23話 俺の強みって何だろうな?
まあそれからは当然だがペイマールが烈火のごとく怒って、他の選手やコーチが間に入って止めに来て、なんとか事なきを得た。
ただ実はそこまで大問題に発展するほどのことでもなかった。
レセルビ監督もピッチ内の選手たちもチーム関係者もこうした事態にはある程度慣れているようで慌てる様子はなかった。むしろニヤニヤと楽しそうに見ている選手も何人かいたほどだ。
(しかし、コイツも流石に気が強いな……)
アスリートならば相手の身体の強さは一度の接触でほとんど理解出来るものだ。ペイマールもぶつかり合って俺に勝てないことは瞬時に理解したはずだ。だがそれでも吹っ飛ばされた後、俺に本気で怒りの視線を向けてきた。
まあ一流のアスリートはすべからくそうだ。過剰なくらい自信家で自負があって負けず嫌いで……そうでなければトップレベルには絶対に辿り着けない。これはサッカーやMMAに限らずどの競技でも同じだろう。
最悪の第一印象と接触だったが、不思議なものでこの衝突を経て俺はヤツに対して理解を少し深められたような気がしていた。
「ははは、ゲイト! お疲れ! あの後はまた走っていたのかい?」
練習を終えてクラブハウスに戻ると、クリス・ポナプドが声を掛けてきた。トラブルを起こした俺にも変わらず笑顔を向けてくれる彼の存在がとてもありがたかった。
ペイマールと揉めてからの俺はミニゲームを外され、監督からまた1人でのランニングメニューを命じられた。
「……俺がずっと走ってるの見てただろ? ……まあ、もし機会があったらペイマールによろしく言っといてくれよ……」
俺は一応クリポナにそう言って反省を示した。もちろんヤツも褒められた態度ではなかったが、俺にも悪い部分はあった。時間が経ってみると素直にそう思えた。
「なんだ、そんなことかい? ヤツならもうとっくにケロッとしてるさ! そもそもこれだけの個性が集まったチームだぜ? 最近はあまりなかったけれど意見が食い違ってケンカをするなんてことはしょっちゅうだぜ? 掴み合いになったことも沢山あるさ!」
「……そうか、そうだよな。フットボーラーってのも意外と血の気が多いんだな。まあそれくらいじゃなきゃこのレベルには到達出来ないよね」
「そりゃあな。今はこうして同じチームで一緒にプレーしているけど内心では『本当は俺が一番上手い!』って皆思ってるんじゃないかな? もちろん俺だってそうさ! ……でも同じくらいチームメイトのことを尊敬しているのも本当だぜ? ピッチに出たらあのレアンドロ・エッシが逆サイドで共演しているなんて夢じゃないだろうか! って未だに思うぜ?」
「……なるほどね。まあ俺もいつか皆に認めてもらえるように頑張るよ……」
俺は少し後ろめたい気持ちを引きずっていたので一足先にシャワーを浴びて出ようとしたのだが、クリポナは再び俺を引き止めた。
「何言ってんだい、ゲイト? どう考えてもキミが最強だろ?」
白い歯を見せてニコリと微笑んできたので、俺を元気づけるためにからかっているのだと俺は判断した。
「そりゃあ、格闘技ならね……。でもここはフットボールをする場所だろ?」
「いや、ゲイトのフィジカルはどう考えてもこのチームでも最高のものだろ? ペイマールと接触したのを見て俺は確信したさ。あいつダイブなんかじゃなくて正真正銘吹っ飛んでたぜ!」
クリポナは実に可笑しそうにククク、と笑いを嚙み殺していた。
「そ、そうなのか? 自分ではよくわからないけどな……」
自分としてはそこまで強く当たったつもりもなかったのだが……。
「そりゃあそうさ! ブンデスやプレミアの屈強なDFたちもゲイトには絶対敵わないだろうね! そのフィジカルを生かしていけば良いんじゃないかな?」
「う~ん、そりゃあそうかもしれないけどなぁ……」
俺は今までサッカーに求めらるものは技術の割合の方が多いと思っていた。サッカーというものは何よりも華麗なボールテクニックだろう? そして実際このチームに加入してからも皆の技術の高さに驚かされるばかりだった。外から映像で見ているよりも実際に対面して感じる驚きの方が何倍も強かった。
それからスピードだ。対面してみると彼らの速さは想像以上だ。
「ゲイトの強さはお世辞抜きでこのチームでも一番だと思うよ?」
「そうなんかな? 自分ではイマイチわかんないけど……。でもクリスが言うならそうなのかもしれないな……」
トップアスリート同士は率直に語るものだ。率直に語ることでしか高見は目指せないことを知っているし、改善すべき点を指摘されることにも慣れている。
確かに俺はMMAチャンピオンだ。組技の練習も沢山してきたから筋肉量も多いし、体幹やバランス能力にも当然自信がある。サッカー選手はぶつかり合うトレーニングをメインでは行っていないだろうから、まあ彼らに比べれば強いのは確かかもしれない。
「でもフィジカルを生かすって、どういうプレーをすれば良いんだい?」
俺には具体的にどういったプレーをすれば良いのかイマイチイメージが出来ていなかった。
俺は身長183センチだから日本人としてはそこそこデカい方だけれど、ヨーロッパやアフリカの選手たちと比べると平均以下だ。空中戦で勝てるかというとそんなに簡単ではないだろう。
じゃあ前線からの守備ではフィジカルを生かして貢献出来るだろうか? 確かに守備で身体をぶつけるようなシーンがあれば負けない自信はある。そういう局面になれば相手のバランスを崩してボールを奪うことも出来るはずだ。だが実際はそんなに簡単じゃない。ボールを保持している相手に接触するシーンがそもそも作れないのだ。
クリポナの言うフィジカルを生かしたプレーというのは何を指すのだろうか?
「まあ色々あると思うけど、一番大事なのはポストプレーさ! ゲイトはポストプレーを磨くべきだな!」
「ポストプレーねぇ……」
ポストプレーとは前線で楔(ポスト)となってパスを受けてボールをキープし、上がってくる味方に落とす(バックパス)という感じだろうか。サッカーだけでなくバスケなど他のスポーツでも使う用語だ。
その後、しばらくクリポナは俺にポストプレーの重要性、具体的なやり方などを熱心にアドバイスしてくれた。
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