異世界ライフは楽しむものです~俺は世界を超越する~
SOMEONE
第1話 電車に吹っ飛ばされ…なかった?
―とある駅構内
ザーザーと降る雨は屋根に打ち付けられ、無邪気な子供のように流れ落ちてくる。そんな空気を読まない雨が僕は嫌いだ。本当は明日降る予定だったのだが今日に前倒しされたらしい。
今日は彼女との初デートのはずだった。しかしこの雨で電車が止まってしまい、デートは中止になった。こういう肝心な時に限って予想外のことが前をふさいでくる。緊張しすぎて待ち合わせ場所に一時間前にきた俺の気持ちを、神は一度でも考えたことがいるのだろうか。はー、と大きなため息をつくと駅のチャイムが鳴った。
〈間もなく 電車が到着いたします 危険ですので 黄色い線の内側に お下がりください〉
機嫌の悪い時に何度も聞いた音声を聞くと、うるせーって言いたくなる。
電車が駅構内に入ってくると、とてもうるさくなり風が吹いてくる。いつもは心地いいだけの風なのだが、今日は雨も連れ込んできた。
うわっと後ろに下がると、後ろから電車とは別の音が聞こえた。気が付けば列の先頭にいるはずの俺の前に高校生くらいの女の子が線路に向かって走っているのが見えた。
は? と一瞬思考が止まったのだが、おれは無意識に飛び出していた。おい、と声をかけたがもう遅かった。俺は飛び出し、彼女の腕をつかみ、思いっきり駅のほうに引き戻した。がしかし、もちろん俺はその反動で線路のほうに出てしまった。ふと横を見ると、目と鼻に先に強烈な光が目に入り大きなクラクションの音が聞こえた。
恐怖で声も出ない。
俺の人生に終止符が打たれようとした途端、突然周りの景色と俺の動きがスローモーションのようになりついにはこの世の時間が止まってしまった。頭で考えることはできるのだが、周りも自分も動けないこの異常な空間に理解が追い付かない。
一回落ち着こうと状況を整理しようとすると、どこからか声が聞こえた。
『おーい、大丈夫か』
『あなたにはこれがだいじょうぶに見えますか』
『見えなーい』
『今日はいい天気ですね』
と答えると、ハハッと陽気な笑い声が聞こえた。さっきはつい反射で答えたしまったが、時が止まって突然声が聞こえるとか恐怖以外の何物でもない。よくわからないことが多すぎて今日はいい天気ですね、なんていってしまった。
雨だし。普通にハズイ。
とりあえずいろんなことはすべて飲み込んで最低限のことを整理したい。俺にはよくわからないのだが口を動かすことはできずとも声を出そうと思えば頭から声が出る?らしい。
『あの、あなたは何者なんですか?』
こんな状況に直面したらどんな人でも考えるであろうことを聞いた。
『えーと、名前はγ《ガンマ》って言いうんだけど…君たちの言う神のようなものかな?』
へーそうなんだ…ってなるか‼いやいや何トンでも発言そうめん流すみたいなテンションで言っちゃってんの⁉ 確かにこんな時止めるなんて所業、神にしか出来ないだろうけどさ。
俺はすみません、と切り出す。
『人って死ぬ前みんな貴方に会うものなんですか?』
『いぃや、そんなことないよ』
益々はてなが増える。
『じゃぁなんで、』
まだ疑問しか投げかけてないのだが、自称神は答えた。
『君がかわいそうだと思ったから』
え?なんか勝手に可哀想がられてるんですけど私。
だってさ、と神。
『デートがぶっつぶれた挙句、女の子助けて死ぬとか、、ホント、、アハハッww』
『あんた絶対馬鹿にしてんだろうがおい!』
あいつ人の恋を踏みにじりやがったぞ。始めかわいそう感出して笑うのやめて?
『めんごめんご。』
真面目に謝れや。
だから、と神が言う。
『助けてあげようと思って』
は?助けるってどうやって?
