第81話 一駅目――存在価値
「ヨネ子ちゃんに保護される前、どんな人に雇用されてたの? クビにされて住む場所から追い出されて、野良エイリアンになりかけてたって聞いたけど」
「……随分ズケズケと聞いてくるわね、あんた」
「ごめん。でも気になって」
もう一口ココアを飲む。甘い香りが、ふわりと鼻から抜けていった。
「…………教育機関を修了した後、過激派側の組織に就職したの。トップクラスで卒業した優秀な私は、引く手あまただったけど、その中でも一番条件の良いところ……私の適正に最も合っている組織に振り分けられたわ」
「振り分け? 自分で就職先選ぶんじゃないんだ?」
「自主選択なんてするわけないでしょ。主観で適正に合ったところを選ぶのは難しい。だからレプレプの若者達は、振り分けられるのに任せるの」
「ふーん」
「……あんたが何考えてるのか分かるわよ……その後私が上手くいかなかったの知ってるんだから、当然よね」
フサ子さんの長いまつげが下がった。艷やかな目元に、車内照明が影を作っていた。
「なんでクビになっちゃったの?」
「上に楯突いたからよ。レプレプ社会は既存の序列にとても厳しい。私は下っ端のくせに、上の上の上の、そのまた上のやり方に、直接文句を言ってしまったから……今思えば当然の処遇よ」
溜息なのか嘲笑か、どちらとも取れる短い吐息。ブロンド美女の麗しい口元は口角を上げているが、笑顔とは程遠い表情である。
「楯突いたって、どうして?」
「……やり方が気に食わなかった。もっと適切なやり方があるって、主張したくて我慢できなかったのよ」
「何についてのやり方?」
「…………ふん。聞かなきゃ良かったって、後悔しても知らないからね」
「え?」
「きっとあんたにとっては、胸糞悪い話よ」
フサ子さんは一呼吸置いて、一瞬だけ私を直接見て、少しだけためらうような表情を浮かべる。
ガタンゴトンと電車は進む。
レプレプ星人は一息にこう答えた。
「時間球を効率よく排出しない地球人を、一斉除去する計画」
「え……? えー…………それって、えー……? 除去って」
「除去よ。文字通りの意味よ。要するに、あんたや秋月一馬のような地球人――時の加速に無関係な地球人を、まとめて消してしまおうって計画。私が所属していたレプレプのグループは、そんな計画を練っていた」
「な、なんでそんなこと」
「時間球を生み出さない人間なんて、存在する価値がないからよ」
「存在する価値がない?」
「時は至高のエネルギー。それを生み出せるから、レプレプにとって地球人は価値がある。支配下において徹底的に管理して、効率よくエネルギーを搾取したい。けれどどんなに社会を加速させる方向に動かしても、あんた達みたいに思い通りにエネルギーを出さない地球人がいるのよ。そういう地球人には存在価値なんてないの。むしろ邪魔なだけ。乳を出さずにエサだけ消費する雌牛、卵を産まない雌鶏と同じ」
一つ目の駅に電車が到着した。ドアの開閉音と、車掌のアナウンス。フサ子さんの言葉通り、私達のいるこの車両には、誰も乗り込んでこなかった。
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