ゴブリン
これで終わり……そう、ゴブリンの首を狩ろうとした俺だったが、そんな俺の首筋が突然チリチリと痛んだ。
分からない、分からない……が、なんとなく、嫌な予感がする。
嫌な予感を感じた俺は無理やり急停止し、思い切り後ろに避けた。
「……っく」
俺が後ろに下がった瞬間、森の中からもう一体のゴブリンが飛び出し、俺がいた場所にその手に持ったさび付いた剣を振り下ろした。
「……危なかった」
俺が首を狩ろうともう一歩踏み出していれば……逆に俺の首が狩られていた。間違いなく。
「ゴブ……」ギャッギャギャ!」
「仲間……ってことね」
そう言って、俺は改めてナイフを構えなおす。
飛び出したゴブリンを改めてみると、その姿は……なんというか、まさに完全戦闘モードと言ったところか。
おそらく木材とつたで作った鎧と盾に、手にはどこからか拾ってきただろう剣。
そして、頭には俺と同じく鍋を被ってる。
「……こいつ、なかなかやりそう」
少なくとも今までの余裕がある戦いは出来なさそう。
二体一だし……そう思っていたら、棍棒を持ってたゴブリンが逃げ出した。
「は?」
そう呆気にとられる俺に向かって、剣のゴブリンは切りかかってくる。
「ギャッ‼」
「っ……」
いけない、いけない……少し油断した。
俺は瞬間的に、お返しとばかりにナイフを振るったが……かすりもしない。
まあ、そうだ。リーチが違う。
けれども、ゴブリンとの距離を取ることは成功した。
……とりあえず、もう一体のゴブリンがどこに行ったのか警戒しなきゃいけないけど。
俺は、じりじりとゴブリンとの距離を測りながら、周りにも注意を張り巡らせる。
……けれど、気配は感じられなかった。
……どこに行ったんだ?
そんな俺の様子を見ていた剣のゴブリンは、もう一体のゴブリンの行方を探らせまいとでも言うかのように、連続して攻撃を浴びせてくる。
「ギャッ‼」
「とりあえず、目の前のこいつを仕留めよう」
そして、俺は目の前のゴブリンだけに意識を戻した。
……勝負は、まさに一瞬だった。
俺は、頭にかぶっていた鍋を外すと、剣のゴブリンめがけてぶん投げた。
「ギャっ⁉」
飛んでくる鍋に驚いている隙に、ゴブリンの視界から消えた俺はその首めがけて…ナイフを突き立てる。
その時だった。
「ギャッ‼」
俺の体は何かに吹き飛ばされ、ナイフは首を外れゴブリンの方に突き刺さる。
「ぐっ……」
「グギャっ!」
肉に突き刺さる感覚と共に、弾き飛ばされた俺は何が起こったのかとふらふらと頭を抑えながら立ち上がった。
見ればそこに立っていたのは剣のゴブリンを庇うようにして立つ、棍棒のゴブリンの姿だった。
「そうか、俺……こいつに吹き飛ばされたのか」
そう判断した俺は、ふと足元に転がる剣に気がついた。
さっき弾き飛ばされた時に、ゴブリンが持っていた剣も一緒に弾き飛ばされてしまったんだろう。
「次で仕留め……」
俺はそう言って剣を拾い上げた時、棍棒のゴブリンが剣のゴブリンを庇うように棍棒を構えた。
「ギャっ!」
「ゴブゴブっ‼」
「グ・・・・・・グギャア‼」
互いが互いを庇うようにして、俺の前に立ちふさがろうとするゴブリン達。
そんなゴブリン達を見てふと俺はつぶやいた。
「……何だよ、なんか俺が悪役みたいじゃん……」
じっと俺から目をそらさず、歯を食いしばるように立つ棍棒のゴブリンの姿を見た俺は、何故か無性に虚しくなり剣を持つ手から力が抜けた。
「白けた……」
「ゴブ?」
「安心して、もう俺には戦う気はないからさ……」
そう言うと、俺はその場に剣を置き……ちらりとゴブリンたちの姿を見てその場から去っていったのだった。
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