第一章:屍病汚染

(1)

美桜みお、葵、緊急事態だから起きてッ‼ あと、職場の仮眠室をラブホ代りに使うなッ‼」

 最近、本格運用が始まった「異能レスキュー隊」の同僚であるアカリちゃんの怒鳴り声で目が醒めた。

「大した事してないよ。抱き合って寝てただけ……」

「2人とも疲れてたから、何もしない内に寝落ちしちゃった……てへっ♪」

「葵……あんた、高校ん時に『魔法少女』やってた頃から、随分、性格変ったね……」

「うん……これが、あたしの本当の性格。『皮肉屋でクール系の一匹狼』なんて、あたしの柄じゃなかった。顔がそれっぽく見えたから押し付けられてたテンプレ通りの単なる『役』。あ〜、あのクソ運営、皆殺しになって、本当に良かった……」

「人命救助が仕事のヤツの言うセリフじゃないよ、それ。あと、そんな時代遅れの萌えキャラみたいなのが、あんたが成りたかった自分かよッ?」

「え〜、アカリも、ここんとこ、時代遅れのオタ向けコンテンツの非実在風紀委員みたいになってるよ〜」

「いい加減にしろ。本日、0時1分時点で、あたしら『椿の魔女団カヴン∴オブ∴カメリア』のリーダーと副リーダーは、あんたら2人に変ったの。早く管理職の仕事をしろ」

「あ、そっか、じゃ、リーダーの命令。エナジードリンク2つ持って来て」

「わかった、持って来るから、あたしが出した申請書、審査・承認しといて。すぐに、だけど、ちゃんと内容を確認して」

 まだ、実験運用中の、あたし達「異能レスキュー隊」は、元々は俗に言う「正義の味方」の人命救助部門だったが、今、独立した新しい組織になろうとしている。

 ちなみに「実験運用中」と言うのは、組織運営でも試験的・実験的な事を色々とやってる、って意味だ。

 本当は「正義の味方」達のネットワークでもやりたい事だったらしいけど、「正義の味方」達の他のルールや制約……例えば、仲間であっても他チームのメンバーの個人情報を知るのはNGで、身元を公開するなんて論外、とか……のせいで出来なかった事を、片っ端から「異能レスキュー隊」で試してる感じだ。

 最終的には「ヒーロー」として世間一般に売り出すのは戦闘部隊である「正義の味方」ではなく、あたし達「異能レスキュー隊」にする計画も有るらしい。

 で、そんな実験的組織運営の中に、チームの風通しを良くする為の事が2つ有る。

 1つは、リーダーと副リーダーはメンバーの持ち回りで定期的に交代する事。

 もう1つは……。

「何、これ、どうなってんの?」

 アカリちゃんが出した申請を見て、葵ちゃんが怪訝そうな表情かおになる。

 そこに、アカリちゃんがエナジードリンクの缶を3つ持って戻って来た。

「どう言う事、これ? 他チームに出向中のメンバーを全員呼び戻す、って?」

 チームの風通しを良くする為の方策、もう1つ。

 チーム・メンバーの誰かが、定期的に他チームに出向して、代りに、あたし達のチームは、他チームからの出向者を受け入れる。

「人手が要る事だけは予想出来るけど、状況が判明するまで、どんだけの大事おおごとになるか、全く不明。まずは、状況把握に必要なのは『気配を探る』系の『魔法』が得意な奴。なので、太宰府の『梅花の神官プリースツ・オブ・プラム』に出向中のりん達を呼び戻す。さっき、電話で叩き起して、もう、こっちに向かってもらってる。あとは、あんた達が正式承認すれば、手続完了」

「もう1つの申請……こっちの方が、洒落になんないんだけど……。何?『水城みすき』の対NBC装備と除染装備を緊急手配って? 化学兵器ケミカル病原体バイオ? まさか、放射性廃棄物でも撒き散らした馬鹿が居たの?」

「地元の警察署と連絡が取れなくなった。テロとか犯罪とかかまでは不明だけど……多分、原因は、病原体バイオ。おそらく非『魔法』系の。警察署内に居た人達は全滅の可能性大だけど、詳細確認は、これから。わかった?」

 やれやれ……冗談みたいな事態にも程が有る。

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