002_出会い

冒険者にクエストを斡旋するギルド。そこで今日も俺は受注するクエストを探していた。


それはいつもと変わらない、冒険者の日常だ。




「いいクエストはあった?」


クエストが張り出されている掲示板の前でクエストを吟味している俺に話しかけてきたのは妹のサーシャだった。




「良さそうなのは、これかな」


俺が指さしたのは、ゴブリンの群れの討伐だった。




冒険者にはランクがあり、俺達はまだ駆け出しだ。上級者向けのクエストは受注できない。よって受けられるクエストは必然的に限られる。


ゴブリンの討伐は駆け出しの冒険者が受注するクエストでは一般的なものであり、危険度も低い。




「これ四人っていう人数制限があるから、人を集めないと受注できないよ」


それを見たサーシャは問題点を指摘してきた。




俺も気が付いてはいたが、このゴブリン討伐には人数制限が付けられていた。どうやら、普通のゴブリン討伐と違って相手の数が多いようで、その対策として人数制限が設けられていた。


クエストを発注する側のギルドとしても、クエストを達成できないような冒険者にクエストを受注されるのは望むところではない。


その対応の一つがランク性による受注制限であり、さらにランク内でも人数によって受注制限が科される事がある。




人数を集めてクエストを受注する場合は、報酬は人数で割る事になる。反対に一人でクエストを受ければ報酬は総取りとなる。実入りを考えればパーティー人数は少なければ少ない方が良い。


しかし、自身の力量を超えたクエストを受けて失敗する冒険者が多かったため人数による制限を課せられる事がある。




加えて、今日初心者が受注できるクエストはこれしかなかった。


ギルドのクエストはいつも募集されている訳ではない。多い日もあれば少ない日もある。それに割の良いクエストというのは直ぐに受注されてしまう。




俺達のような駆け出しの冒険者はクエストを選んでいられるような状況ではない。受けられるクエストは片っ端から受けて早めにランクを上げたいところだ。


となるとクエストの同行者を集めるしかない。


俺とサーシャは冒険者仲間として一緒に行動することが多いが、残念ながらそれ以外の仲間は居ない。




とはいえ、クエストに応じて、一時的にパーティーを組む事は珍しくない。


生活の収入をギルドのクエスト報酬に頼っている以上、今日一日なにもしないという訳にはいかない。適当に人を集めてこのクエストを受けるために、俺は即席で仲間を組める冒険者を探すことにした。




 ●




ギルドの建物内には掲示板と受け付けがあるが、冒険者同士の待ち合わせをする事を考慮して、掲示板の近くには複数の机と椅子が設置されている。


そして今もまばらに冒険者が椅子に座って雑談に興じている。




俺達が受注しようとしているのは初心者用のクエストだ。上級者に声を掛けても相手にされないだろう。そうなると声を掛けるのは初心者だ。


冒険者のランクは身なりを見れば大方の想像は付く。


掲示板の一番近くにある机に、一組の男女が座っていた。




男の方は魔術師のようで、ある程度高そうな装備をしている。恐らくは上級者だろう。だが対面に座っている女性は斧をもっている事から恐らくは戦士だと思われるが、その斧は普通の鉄でできており、身に着けている鎧も革製だ。いずれも初心者向けの装備だ。




上級者と初心者が一緒に行く場合、初心者側に難易度を合わせる事になっている。むしろ上級者用のクエストに初心者を連れていくことは危険過ぎるためギルドが禁止している。


つまりあの二人が受注するとしたら初心者向けのクエストだ。




向こうが二人なら、こっちと合わせて丁度人数は四人になる。


これはチャンスかもしれない。俺はその二人に声を掛ける事にした。




「なあ、俺達とパーティーを組まないか」


話を聞いてくれそうな初心者の女性の方に声を掛ける。


「アタシ達とかい?」


女性の方の反応は悪くない。行けるかもしれないと一瞬思ったが、男の方は少し嫌そうな顔をしたように見えた。


「もしかして邪魔だったか?」


二人きりの方がよかったのだろうか。とは言っても、今初心者用のクエストはゴブリン討伐しかない。俺たちの誘いを断ったところで、今は他に受けるクエストは無い。それとも既に他の者との待ち合わせをしていたのだろうか。


「いや、アタシも組める相手を探していたんだ」


幸いにも、俺達以外の冒険者とあのゴブリンのクエストを受ける計画を立てていたわけでは無いようだ。




それよりも大事なのは今この女戦士はアタシ達ではなく、アタシと言ったように聞こえた。




「つれないですねぇ」


女戦士の言葉を聞いた男の方はそう言いながら苦笑いをしていた。今一話が見えないが、俺が話しかける前に一体どういう話をしていたのか。


「二人は知り合いじゃないのか?」


俺がこの女戦士にパーティーを組む目的で声を掛けたように、この男も何かの勧誘目的で女戦士に声を掛けていたというのだろうか。


「いや、この人とはさっき会ったばかりさ」


俺の予想通が当たっていたのだろうか。だとすると少し妙だ。今初心者が受けられるクエストはあのゴブリン討伐しかないが、四人必要だ。


あのクエストに行くつもりだとしたら、俺達で丁度四人になるため嫌な顔はしないはず。もしかすると単純にナンパ目的だろうか。




特に上級者が初心者に声を掛けるのはそういう目的である事が多い。報酬目的であるならば、上級者は上級者同士で行動するため、初心者とパーティーを組む必要が無い。


上級者にあまり喧嘩を売りたくはないがこっちにも生活がある。今日受注できそうなクエストはこれしかない。




こっちもここで引く訳にはいかない。


二人の事情にはあまり突っ込まずに、話を進める事にする。




「今ゴブリン討伐のクエストがあって、四人の人数制限があるんだ。俺達全員で丁度四人だ。どうだ?」


女の方は来てくれそうだが、男の方はどうだろうか。


「アタシは構わないよ。今日は他に行けそうなクエストがないみたいだしね」


案の定、女の方は乗り気のようだ。むしろこの女もあのクエストに目を付けていたようだ。




「四人というなら私は…」


女の方は乗り気のようだが、男の方は難色を示している。


「いいじゃないか、せっかくなんだから。そもそもアタシが初心者だって知っててそっちが声を掛けてきたんだろ?」


俺だけでなく、女もまた、男に対してクエストに同行するよう勧め始めた。


やはり男の方は最初から女と二人きりになるのが狙いだったのだろうか。




「俺からも頼みます。今日は他に受けれそうなクエストが無くて」


男は上級者のようだし、下手に出て頼み込む。


「やれやれ、仕方ないですね」


 嫌々と言った様子ではあるが、男の方からも了承を得る事ができた。


 一緒にクエストにいくとなれば、とりあえず自己紹介をしておこう。




「俺は盗賊のギャレット、こっちは魔術師のサーシャ。よろしくな」


とりあえず簡潔にジョブと名前を伝える。


「アタシはスーザン。戦士だ。アンタ達は知り合いかい?」


斧を持っている事から戦士だろうと思った俺の予想は当たっていたようだ。自己紹介のついでにスーザンが俺とサーシャの関係を尋ねてきた。




「ああ、兄弟だからな」


特に隠す事でも無い。俺は正直に血の繋がりがある事を明かす。


「確かに、顔は似てるね」


俺とサーシャは年が近い事もあり、顔が似ている事は良く言われる。


そして残った一人、男の魔術師が口を開いた。


「私はイアン。魔術師です」


 魔術師らしい杖を持ちローブを羽織っている事から予想はしていたがやはり魔術師だった。




「あんた、上級者だろう? わざわざ初心者向けのクエストに同行してもらっても良いのか?」


自分から初心者に声を掛けていた以上、こうなる事は分かっていたとは思うが一応聞いておこう。


「いや、私は初心者を見ると、つい手伝いたくなるだけですよ」


だとするとさっき抜けようとしたのは何だったのだろうか。やはりナンパ目的だったのを隠しているのか。


あまり深くは触れないでおこう。




 ●




必要な人数は揃ったが、報酬の分け前で揉めるというのは良くある話だ。特に即席で作ったパーティーに多い。


「じゃあ、とりあえずこの四人でクエストを受注して四人で報酬は四人で均等に分ける事でいいか?」


よって、クエストを受注する前にまずは分け前を決めるのは後々のトラブルを避けるためにも必ず必要になる。




「アタシはそれでいいよ」


スーザンからはすんなりと合意が貰えたが、イアンからは意外な答えが返って来た。


「いや、私は報酬は無くていいですよ」


報酬を多く要求する奴は多いが、要らないという奴は初めて見た。イアンは見たところ初心者ではない。てっきり腕前の違いから多めの要求を出してくるかと思っていたが逆の提案をしてきた。




「いいのか?」


思わず聞き返す。


「私はそこまで収入には困っていないんですよ。報酬は三人で分けて下さい」


最初の対応で何となく嫌な人かと思っていたが、もしかすると良い人だったのだろうか。あるいは、あの時嫌そうな顔をしていたのは気のせいか。


「俺は構わないが、サーシャとスーザンもそれでいいか?」


念のため二人の意思も確認する。


「私はそれでいいよ」


サーシャはすんなりと受け入れた。


「アタシもアンタがそういうなら、有難く貰っとくよ」


スーザンも拒否する意図は無いようだ。




「なら、受注は三人でしてきて下さい」


報酬を受け取らずに、ただクエストに付いてきて手伝うというならば、ギルドの手続きを省くというのはアリなのかもしれない。


クエストを受注していないのに、クエストに付いていくのは、冒険者を管理しているギルドからすれば問題がある行為なのかもしれないが、上級者が初心者の手伝いをするというのはそれほど珍しい事ではない。




「いや、これは四人用のクエストだ。三人じゃ受注できない」


だがこのクエストには人数の参加制限がある。イアン無しで受注する事はできない。


「そうですか、ならしょうがないですね」


何か違和感があった。だがこの時は、他に受けるクエストもなかったため、この四人でクエストに行く事を優先した。


イアンはただの気前の良い人という事で自分を納得させた。

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