『同情したってこと?』
俺がむかつき気味に聞き返すと神は、違うよぉと言った。
『君は2つの選択肢を持ってる』
突然の言葉に意味が分からず聞き返そうとすると神に一回最後まで聞いてと言われ、のどまで上がった言葉を飲み込んだ。
『一つ目はこの人生を最後まで全うして死ぬ。二つ目は……ほかの世界に転生する』
『てっ…』
『しーー』
『……』
転生という言葉に思わず反応してしまい、抑えられた。
『君は転生になじみがないと思うから説明する。人に限らず万物には命が宿り、いずれはろうそくの火のように消える。輪廻転生という言葉があるだろう。命は消えたとしても魂はずっと残り続けるのさ』
本当にこの人はいきなり何の話をしているんだ。もし今の話が全て本当なら衝撃の事実だ。人が絶対にたどり着くことのないであろう疑問の答えをきいた。
『そしてその魂に新たな命を吹き込むのが僕らの仕事なんだ。』
で、こっからが大事だと神は言う。
事実かも疑わしい話だが最後まで聞くことにした。
『それが普通の転生。でも君の転生は少し毛色が違う。今僕はこの世界に無理やり干渉して君と話している。それと同じように僕が君が死ぬ前に君の魂を抜き取ってほかの命に接続するんだ。本当はあまり僕のような存在が世界に干渉することはいけないこと。でもそれを実行するんだから世界の法則にバグが生じちゃうんだ。そのバグっていうのが記憶が受け継がれるってことなんだよ。普通はリセットされるんだけどね。だから簡潔に説明すると…』
一拍あけて神は続けた。
『普通の道を選ぶか、イレギュラーな道を選ぶかってこと』
すべて話し終えたのか、神は大きくため息をついた。
なんか信憑性のありそうな話をすらすら早口で言われ、一回乗ってみるかと思った。こんな嘘つく必要もないし、今時が止まっていることも考えればな。
だとするのならば俺はもう決めた。即決だ。だってまだお酒も飲めない年なんだぞ。もちろん…
『俺は転生する!』
そっか、、と神が軽い口調で答える。イレギュラーだが何だろうがやってやるよ。
『じゃあ1から100の内で好きな数字選んで』
いきなり数字あてゲームが始まったんだが…
『えっと、なんのため?』
『転生先の候補は100個あるからね』
100?
あぁ、まだ説明してなかったか。と面倒くさそうに神は言う。
『僕はこう見えても100個の世界を管理するものだからね。転生先もこの中から選ぶんだよ。で、、どこにするか決めるあみだくじ』
いや、声しか聞こえないから貴方の顔は拝めてませんし、こう見えてもと言われましても…まぁ大体想像できるけどね。
『そういうのって自分がやっていいものなの?』
『いや、いつもは集まる魂をオートに振り分けてるのを監視してるだけだけど、今回は僕の独断だからね。どうせなら君にやってもらおうと思って』
あぁ理解理解。もう一回地球を引く可能性もあるわけだ。
じゃあ…
『6で』
6,完全数。素晴らしい数だと思わないか?まぁそんなことはどうでもいいのだが。
6か…と神は意味深っぽく言い、細く笑う。
『面白い所を引いたね。この世界は今までの常識が全く通じないと思うよ』
常識が通じないって戦争でも起こっているのだろうか?
『どう通じないんだ?』
『それは転生後のお楽しみだ。まぁしいて言うなら…物理法則が通じないとか』
いやいやもうそれ世界って言っていいの?天国かなんかですか?
『それって大丈夫なの?』
と聞くと陽気な返事が返ってきた。
『ぜーんぜん大丈夫ダイジョブ!君にとっては面白いと思うよ。ほぼファンタジーだからね』
大丈夫か、、よくよく考えれば今起こってること全部ファンタジーじゃん。そう思えばなんだかおもしろくなってきた。
無意識に笑っていたのか、神が不思議そうに聞いてきた。
『何笑ってんの』
いや、何でもないよ。ただ…
『人生分からんなーと思って』
『そっか…そんな面白いなら僕も人間やってみたいな』
なんて答えた神だが、俺はあんまりお勧めしないな。今の地球は腐ってる。
経済も環境も世界情勢も。でも唯一心残りがあるとするならば…
『一つお願いできるか?』
『出来ることなら』
『家族と友達に別れの言葉送れないかな?』
家族とはもう会えないんだ出来るなら別れの一つは言いたい。でも答えは残酷だ。
『ごめん。それは無理だな』
そっか、そりゃそうだよな。母さんも死んだ息子から手紙が来たら恐怖だわ。
寂しいが心を決める時が来た。
『心の準備はいいかな?』
あぁ、もう思い残すことはない。第2の人生を思いっきり楽しんでやるだけだ。
『オッケー』
『じゃあ行くよ、あ。次死んでも助けられないからね。』
俺を何だと思ってるんだこいつは。
『わぁってるよ。さぁ、やってくれ』
よく分からずとんとんと進んでしまった話だが、改めてこの状況に驚く。
ほんと、笑うしかないよな。
心を落ち着かせると、周りの喧騒がもどった。
「じゃあな」
誰に言ったのかも分からず、誰にも聞こえることはない別れの言葉が、口から漏れ出てきた。
覚悟はできたつもりだけどやはり寂しいものは寂しい。
もしあの話が全部嘘だったら一生呪ってやるわ。
目からあふれ出した涙に雨水がぶつかったとき、俺の意識は延々と続く闇の中に放り出された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます