第24話 テレパシー
「わあ。今日もいいお天気ですねぇ。気持ちいいなあ」
玄関を出て外気を吸い込みながら、八幡ちゃんは空を仰ぎ見ている。短い両腕をいっぱいに広げながら、満面の笑みだ。
「本当だね。綺麗な秋晴れ」
「
「あ、私も好きだな。秋の甘い匂い」
「金木犀って、お花の形も可愛らしいんですよね。落ちてきたのを手の中に沢山あつめて、紙吹雪みたいに宙に投げると、流星群のようでとても綺麗なんですよ。自分の上に降ってくる時、香りも一緒に落ちてくるんです。それが楽しくて」
「へえ。やったことないなあ。面白そうだね」
朗らかな言葉に裏はない。八幡ちゃんは、いつも素直に思ったことしか口にしないのだ。パカパカ星人が博愛主義的なエイリアンであるという話は、本当なのだろう。何気ない日常の景色や小さな季節の移ろいを見つけては、いつも彼は心から感嘆している。地球生活は長いようだし、初めてのことではないはずなのに。八幡ちゃんのこういった言葉で、私も身の回りのちょっとした小さな美しさを、改めて知るのだった。
「こんな日は空を飛びたくなりますね。というわけで悠里ちゃん、今日はボク、飛びながら学校まで行くことにします。途中で時間球を見つけたら、拾っておきますね」
この言葉の直後に、私の隣にいた小さな男の子の姿は消えた。その代わりに、すぐ横の塀の上に、一羽のハシブトガラスがちょこんと停まっていた。
「これ、八幡ちゃん?」
(そうです!)
カア! という烏の鳴き声と同時に、耳の奥に八幡ちゃんの高い声が流れ込んできた。この不思議な感覚には、まだちょっと慣れない――――八幡ちゃんは時々こんな風に、人間以外の動物に変身する。
動物になっている間、日本語での八幡ちゃんの声はテレパシーで送られてくるのだ。この仕組みもさっぱり理解できないが、テレパシーとは便利なものである。八幡ちゃんから私や秋月くんへの一方通行でしか使えないけど、距離の制限はない。だから烏の八幡ちゃんがどれだけ離れた上空を飛んでいたとしても、彼の声は私達の元まで届くのだ。
(それじゃあ、また後で!)
カアカア! と元気に鳴きながら、烏は虹色に輝く黒い翼を広げ、優雅に飛び立って行った。
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