第14話:領都到着

 数日が立ち、一行は目的地である領都へたどり着いた。

 領都は領主がいる町というだけあり、シンシアが知るどの町よりも――二つの町以外はまともに知らないが――大きかった。

 門の前では馬車が幾つも並んでおり、その列から少し離れた場所へ一度停止する。


「少々お待ちくださいね。番兵へ使いを出してますので、すぐに町中へ入れますよ」


 馬車の窓から外を眺めていたシンシアはその景色すら楽しんで、町中へ何事もなく入っていく。


「さて、まずは宿へ向かいます。そのあとは私も仕事のため別行動となりますが、人を付けますので何かあればそちらへ言ってください」

「わかりました」

「滞在期間は余裕を持ってますので、まずは町中を見てくるといいでしょう。お金は大丈夫ですか? 彼からは問題ないと聞いてますが、必要であれば用意しますよ」

「ありがとうございます。お金は大丈夫、だと思います」


 シンシアが貯めたお金は結構な額になっている。命がけで集めたと思えば安いかもしれないが、少女一人で集めた金額と思えば余りある。ちょっとした買い物程度ならもちろん、一月ぐらいならばシンシア一人でもこの町で生活できる程度のお金を所持している。

 実家に残してきた分を含めれば下手な大人の収入すら上回る。お金の心配はしていなかった。

 シンシアが心配していているのは、メイの父親についてだった。

 メイの記憶を覗いても、父親についてはあまり記憶に残っていない。昔に出ていったっきり戻ってこない人。時折仕送りはしてくれていたが、最近には途切れ途切れになっていた。

 はたして助けを求めても助けてもらえるのだろうか。そもそも会うことはできるのだろうか。

 兵士をやっているということだけは聞いてきたため、まずはそこから当たる必要があるだろう。


 宿に到着した後、いったん疲れを取ろうとケイリムに提案され、シンシアは用意された部屋に通された。

 ケイリムはどこか宿を出て行ったため、疲れたというのはシンシアを気遣った方便だった。


「……ここからどうしようかな」


 シンシアには幾つか選択肢があった。

 一つ目はメイの目的のためにメイの父親の元へ向かうこと。助けてもらえるかどうかは賭けになるかもしれないが、唯一の方法でもある。問題はどこにいて何をしているのか知らないこと。

 二つ目は、シンシアとしての目的を果たすこと。運よく領都までこれたのだから、憎き兵士を探し出し復讐を果たしたい。あれだけ兵士を動かしていたのだから、領主が動かしたのだろうという推測をセリウスから聞かされていた。ならば、領都にいる可能性が高い。

 三つ目はハンター組合へ行くこと。この選択肢は賭けになるが、リターンが大きな賭けでもあった。ハンター組合に行けばハンターがいる。彼らをシンシアが持っているお金で雇えればこの町で動くうえでやりやすくなるはずだった。

 ケイリムには知られずに動かせる人手があるのは都合がよいのと同時に、シンシアが魔物だとばれた後の動きに大きく制限が掛けられることになる。目撃者を増やすどころか、追ってくる予定の人々に姿をさらすことになるのだから。


 少しの間考えた結果、ハンター組合に行くことにした。

 リスクよりリターンが合うということもあるし、何よりも――予め敵となるかもしれない人たちを見ておきたかった。

 シンシアは真向から戦ったことがまだ少ない。訓練はしたが、実際自分がどれほど強いのかはさっぱりわからない。それなら少しでも知っておいた方が動きやすい、はずだと考えていた。

 そうしようと今後の行動方針を決めたが、部屋を出る直前、シンシアの足が止まる。


 当然と言えば当然。しかし、すっかり忘れてしまっていたこと。シンシアは、この町の土地勘が全くなかった。

 結局、ケイリムが用意してくれていた案内人にお世話になることになった。微笑ましい顔を向けられ、少しだけシンシアの頬はむくれた。


「この町では鍛冶が盛んでしてね。そこらかしこに鍛冶屋があるのですよ」


 宿の外に出て、宿屋が集まる区域を抜けると熱気が変わる。

 打ち付けられる金属の音、ところかしこの屋根から立ち上がる煙に、見るからに戦士という風体の男たち。時々女性もいるが、全体の人数と比べてはるかに少ない。


「シンシアさんが外を出歩かれるときには、どうか私かケイリム様にお声かけください。鋼鉄と武器の町だけあって、血気盛んな人々が多いのです。決して子供一人では出歩かぬようお願いしますね」


 もしもシンシアに手を出すような奴がいれば、逆に大変な目に遭うのだが、シンシアも問題を起こしたいわけではない。

 むしろ用事を済ませるまでは大人しくしたい。

 メイの中身が魔物シンシアだとバレた後でメイの父親に助けを求めても碌なことにはならないのは簡単にわかること。もしもシンシアの目的の兵士たちを見つけたとして、暴れるのは後回しにせざるを得ない。

 ここでシンシアは気が付かない。自分が暴れた場合、敵対する戦士がいるのに全く恐れていないことに。どれだけ強い武器を持っていようと、どれだけ筋骨隆々であろうと、今のシンシアは全く気にしていない。いずれ戦うかもしれないとしか、認識できていないことに。


 案内人によって町の比較的治安のよい部分を、途中買い食いなどもしつつ回っていると、シンシアの目的だった場所が視界に入る。

 ハンター組合だろう建物、というか看板にそう書いてある。

 シンシアは案内人に少し見ていきたい旨を伝え、渋られつつも説得を繰り返し何とか時間制限付きで入ることを許された。

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