話している間に

いつの間にかもう1人増えて

3人で話し始めていた。

これでいつものメンバーが

揃ったわけだ。

いつも、とは言え

僕はたまたま潜り込んだだけ。

常日頃連絡を取り合っているわけじゃないし、

僕を除いた3人だけの

LINEグループだってあるだろう。

僕と仲良くしている、

またはそういうふうに見せている理由は

何となく分かるけど。


不登校で、何かと理由持ちの僕と

仲良くしてる自分たち偉いよね。

そんな空気が話の節々から感じていた。

…僕の思い違いだったなら

別にそれでいいんだけどね。


「彼女いくつなんだろ。」


「どーする、21とかだったら。」


「きゃー。やーだ犯罪くさーい。」


「いいや、多田センならありえるっしょ。だっていつも「スカート丈短いから長くしてね」っていうじゃん!」


「うわ、あり得そー。」


「こころはどう思うー?」


こころ「え、何が?」


「聞いてなかったのマジー?」


こころ「ごめんごめーん、教科書片してたのー!」


「多田センの次の恋愛、うまくいくと思う?」


こころ「うーん、そうだねー。恋愛ソムリエの僕からするとー…アリだね!」


「なーにがソムリエだー。前回もそー言って外してたじゃーん。」


こころ「ぶーぶー。自称だもーん。」


「あははっ、何それー。」


「てかさ、今日の帰りスタバ寄らね?芋系の飲み物飲みたくってさー。」


「え?明日から新作出るのに今日行くの?」


「だって飲みたいんだもーん。」


「仕方ないなぁー。じゃあうちチョコレートラテー。」


こころ「じゃあおさつフラペチーノ!…って言いたいところなんだけど、ごめん!バイトがあってさ。」


「えー!残念。多忙だね。」


「最近付き合い悪いじゃーん。」


こころ「言っても9月の下旬からでしょー!」


「まあまあ。また今度行こうねー。」


こころ「うん!新作飲みに行こー。」


あー。

ちょっぴり疲れちゃった。

人の恋愛にとやかくつっこむような話は

正直そんなに得意じゃない。

ましてや「恋人できたんだって!」

「すごい、うまくいってほしいね」といった

応援の話ではなく、

ネガティブな方向に

話を広げられても反応に困る。

適当に流すけれど、

何故か胸の奥がちくっとする。

別に自分に言われているわけじゃ

ないってわかってるのに、

もし自分がその立場になったらって

想像がどうしても止まらなくって

嫌になっちゃう。


もう、本当にブルーな日。

バイトをほっぽって

1人で好きな隠れ家カフェにでも

行った方がいいんじゃないかって

思っちゃうくらい!

でも、無断で休むわけにも

もちろんいかない。


こころ「…。」


3人の賑やかな話に

耳を傾けながら、

廊下の奥の空に目を向けた。

何だか怒りを忘れた猫のような

穏やかな日がさしていた。


喧騒の日を過ごすうちに

やっぱり面倒になっちゃって、

午後は学校を休んだ。

僕ってば朝が弱いなんてことはなく

休んでる間もちゃんと起きてるから、

学校に出ること自体には

あまり支障はなかった。

出席日数が危うい授業が

午前に詰まっていてよかった。


午後は適当なカフェに入って

ぼうっとスマホを眺めた。

モバイルバッテリーに繋げているせいで

幾分か重くなっている。


日々ネットには多くの情報が

とめどなく流れてくる。

さも当たり前のように

受け取っているけれど、

いらない情報だって

入ってきてしまうわけで。


受験に悩む学生のツイート、

夫の愚痴を漏らす婦人のツイート、

事件や事故のツイート。

全てが明るい情報発信じゃない。

当たり前だ。


頬杖をつきながらぼーっとする。

何だかお姉ちゃんの癖が

移ったみたいで嫌になっちゃう。


それからゲームを開いて、

好きな音楽と景色を堪能する。

イヤホンの外の音が

ほぼ遮断されているおかげで、

その世界観にのめり込むことができる。

これこれ。

やっと浄化される。

やっぱり人や人の思いから

離れて閉じこもる時間って

大事だよねー。


自分に言い聞かせながら過ごす。

すると、今度はあっという間に

バイトに向かう時間になっていた。


こころ「やば。」


すぐさま席を立つ。

横浜駅周辺で時間を潰していて

よかったなんて思いながら。


歩いていると、

これまた多くの人がいることに気づく。

カフェ内でもそこそこにある人は

いたのだけど、

駅構内ともなれば

全然話は変わってくる。

人、人、人。

僕自身は人の波は

そんなに嫌になってくるタイプじゃないけど、

流石に多いよなと感じる。


けど、その波の中で。


寧々「…。」


こころ「あ、寧々さん!」


寧々「…え……?」


こころ「こっちこっち!」


寧々「…!三門さんじゃないですか。」


運のいいことに

寧々さんの姿を見つけて声をかける。

彼女はとてとてと

人につっかえそうになりながら

僕の方へと近づいてくれた。


寧々「そう言えば今日、シフト被ってましたね。」


寧々さんは小さく微笑みながら言う。

そう。

「そういえば」なんて言葉が

出てくるくらいには、

今は関係が薄かった。

彼女とはもうバイト終わりに

一緒に帰るような仲では

なくなってしまったのだ。

それこそ、あの奇妙な

腕の事件があった後でも、

そこまで距離感が縮まることはなく

今日に至っている。

4月の頭に、別の寧々さんと

入れ替わった時点で、

どうやら僕達は遠い存在同士に

なったようだった。


それも僕次第では

変えられた未来なのだと思う。

けど僕は選ばなかった。

選ぶ勇気がなかったのだと思う。

彼女は寧々さんであれ、

違う寧々さんだと知っているからこそ。


寧々「そういえば、この前新作を飲みに行くんだって話してましたよね。」


こころ「えぇー?そうだったっけ。」


寧々「はい、先週くらいに。…その、盗み聞きしてしまったんですけど…。」


こころ「あ、確かに先輩と話してる時に言ったかも。」


今日学校で話していたカフェとは

また別のカフェで

新作が出るんだと言う話を

していた気がする。


寧々「飲みに行ったんですか?」


こころ「うん!一昨日早速ね!あのね、もう甘さの加減が最高で!」


寧々「ふふ、よかったですね。」


こころ「本当に!ねえ、今度寧々さんも一緒に行こうよ!」


寧々「いいんですか?」


こころ「もちろん!」


寧々「そしたらぜひ。」


寧々さんはまた笑う。

腕の一件があって以来、

寧々さんの顔つきは

明るくなったような気がする。

それに、これと言って悪いことが

怒っているとも聞いたことがない。


よかったと思う。

そりゃあもちろん思うよ。

だって散々悩んできた寧々さんを

この目で見てきたんだから。


でもね。

少しだけ、ほんのちょっぴりだけ。

寂しいなーとも思ってしまった。

1番信頼していて

何でも相談できる人では

なくなってしまったから。

それもあって、今の寧々さんは

全くの別人格に見えるのだろう。


寧々「楽しみですね。」


こころ「ねー!」


寧々さんは寧々さんなのに。

そんなことを思いながら

重たい足のまま

バイト先まで向かったのだった。

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